「WAVES Abbey Road Vinyl」製品レビュー:アビイ・ロード・スタジオのレコード制作環境を再現したプラグイン

WAVESAbbey Road Vinyl
WAVESから、アビイ・ロード・スタジオでのバイナル(アナログ・レコード)制作環境をシミュレートしたプラグイン、Abbey Road Vinylが発売されました。Mac/Windows対応で、VST/AU/AAX Native/RTASプラグインとして動作します。どこまでアナログ的な音が得られるのか、期待が高まりますね!

EMI卓のモデリングを搭載
再生環境のバリエーションが多彩

Abbey Road Vinylは、アビイ・ロード・スタジオでのバイナル・カッティング〜プレイバックの音質を再現するエフェクトです。マニュアルによると、カッティングに関してはマスタリング・コンソールのEMI TG12410を通し、カッティング・アンプのNEUMANN SAL74でRIAAエンコード後、NEUMANN VMS80を使いカッティングする、というチェインが再現されている模様。再生環境の選択肢は多彩で、例えばラッカー盤(原盤)をカッティング・マシンのターンテーブルに乗せて聴くことも、DJ用のターンテーブルで聴くことも可能です。

使い方は、ラッカー盤とプリント盤(工場でプレスされた盤)、ターンテーブル2機種、カートリッジ3種類を組み合わせて大元のサウンドを作り、各コンポーネントの調整で追い込んでいくというもの。入力部ではTGコンソールのオン/オフやドライブ量、ターンテーブル部ではワウ&フラッターの深さやトーン・アーム位置(外周〜内周)、位相ひずみやモジュレーションの深さなどが調整できます。カートリッジ部に目を移すと、ハム・ノイズやクリック/クラックル・ノイズのツマミがスタンバイ。レコードを止めたときの挙動(ピッチが下降しつつスロー・ダウンしていく様子)も再現されており、秒数指定も行えます。

気になるのはモデリングされているターンテーブルやカートリッジですが、ターンテーブルはアビイ・ロードのカッティング・マシンのものと有名なDJ用ターンテーブルを再現。カートリッジは、アビイ・ロードの標準品(ムービング・マグネット型)とハイエンド・オーディオ向けのモデル(ムービング・コイル型)、DJ向けの機種(ムービング・マグネット型)をモデリングしているそうです。

原音を変え過ぎない自然な音色変化
ミックスの重心を変えるような処理が可能

それでは実際に使ってみましょう。まずはチャンネルに挿してみて、“確かに!”とうなりました。この手のエフェクトでよくあるのが、原音が変わり過ぎてしまって飛び道具としてしか使えないもの。それらに比べると自然な変化で、マスターに挿しても問題の無いレベルです。GUI上の各ボタンはすべてちょっとした音の変化をもたらすものですが、組み合わせて使うとミックスの大筋を崩さずに“重心を上下させる”ような使い方ができました。

例えばラッカー盤+AR(アビイ・ロードのタンテ)+MC(ムービング・コイル型カートリッジ)の組み合わせだと重心が持ち上がりフレッシュな音に(画面①)。このレビューのメイン画像にもあるマスター盤+DJ(DJ用タンテ)+MM(アビイ・ロード標準品)という設定だと重心が下がりローエンドが気持ち良いところでまとまります。特に後者のセッティングではヌルッとしたアナログ感が得られ、状態の良いレコードのような音になりました。またTGコンソールのボタンは、オンにするだけでほんのり硬くて太くなるので、上記のセッティングと組み合わせれば“聴き慣れた感じの音”になっていきます。

▲画面① ラッカー盤+AR+MCといった組み合わせにしたところ。この設定からはフレッシュな傾向のサウンドが得られた ▲画面① ラッカー盤+AR+MCといった組み合わせにしたところ。この設定からはフレッシュな傾向のサウンドが得られた

次に音を汚す方向のパラメーターも見ていきましょう。まずはドライブとワウ&フラッターを試してみると、ごくごく薄いかかり具合から、完全にディストーションとトレモロといった状態まで、かなりの幅があります。個人的にツボなのがカートリッジによる音の変化。機種を切り替えるだけでノイズのトーンが変わります。ノイズは、音量やプチプチ音のバランスなどを細かく調整できるので、レコードからサンプリングしたネタのような音も簡単に作れます。また、トーン・アームの位置によって位相ひずみや音色が変わってくるのにもニヤけてしまいますね。

さて、レコードは外周と内周で音質が異なります。回転数は固定なので、外周の方が時間あたりの情報量が多くハイファイ、内周は位相ひずみが起きチープな音になるのです。Abbey Road Vinylではこの再現も行えるので、アナログを切る際の曲順決めのプレビューにも使ったら便利ではないでしょうか? レコードのカッティングは、ほかの機材に比べて実機でやるのがほぼ不可能なので、発売された意味を感じるプラグインです!

製品ページ
http://www.minet.jp/brand/waves/abbey-road-vinyl/

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年3月号より)

WAVES
Abbey Road Vinyl
36,000円(税別)
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.9.5〜10.12.1(AVID Pro Tools 10のみOS 10.8.5環境をサポート)、VST/AAX Native(64ビット)/RTAS(Pro Tools 10)/AU対応のホスト・アプリケーション ▪Windows:Windows 7(SP1)/8.1/10(すべて64ビット)、VST/AAX Native(64ビット)/RTAS(Pro Tools 10)対応のホスト・アプリケーション ▪共通:INTEL Core I3/I5/I7/Xeon、4GB以上のRAM、1,024×768px以上の解像度のディスプレイ ※SoundGridなどにも対応