
机上の設置に適したDESKモードを搭載
クリエイターを意識した構成の入力端子
ILoud Micro Monitorは3インチ・ウーファーと3/4インチのシルク・ドーム・ツィーターの2ウェイ仕様で、前面にバスレフ・ポートを備えています。これらを計4基のクラスDアンプで駆動。筐体はちょうど国語辞典のようなサイズ感です。アンプは合計で50W(RMS)もあり、重量はペアで約1.7kgとAPPLE MacBook Pro(15インチ)よりも軽く、持ち運びに適しています。
背面には3つのEQスイッチを装備。HF/LFをそれぞれ3dBカットするものに加え、デスクトップ設置時の共鳴を補正する“DESK”モードを搭載しています。実際に筆者の作業机に置いてDESKモードをONにしてみました。これにより、机上で特に起こりやすい中低域の無駄なブーストが改善されます。同時にほかの周波数帯域も微調整されるようで、EQの設定自体がかなり追い込まれていることに好感を持ちました。ちなみに筆者の制作環境で一番好ましかったのは、DESKモードをON、LFを−3dBにした設定でした。
底面にはスピーカーに角度を付けるための可動式スタンドがあります(メイン写真)。これを立てることでデスクの天板への共鳴が低減します。ラバー素材なので安定感があり、制振効果も得られるようです。

本機は背面にRCAピンとステレオ・ミニの入力端子を装備。エンジニア目線では、フォーン・ケーブルが使えないことに少々不安を覚えます。ただ、この仕様は付属のステレオ・ミニ↔RCAピン変換ケーブルで合点がいきました。例えばRCAピンでの出力が多いDJミキサーやコンパクト・サンプラーからは本機へミニ・プラグで入力し、ラップトップのミニ・プラグ出力からはケーブルを逆にしてRCAピンの入力に入れればよいわけです。これはクリエイターにとって非常に便利な仕様と言えます。
加えて本機はBluetoothに対応し、スマホ、タブレットなどの対応機器と無線接続して音を出すことができます。使い方は背面の“BLUETOOTH”ボタンを押し、スマホなどで認識/リンクさせるだけ。プロの制作においてBluetoothが便利なのは、制作会議や楽曲のプレゼン時です。相手に“ちょっと音を流してみて”と言われた場合など、ケーブルを接続する必要がなく、すぐに曲を良い音質で再生できるのは、非常に便利です。
内蔵56ビットDSPで定位は明りょう
“実存感”とパンチのあるサウンド
本機がさまざまな使用環境に耐えうると分かったので、少し意地悪なくらい雑に設置してみましたが、出音の印象はとても良かったです。一聴して筆者の制作に必要な解像度は満たしてくれていることが分かりました。先述の“DESK”モードと筐体下部のスタンドが机の共振を抑えるので、スピーカーから出る音へのマスキングが少なく、バランスの良いモニタリングが可能。内蔵の56ビットDSPが左右のスピーカー間のタイム・アラインメントを制御するからか、音の定位も明りょうです。
本機はコンパクトな筐体故、ツィーターとウーファーの中心距離が約6cmに抑えられており、スピーカーから50cmの距離でツィーター/ウーファーのクロスオーバーした音をモニタリングできるとのこと。ミドル・クラスのスピーカーではこの距離がもっと遠くなるので、リスニング・ポイントを離す必要がありますが、本機はラップトップの画面と横一直線にスピーカーを設置できます。これにより近距離のモニタリングでも帯域的なつながりが非常に良く、高域から低域までフラットに感じました。また、近距離でモニタリングできると、スピーカーからの直接音を聴く割合が増えるので、部屋の反射音など作業環境に左右されにくいモニター環境となるメリットもあります。
全体的なサウンドは“音の実存感”とパンチがあります。超高域のキラキラやリバーブのテイルなどは“際の際まで”というわけにはいかないまでも、必要な空気感や音像のディテールはきちんと把握できます。
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リーズナブルな価格設定の製品ですので、正直なところ、“いくらプロ仕様リファレンスと言えど……”という先入観がありました。しかし本機を知れば知るほど、昨今のクリエイターの立ち位置や作業環境をよく考慮して作られており、出力部が非常に追い込んだ設計になっていることに驚きました。取りあえず筆者にはピッタリです。めちゃくちゃ欲しくなりました!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年12月号より)