
視覚的に分かりやすいGUIを採用
サンプル総容量は44.4GB
今や、サウンドトラック音源制作メーカーの中ではトップ・クラスと言えSPITFIRE AUDIOの製品を、私が初めて導入したのはかなり前になるのですが、そのころからクオリティは折り紙付き。2017年現在でもそのハイクオリティな質感を維持し、世界中の音楽クリエイターから絶大なる支持を得るまでに成長したメーカーです。音源監修にもトップ・クラスのクリエイター陣をキャストし、ユーザーからの絶対的な信頼を得ている最大の理由もそこにあると思います。
Albionシリーズ5作目となった今作は、今までの流れ通りNATIVE INSTRUMENTS Kontakt 5 Playerで動作する音源になっており、演奏が視覚的にとても分かりやすいGUIで構築されています。サンプル総容量は44.4GB。現代的な音源としては比較的手軽な容量ではないでしょうか。できるのであればサンプルの保存と読み込みはSSDで行いたいところですね。
メーカー側の意図としては“北欧の氷河からインスパイアされた、森の香りがするような、孤独と静けさを思い起こすような地球の音をオーケストラで構築したコンポーザー・ツール”とうたっていることもあり、収録サウンドもやみくもにいろいろなアーティキュレーションを収録するのではなく、かなり厳選しサウンド・マッピングされている印象です。
オーケストラ〜シンセ的サウンドまで
世界観の深さが別次元のクオリティ
早速、実際のセッションでTundraを使用してみました。いわゆるオーケストラ・サウンドは、ビオラを外して集音したというストリングス“Icy Strings”、コーラスを意識したというブラス&ウィンズ“WhisperinG Chorusses Of Brass & Wind”が収録されており、どの楽器もかなり丁寧に録音している印象。録音はロンドンのエア・スタジオで、100名ものミュージシャンにより行われたそうです。サウンドが立ち上がるアタック音から、音の消えゆく余韻のリリースまで、息をのむようなクオリティのサウンドとなっています。
またVral Gridという音色モードは、リード音を多様に変化するグラニュラー・アーティキュレーションとして録音されたものを、32種類のパターンと12個の音域に広げ、グリッド内のボタンをクリックすることでパターンがランダムにアサインされ、無限にテキスチャーを作り出すことができるというもの。言葉で説明するのは難しいのですが、かなり手軽にクリエイティブでランダマイズに濃密なサウンドを作り出せます(画面①)。

そのほか、過去のAlbionシリーズにも搭載されていたオーケストラ・サウンドにマッチするハイブリット・シンセ“Stephenson's Steam Band”も、今作では新たなアプローチで搭載。さらにシネマティック・パーカッション・ライブラリー“Darwin Percussion Ensemble”やループ集“Brunel Loops”も引き続き用意されています。
大変恐縮ながら、良い音源とは“2音だけ和音を鳴らしたときに独特の世界観が構築される”という、プロの現場仕事を重ねた上の筆者の持論があります。Tundraの収録サウンドはまさにそれで、オーケストラ・サウンドもアンビエント色が強いシンセ的なサウンドも、世界観の深さはほかの音源と比べても別次元と言えるほどのクオリティがあります。間違っても“アタック感が鋭いサウンド”や“バキバキのリズム・ループ”などではなく、それに負けず劣らず優美で壮大で神秘的なサウンドの数々が収録されているのです。
今回Tundraを使用してみて思ったのが、メーカー側は“森/氷/地球”をコンセプトにこの音源を制作していますが、実は“超”現代的な最新鋭の宇宙サウンドにもとてもマッチするのではないかと思いました。近年公開されている宇宙をテーマにしたハリウッド映画に通ずる、モダンで高級感があるオーケストラ・シンセ・サウンドをいとも簡単に作り上げることができる、唯一無二の音源なのではないでしょうか。サウンドトラック系の音楽を制作するクリエイターにはもちろんオススメですが、歌モノを作り出す現代的なクリエイター陣にもオススメです。エキゾチックなボーカル・ラインの後ろで、さり気なく、センスよくTundraを鳴らすだけでトラックのリッチ度が一段と増すことでしょう。使い方次第でいろいろな顔をのぞかせる音源であると思います。この音源を使って最新鋭のサウンドが世の中にリリースされていくことでしょう。毎回SPITFIRE AUDIOには驚かされますが、このAlbion V Tundraも期待を裏切らず、その上を行く素晴らしいクオリティの音源でした。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年4月号より)