「IZOTOPE Neutron」製品レビュー:トラックの種類を分析して自動的に最適な処理を行うプラグイン

IZOTOPENeutron
既に各方面で話題となっているからご存じの方も多いかもしれないが、このIZOTOPE Neutronというプラグイン(Mac/Window対応、AAX/RTAS/Audio Units/VSTに準拠)は単純なチャンネル・ストリップではなく、“音をどう処理したらよいか”を積極的に提案してくれる。果たしてミックスまでお任せできるほどのものなのか? 個人的な感想も交えつつレビューしていこう。

部屋の余計な共鳴もカットしてくれる
トラック・アシスタント

NeutronはEQ、コンプ×2、エキサイター、トランジェント・シェイパー、そしてリミッターが付いたプラグイン・エフェクトだ。これら全部を同時に使用できて、順番の入れ替えも可能。同社にはAlloy 2というプラグインがあるが、Neutronはその進化版と言ってもよい。StandardとAdvancedの2グレードがあり、Advancedは最大7.1chのサラウンドに対応し、Neutron内部の各エフェクトの単体プラグインも付属している。

では最大の特色の一つである、トラック・アシスタント機能について見てみよう。Neutronは5つのエフェクトが一体化しており、音色変化のバラエティは無限と言ってもよい。初心者のみならず本職のエンジニアでも何からいじればよいか迷ってしまうほどだ。これをサポートすべく、Neutronは音を解析し、自動でお勧めのセッティングを作成してくれる。「いろんな音が混ざっている2ミックスですか。広帯域で明るく仕上げますね!」「これはドラムですね、ワイドでアグレシッブというリクエストなら、こんなセッティングはいかがでしょう?」「ギターですかね、あ、プリセットのUpfront Midrangeならば中高域をガッチリとこんな感じで!」

こんな具合にどういう楽器か(あるいは2ミックスか)を判断し、適切なEQ、コンプレッサー、エキサイターなどを設定してくれるのだ。人間はトラック・アシスタントのボタンを押して再生するだけ。結果が好みではなかったら、ポップアップ・メニューからModeとPresetを適宜選んであげれば、かかり具合も調節できる。その後、自分好みにすべてのパラメーターをいじり直すことも可能だ。

この機能は“誰でも良いミックスができる!”と、魔法のツールみたいに持ち上げられていて僕はかなり懐疑的だった。そもそも“良い音”って音楽ありきでの話だし、どうせ画一的な音ばかり作られちゃうんじゃない?と思ったのだ。しかし実際に使ってみるとなかなか具合が良い。僕が慣れていない部屋で録った音は“この周波数帯がたまってますよ”と、気付いてなかった共鳴部をちゃんと削ったEQにされて感心した。コンプも楽器のキャラクターによって帯域を分けてくれたり、元のトラックの音量によってスレッショルドもちょうど良い位置にセットされていて、そのおもてなしっぷりにお礼を言いたくなるほどだ。

トラック間の帯域干渉を表示する
マスキング・メーターも搭載

次にマスキング・メーターも紹介しておこう。2つの楽器が同時に鳴るとき、同じ周波数で鳴っている部分が出てくる。これが干渉し合って別な聴こえ方になったり、バランスが変わってしまうのをマスキング効果と呼ぶ。でも別にマスキングすべてが悪いというわけじゃない。“音の壁”なんて表現もあるように、音楽によっては大事な魅力になる(とNeutronのマニュアルにも書いてあった)。

とはいえ分離の良いミックスを志すときはマスキングを程良く対処することが必須と言える。NeutronのEQセクションにはマスキング・メーターが装備されており、お互いのトラックがどのようにマスキングされるのかを簡単に確認できるようになっている(画面①)。そして確認だけでなく、相手のEQカーブを同一のウィンドウで操作したり、同一のポイントを反転させたEQも簡単にでき、とても実践的だ。僕はミックスのときにマスキングのある帯域にダイナミックEQをかけて、その相手からのサイド・チェインでダッキングというのをよくやっているけれど、そういう処理もこのマスキング・メーターとNeutronのEQでさらに的確に、しかも簡単にできるようになった。

▲画面① MaskingをオンにしてマスキングをチェックしたいトラックのNeutronを選択すると、相手側のEQが下に表示される。干渉している帯域は自分の側のEQ画面(上)に白い帯として表示される。Sensitivityを上げると、干渉度合いを表すヒストグラムもEQ上部に現れる ▲画面① MaskingをオンにしてマスキングをチェックしたいトラックのNeutronを選択すると、相手側のEQが下に表示される。干渉している帯域は自分の側のEQ画面(上)に白い帯として表示される。Sensitivityを上げると、干渉度合いを表すヒストグラムもEQ上部に現れる

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最初は疑問を抱いていた部分も幾らかあったNeutronだったが、結果としては“いやあ、すごいなぁ。引き続きよろしくお願いします!”という感じである。トラック・アシスタントも、ただ単純に“流行の音にしてあげますよ”という機能ではなく、トラックの音をちゃんと分析した上でのエフェクトがなされており、本当にユーザーを手助けしてくれるものだった。初心者はトラック・アシスタントで“この音がどう変わるのか?”を探れば勉強になるだろう。またプロにとっても、ミックスを完全にお任せできるわけではないが(好みじゃない設定になることもあるし)、フラットな耳を持っている気の利くアシスタントが居るような気持ちにさせてくれるだろう。興味があれば一度試してみることをお勧めする。

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年1月号より)

IZOTOPE
Neutron
オープン・プライス(Standard:市場予想価格25,000円前後、Advanced:市場予想価格35,000円前後)
REQUIREMENTS ▪Mac:Mac OS X 10.9〜10.11、AAX(Native/HDX)/TDM/RTAS/Audio Suite/Audio Units/VST 2/3対応のホスト・アプリケーション ▪Windows:Windows 7/8/10、AAX(Native/HDX)/TDM/RTAS/Audio Suite/VST 2/3対応のホスト・アプリケーション(CAKEWALK Sonarは非推奨)