
独自のHEDDブリッジ・システムを採用し
拡張モジュールで多くの入力方式に対応
Type 30は水平に配置された7インチのウーファーが2つ、4インチのミッドレンジ・ユニット、2インチのリボン・ツィーターで構成される3ウェイ/4スピーカー仕様です。キャビネットは硬質ユニボディ・タイプでしっとりとした触感のラバー仕上げになっており、とても高級感があります。表面がマット加工されているので傷も目立たないでしょう。そしてフロントのロゴ下のLEDでは、オーバーロードや電源のスタンバイ状態、後述する拡張モジュールのシンク状態を確認できます。パワー・アンプにはデンマークのICEPOWER製クラスDアンプ(300W)を4つ内蔵。周波数特性は32Hz〜50kHzとなっています。本体は横置きでずっしりと22.8kgもあるので、たまたまスタジオに来ていた知り合いのエンジニアに手伝ってもらい、1本のType 30をスピーカー・スタンド2つ分にまたがせる形で設置しました。
リア側にある入力は一般的なXLRに加え、このクラスには珍しいRCAピンのアンバランス入力端子を搭載。さらに“HEDDブリッジ・システム”と呼ばれる独自の拡張ポートがあり、ここにオプションのモジュールを追加することによってDante、AES3/EBU、Ravenna/AES67、Bluetooth、USB 2.0などのさまざまな入力方式にも対応できます。
そのほかには、GAIN(−30dB〜+6dB)のつまみと、LOW SHELF(200Hz以下)とHIGH SHELF(2kHz以上)をそれぞれ±4dBずつ調整できるつまみが付いているので、スピーカーの設置環境に合わせて微調整が可能です。
クセの無いHEDD AMTツィーター
音の分離が良いミッドレンジ・ユニット
本機の見た目で特徴的なのがHEDD AMTと呼ばれる独自のリボン・ツィーターでしょう。50kHzまで再生可能な特性を持っていて、聴いた感じは非常に透明感があり、音に硬さの無いリボン特有のテイストを持っています。今まで聴いたことのある他社のリボン・ツィーターは、奇麗で伸びやかだけれども、トランジェント感にクセのある印象でした。しかし、Type 30はモニターしやすいクセの無い音を再生してくれます。指向性はやや鋭く感じたので、リスニング・ポイントはいろいろ試した方が良さそうですね。
また、非常にスピード感のあるミッドレンジ・ユニットが良い仕事をしていると感じました。ドラムのアタック感をうまく再生していて分離が良く、リバーブの奥行きも見えやすいです。ミックスでのボーカル・バランスも分かりやすいでしょう。
ウーファーは大きなバスレフ・ポートが前面に2つあり、いかにもローがブンブン鳴りそうな感じですが、良い意味で見た目とは違う、うまくまとまったローエンドを再生してくれました。キックやベースのつながり具合が自然な感じで、制動力が高そうな音をしています。
全体的な音の評価として、モニターとしてのバランス感がうまく取れた製品だと思いました。上から下の帯域まで奇麗につながった音像で、“無理に出している”感が無く、伸びやかかつリッチに原音を再生してくれます。また、シビアにディテールを再生するので、いろんな“アラ”が見えてくるモニター・スピーカーです。音の良いスピーカーにありがちな、“良すぎてだまされる”傾向……つまり、“ミックスして家に持ち帰り、自宅のスピーカーで聴いたらがっかり”というようなことは無いだろうと感じました。特筆すべきなのは小さな音量でもバランスを崩さず、ちゃんと鳴ってくれる点。これはミキシングで大きなアドバンテージとなるでしょう。人によっては300Hz辺りが若干あっさりした感じに聴こえるかもしれませんが、だまされる感じが無いのはむしろこの帯域がうまく処理されていることの表れかもしれません。
Type 30は、パッと聴いただけでも“これいいね!”と言ってしまう好印象なスピーカーです。サイズ的には商業スタジオに適したモデルと言えるかもしれませんが、小さな音量でもよく鳴ってくれるので、しっかり低域も再生してほしいスピーカーを探している方は候補に挙げてみてはいかがでしょうか。

撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年5月号より)