
HRシリーズのパッシブ・ラジエーターから
ロング・スロートの独自バスレフに変更
さて本題に。このXRシリーズはHR MKIIシリーズの下位機種に当たるもの。ウーファー口径別に6.5インチのXR624と、8インチのXR824の2種類が発表された。僕が普段、スタジオに持ち込むのは8インチのHR824MK2だが、今回試聴するXR624は、自宅作業にはまさに最適で十分なサイズであることを再確認した。そして、XRのデザインは初代HRシリーズを継承したもので、原点回帰とも言える角張ったデザインに戻り、古くから知るものにとってはほほえましい。
実はHRシリーズの歴史としては、初期の木目調の角張ったデザインでシャープなイメージから、筆者が使うMK2では丸みを帯びたデザインに変更された。耳の良いミュージシャンの制作現場などで多く見るのは最新のMK2で、ロゴが“MACKIE.”であった筆者のバージョンからランニング・マンに変更されている。サンレコを愛読している方は、海外のトラック・メイカーやミュージシャンが昔から数多く使っているのをよく見るだろう。僕も大沢伸一さんが初代を使用しているのを聴いて感銘を受け、現在に至る。
ただし、HRシリーズがパッシブ・ラジエーター(電気的には接続されていない低域用ユニット)をリアに搭載していたのに対し、XRはバスレフ型になった。バスレフ化に伴い、ELP低域反射システムを開発し、優れた低音再生能力と高出力を実現。今までに無いような長いスロートを用いることで、気流を抑え、ハイパワーかつ明りょう度の高い低域の伸びを実現しているという。見た目こそ初期HRのようだが、現代に合った最新の音響技術が集約されているとも言えよう。パッシブ・ラジエーターを廃止したことが、かなりの軽量化にもつながっている。
また、パッシブ・ラジエーターを排したことで、アンプやアクティブ回路を通常のパワード・モニターのようにリアに埋め込む形となった。HRシリーズでは電源インレットや入力端子が下向きについているため、スタジオに持って行くとアシスタントから“電源どこですか?”と必ず聞かれていたが、それも解消。背面に壁がある場合にローカットするACOUSTIC SPACEや、ローカット周波数選択、高域EQも従来同様装備し、どんな設置場所でも最適で最高なポテンシャルを発揮できる。ちなみにこれらのスイッチもレバー型になった。見た目も分かりやすくなり、ガリも出にくい。
そのほかアクセサリーとして、2種類のアコースティック・アイソレーション・パッドが付属している。これはスピーカーの下に敷くことで、不要な共鳴を低減し、低域周波数特性を向上させることができるというものだ。角度をつけて設置する際にも便利だろう。
HR譲りの高域と自然で豊かな低域
素直でフラットな音作りが可能
肝心の音質は、初期HRのシャープな高域に、最新技術を用いたバスレフによって、さらに立体的かつ自然で豊かな低域を再生。MACKIE.ならではのフラットで原音忠実なサウンドを奏で、HRを知る人はもちろん初めて使う方でも音楽制作に安心感/信頼感をもたらしてくれる。
筆者にとっては慣れたMACKIE.のサウンドは、直感的で、音の固まりが耳に入ってくるような印象がある。スピーカーに向かって作業しているときはもちろんだが、少し離れて聴く際にも、音楽としてスッと耳に入ってくる。とはいえ、先述したように立体的な部分はきちんとあるし、バスレフ化によってキックやベースの位置感も、より明りょうになったような印象がした。
アラに気付かされるような100万円近くする高級で繊細なスピーカーも、派手な音質で勝負する機種ももちろん良いが、素直でフラットな音作りができるこのブランドのスピーカーが好きだ。それがミュージシャンにこよなく愛されるMACKIE.ブランドの最大の武器であり、僕が使い続ける最大の理由でもある。何より重量も軽減され、価格も抑えられているのがうれしい限りだ。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年3月号より)