
三味線特有の響きや共鳴音まで再現
20種類以上の奏法を収録
Tsugaru Shamisenに収録されているサンプルは、津軽三味線奏者の山中信人氏によるパワフルな演奏を、こだわりのマルチマイクで余すところなく録音したもの。レコーディング時のビット/サンプリング・レートは24ビット/96kHzで、ソフトへの収録レートは24ビット/44.1kHz、総容量は約7GBです。ベロシティ・レイヤーは5段階、ラウンド・ロビンは12種類(各ピッチのサンプルを12種類ずつ収録)となっています。
チューニングは、二上がり/本調子/三下がりの3種類から選択する仕様。弦ごとのボリュームやファイン・チューンの調整、“さわり”や共鳴音、ミュート・ノイズの音量コントロールなどはGUI上のノブで行えます。“さわり”とは、三味線に付いている余韻をコントロールするための装置のことで、それによって得られる独特の響きも指しています。またダイレクト(オン)/オーバーヘッド/ルームの各マイクとそれらのステレオ・ミックスの音量バランスも変更可。三味線は単音での演奏が基本ということで、リアリティを追求するSingleモード(モノフォニック)とコードを鳴らせるPolyモードの切り替えも行えます。そして、各コントロール・ノブが三味線の糸巻き(ギターで言うところのペグ)を頭から見たようなデザインになっており、粋な演出にニヤリとしました(画面①)。演奏面に関しては、20種類以上の奏法に加え、即興演奏やワンショットなどを収めた5バンクのフレーズ・サンプルも用意。かけ声やスライド・ノイズまで収録されています。

独自の仕様としては、任意の弦を指定し、独立して発音させることができる“ストリングス・モード・メカニズム”が挙げられます。各弦を独立した楽器としてとらえる仕組みですね。演奏する弦はキー・スイッチで切り替えられるので、3本の弦を行き来した本物に近い演奏が行えます。また、左手の指で弦を弾く“はじき”と呼ばれる奏法がキーボードのレガート演奏により瞬時に実現。ダウン/アップ・ストロークの連続したバチさばきも実用レベルで再現され、オルタネイトで弾いている感じが無理なく出せます。このオルタネイトの機能はサステイン・ペダル(外付け)を踏んでいるときに有効となり、鍵盤を押すとダウン(打ち)、放したらアップ(スクイ)となります。
ヌケの良いサウンドで
ポップ・ミュージックでも役立ちそう
実際に音を出してみると、バッチリど真ん中の津軽三味線の音。エネルギッシュなアタックが気持ち良く、“さわり”の効いた余韻も痛快です。キー・スイッチによるコントロール機能を活用すれば、かなり良いサウンドができるでしょう。津軽三味線という希少価値とクオリティの高さを兼ね備えながら、この価格というのはなかなかのコスト・パフォーマンスかと思います。
Tsugaru Shamisenは、民謡はもちろん、サウンドトラックやロック、クラブ・ミュージック、現代音楽など、さまざまな音楽でフィーチャーできそうです。三味線でよく耳にするスケールは、ロックなどで多用するペンタトニック・スケールと非常に相性が良いと思うので、ギター・リフをTsugaru Shamisenの音に置き換えてみたり、ほかの楽器との掛け合いを作ってみると面白いでしょう。また“こんなフレーズがあったらクラブ・ミュージックのネタにしたい”というのをTsugaru Shamisenで作ってみるなど、使い方のアイディアが膨らみますね。
とにかく開放的でヌケの良い音がするTsugaru Shamisen。演奏もしやすく、まさに実用的な音源だと思います。従来の三味線音源では表現し切れなかった部分もクリアされているので、津軽三味線をフィーチャーした楽曲制作のオファーがあっても、心強い味方になってくれそうで安心です!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年6月号より)