「YAMAHA TF-Rack」製品レビュー:タッチ・パネルで直感的な操作が可能なラック型デジタル・ミキサー

YAMAHATF-Rack
2015年6月に発売されたデジタル・コンソールのYAMAHA TFシリーズに、3Uサイズでラック・マウントが可能なTF-Rackが新たに加わった。TFシリーズの革新的な操作体系はそのままに、さまざまなアプリケーションと連携を取り合うことが可能で、新しい形の音作り方法が提案できるだろう。

1つのノブで最適なサウンドに調整できる
1-knob COMPと1-knob EQ

まずはスペックを見ていこう。インプット・チャンネルは32モノラル+2ステレオ+2リターンの合計40chあり、メイン・バスに3ch(ステレオ+サブ)、AUXバスに20ch(8モノラル+6ステレオ)、そして8DCAグループがある。I/O端子は入力に16ch(XLR/フォーン・コンボ)+1ステレオ・ライン(RCAピン)、出力に16ch(8XLR+8フォーン)。拡張カードのNY-64Dを装着すれば、ほかのTFシリーズ同様にデジタル・ステージ・ボックスTio1608-Dを3台まで接続することができ、最大で48イン/24アウトのステージ・ボックス・システムを構築することが可能だ。また、USB端子とUSB TO HOST端子を備えており、USBストレージ・デバイスでの2トラックの録音/再生はもちろん、Mac/Windowsを使って34トラックの録音/再生ができる。ライブ・ミキシングと同時にライブ・レコーディングができるというわけだ。

従来のTFシリーズと同じく、オペレーションは本体にあるタッチ・パネル画面での操作が中心となる。シーンの呼び出し、各チャンネルのパラメーター設定やパッチ設定、ユーザー設定などを指でタッチして操作を行う。ホーム画面はインプット1〜8のチャンネル・ストリップが表示され、左右スワイプで表示チャンネルを切り替え、上下で各チャンネル・ストリップにあるAUXセンドの表示などができる。EQも操作したい帯域を左右上下ドラッグやピンチなどで調整ができ、まるでスマートフォンやタブレット端末を扱っているような感覚だ。本体中央に配置されている“TOUCH AND TURNノブ”を使えばより細かく数値の変更が可能となる。操作したいパラメーターをタッチし、ノブを回す。これの繰り返しだけなので、パラメーターごとにノブをいちいち持ち替える必要が無く、画面から視線を外さずに数値の設定ができるため、とてもスムーズに調整が行える。ノブ1つで最適なサウンドを実現する1-knob EQ、1-knob COMPもとても便利だ。TOUCH AND TURNノブを回すだけで最適なEQ処理、コンプレッション効果の調整ができるので、音作りの時間の短縮になるのはもちろん、経験の浅いエンジニアにとって音作りのサポートにもなるだろう。もちろん1-knob EQ、1-knob COMPで大まかに音を作った後、細かく調整もできる。また、チャンネル用プリセット“QuickPro Presets”はAUDIO-TECHNICA、SENNHEISER、SHUREといったマイク・メーカーや数々のサウンド・エンジニアとの協業で作られており、マイクの種類と使用楽器ごとにゲイン、EQ、ダイナミクスなどの設定が用意されているので、そこから音作りを始められるのもセットアップ時間の短縮へとつながる。

実際に楽器やマイクを接続して音のチェックをしてみると、個々の出音はもちろん、ドラム・ミックスやマスターの2ミックスを作ったときのまとまりが良い。YAMAHA製品のサウンドの良さをあらためて感じられた。

専用アプリケーションを使って
卓の前に縛られない音作りが可能に

専用アプリケーションとの連携がとてもよくできているのも特徴で、TF StageMix、MonitorMix、TF Editorの3つが使用できる。TF StageMixはTFシリーズのワイアレス・コントロールを可能にするiPad用アプリ。客席やモニター・スピーカー前などのリスニング・ポジションで音を聴きながらリモート・ミックスを行える。最近のデジタル・コンソールには当たり前のように搭載されているリモート・アプリケーションだが、こちらは本体のコンソール画面と同等の操作がiPad上で違和感無く行えるので、オプション程度の作りではなくしっかりと細かな設定までできる。MonitorMixは、TFシリーズのAUXミックスをワイアレスでコントロールできるiOS/Android用アプリ。最大10台まで同時に使用可能で、各演奏者が手元で自分のモニター・ミックスを作ることができる。リハーサルのとき、オペレーターが演者ごとにミックス・バランスを確認、調整していく時間が短縮できると感じた。演奏者は自分の音だけ聴こえるようなミックスにしないように注意しよう(笑)。Mac/Windows用アプリケーションのTF Editorは、TFシリーズの大部分の操作が可能。各種パラメーターの編集やシーン/プリセット・データの管理、キーボードによるチャンネル・ネーム入力などの機能を備え、時間や場所を問わず、オフラインでの事前準備を効率良く行うことができる。TF Editorはオフライン編集だけでなく、コンソールとつないで本体の拡張画面として使用することも可能で、マルチタッチ対応のコンピューターを使えば本体画面と同じ感覚でタッチ・コントロールによる操作ができる。

TF-Rackはラックへの設置しか選択肢が無いような制限のある環境でも、そのほかのTFシリーズと同様に扱えるミキサーだ。外部アプリケーションを駆使すれば、今までよりもスムーズに、そして密に、卓の前に縛られない自由な音作りができるのではないだろうか。

▲TF-Rackのリア・パネル。入力が16ch(XLR/フォーン・コンボ)とステレオ・ライン(RCAピン)、出力が16ch(XLR×8+フォーン×8)となっている。右下にはエフェクトのバイパス/オンの切り替え、ミュートなどの操作ができるフット・スイッチの入力端子、コンピューターと接続してオーディオI/Oとして機能させるためのUSB TO HOST端子、ネットワーク接続用のイーサーネット端子がある ▲TF-Rackのリア・パネル。入力が16ch(XLR/フォーン・コンボ)とステレオ・ライン(RCAピン)、出力が16ch(XLR×8+フォーン×8)となっている。右下にはエフェクトのバイパス/オンの切り替え、ミュートなどの操作ができるフット・スイッチの入力端子、コンピューターと接続してオーディオI/Oとして機能させるためのUSB TO HOST端子、ネットワーク接続用のイーサーネット端子がある
▲本体中央にあるTOUCH AND TURNノブ。1-knob COMPや1-knob EQではこのノブで簡単にサウンドを調整できる ▲本体中央にあるTOUCH AND TURNノブ。1-knob COMPや1-knob EQではこのノブで簡単にサウンドを調整できる

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年2月号より)

YAMAHA
TF-Rack
オープン・プライス(市場予想価格:260,000円前後)
▪アナログ・イン:16(XLR/フォーン・コンボ) ▪アナログ・アウト:16(8XLR+8フォーン) ▪インプット・チャンネル:40(32モノラル+2ステレオ+2リターン) ▪メイン・バス:ステレオ+サブ ▪AUXバス:20(8モノラル+6ステレオ) ▪DCAグループ:8 ▪サンプリング・レート:48kHz ▪シグナル・プロセッサー:8エフェクト+10GEQ ▪外形寸法:480(W)×132(H)×409(D)mm ▪重量:9.2kg