
超指向性のラージ・カプセルと
単一指向性のスモール・カプセルを搭載
DX-2は、“楽器向けのデュアル・カプセル・バリアブル・ダイナミック・マイク”と銘打たれた一本。あまり耳にしない言葉ですが、簡単に言うと1つの筐体に2つのカプセルを搭載し、各カプセルの音のブレンド・バランスを調整することで好みの音が作れるダイナミック・マイクです。採用されているカプセルは、下が超指向性のラージ・カプセル、上が単一指向性のスモール・カプセル。ラージの方は温かみがありレンジが広く、スモールの方は中域と高域のディテールが強調されたキャラクターとのことです。これら2つのブレンド具合は、本体のツマミで設定することができます。
このツマミは背面にあり、逆側の正面(上の写真)から音を収める形です。スタンドへのセッティングはもちろん、ギター・アンプの上方からケーブルでつるして設置できるよう、正面はフラットな形状になっています。SENNHEISER E906などと同じ感じですね。サイズは43(φ)×156(H)mmで、重量は204g。SHURE SM57よりやや太めで長さはほぼ同じ、重さは2/3くらいです。周波数特性は50Hz〜14kHzとなっており、インピーダンスは400Ω(ラージ・カプセル)/600Ω(スモール・カプセル)とやや高め。出力端子は3ピンのXLRです。

先述の通りDX-2は楽器全般に向けていて、周波数特性や形状を考えると、ギター・アンプやキーボード・アンプにフォーカスした製品だと思います。ギター・アンプにマイクを2本立ててブレンドするのはポピュラーな手法ですが、立てる位置によっては位相ズレが起こったり、アンプの前がスタンドでゴチャゴチャするなど弊害も多いです。その点DX-2は、スピーカー・ユニットの前につるっと垂らせばセッティング完了で、スタンドは必要無し(画面①)。また、各ユニットがソースから等距離に位置することになるため、位相ズレも起こらず簡単に使えます。
近接効果による低域の膨らみが出にくく
前に出て来るサウンド
それでは音質のチェックです。比較用マイクとしてSM57を用意し、プリアンプのSHEP/NEVE 31105を通してAVID Pro Tools|HDに録音します。ソースはギター・アンプを使用。ギターはFENDER Stratocaster、アンプはKOCH Twintone IIを使い、クリーンとひずみの録り音を比べてみたいと思います。
まずクリーン・トーンを収めたときのラージ・カプセルの音質傾向は、高域のジャリつき方がSM57に似ており、低域は締まって固め。スモール・カプセルは200〜500Hz辺りと7kHzにピークがあり、ギターの太い部分とギラっとした部分を押し出したようなサウンドです。ブレンド・ツマミをどちらのカプセルに振り切っても、アンプにベタ付けで使うことが想定されているからか、近接効果による低域の膨らみは希薄。特性グラフによるとSM57よりも低域が出るはずなのですが、同じ位置に立てて録音するとSM57よりも低域が少ない印象です。アンプから15cmくらい離してセッティングしたような音でした。
ひずみ系のギター録りでは、ラージはモダンでメタリックな音、スモールは歯切れの良いハード・ロックに聴こえます。ラージからスモールの方へツマミを回していくと、EQをかけたかのようにサウンドが中域へと寄っていく感じがあります。どちらのカプセルの音もギュッと詰まっていて前に来るサウンドなので、打ち込みのオケに混ぜるような現代的なシチュエーションで使いやすいと思います。
DX-2は、アマチュア・ミュージシャンが何の予備知識も無しに使うと、マイキングのアラが反映されやすいマイクだと感じます。ただし“アンプにベタ付け”が前提なので、そのセッティングであれば間違いなくギターらしい音を録ることが可能。また、各カプセルのキャラクターがエレキギターのEQ処理を踏まえたものなので、好みに合わせてツマミを回すだけで欲しいサウンドに近付けられると思います。音質の違うマイク2本をブレンドして音作りするテクニックは、スティーヴ・アルビニなどが常に行っており今や基本技になっています。ただしセッティングが難しいため、やや敷居が高いのも確か。DX-2はそれが瞬時にできてしまう、おいしいマイクと言えるでしょう!


撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年6月号より)