
CGやAIで使われている演算技術を応用
ハーモニーを付加するような響きも演出
Adaptiverbの画面中央のX/Yパッドを挟んだ位置にあるMain Parameterセクションは、トラック・ボール型スライダー2つだけを使用するMain Viewと、細かなパラメーターでマニアックなエディットが楽しめるFine-Tune Viewの切り替えが可能です。Fine-Tune Viewで非常に特徴的なのは、Bionic Sustain Resynthesizerとリバーブ・アルゴリズム。前者はリバーブの前段にあり、説明書にはthe "self-driving car" thingとありますので、恐らくノイズを除去するフィルターにAI輪郭検出技術を応用しているのでしょう。音楽的に美しい倍音成分を含むサステインを生成するそうです。リバーブのアルゴリズムは、RaytracingとAllpass-basedを選べます。このRaytracingとは波がどのように伝わるかを追跡することで画像や音像をシミュレートする技術。3DCGのレンダリングなど画像においては一般的ですが、音像シミュレートではまだ珍しいと思います。Allpass-basedは位相のみに作用する不思議なフィルターを用いたもので、LEXICONなどのリバーブで有名です。

それと、詳しくは後述しますが、最終段にあるHarmonic Contour Filterがこのプラグインの鍵を握っていると感じました。
プリセットはカテゴリー分けされており、例えばAdaptiverbのプロモーション・ビデオにあるようなハーモニーのように気持ち良い倍音を付加するリバーブは“Music Production Reverbs”というカテゴリーの中から選ぶことができました。リバーブというよりもアンビエント・ミュージック的なドローン音生成プリセットもあり、どれも非常に面白いです。
音楽的に不要な成分は響きから除去
リバーブ音と原音で不協和を起こさない
今回はチェロを録音したソースに対して試してみました。まずはプリセットから“Deep Dream Verb01”を選び、DRY/WETを調整。通常のデジタル・リバーブと違いかなり深くリバーブをかけても音楽的に悪影響が感じられないのが不思議です。深くリバーブをかけた状態にし、画面下部にあるREVERB SOURCEフェーダーを調整すると、Bionic Sustain Resynthを通さずにリバーブに信号入力できるので、これで比較試聴しました。
Bionic Sustain Resynthが有効な場合、原音の周波数スペクトル中の弓のガサガサした感じや、弦のこすれる音などのノイズ成分がフィルターされるとともに、音楽的に美しい倍音へと整理されるような印象を受けます。画面左のSIMPLIFYを上げていくとこの効果は強くなり、下げると原音の特徴が出てくるように感じました。そしてRICHNESSを上げるとハーモニー系エフェクトのように倍音が付加されていきます。INTERVALで原音に対し5度上を選べるところも非常に気に入りました。
次は画面右側にあるHARMONIC CONTOUR FILTERの働きを検証してみます。このフィルターが有効な際は、原音とリバーブ音が衝突せず不思議なまでクリアな響きが得られるのがAdaptiverbの特徴です。これをオフにすると従来のリバーブのように、リバーブ・テイルと原音の間で不協和を感じる瞬間がありました。つまりこのフィルターは、生成したエフェクト成分に対してピッチ・クオンタイズのような働きをすることで、音楽的に美しいインターバルを保ったリバーブ・テイルにできるわけです。例えば短3度/長3度の選択など、キーボードを使って半音単位でリバーブ・テイル中の倍音の指定もできます。
さらに、HOLDモードでは原音には含まれない倍音を発生させて新たなハーモニーを生み出すことも可能。プリセット名に“Dadd9”とあるものを選ぶと、原音に対してadd9の音が加わり、パッドのような、あるいはオーケストラのような不思議なテイルを付加できました。アンビエント・ミュージック的なドローン音の生成はこのプラグインのだいご味の一つと言えるでしょう。こうした倍音生成については、キーと倍音構成がそのまま反映されるため、プリセット選びが非常に重要です。
§
Adaptiverbの生成するエフェクトは倍音豊かな独特の質感を作品に付加することができます。衝撃的に滑らかなリバーブ・テイルの質感は、一度体験してみる価値があると思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年12月号より)