「ROLAND TR-09 / TB-03 / VP-03」製品レビュー:往年の名機をコンパクトに再現したBoutiqueシリーズの第2弾

ROLANDTR-09 / TB-03 / VP-03
昨年発売されたBoutiqueシリーズは、ROLANDが生んだアナログ・シンセの名機Jupiter-8、Juno-106、JX-3Pを、回路のパーツ一つからモデリングする“ACB”テクノロジーによってデジタルで再現、小型モジュールとして現代によみがえらせたものでした。Juno-106、JX-3Pは実機を所有していたので、すぐに店頭で触ってみましたが、音色もさることながら、スライダーを動かしたときの変化の仕方もそっくりで驚きました。そして今回はそのBoutiqueシリーズの第2弾として、電子音楽の歴史を変えたと言っても過言ではない、あのTR-909、TB-303、VP-330をACBテクノロジーによって再現したTR-09、TB-03、VP-03が発売されました。ハウスやテクノはもちろん歌謡曲に至るまで、今でも世界中でその音が使われまくっているキング・オブ・リズム・マシンTR-909。アシッド・ハウスという一つのジャンルを生み出した、伝説のベース・マシンTB-303。YMOの大ヒット曲「テクノポリス」にて“トキオ!”というボコーダー・ボイスに使われていたアナログ・ボコーダーVP-330。稼動する実機の数は年々減っていく一方の3機種ですので、本家本元によって完全再現されるのを待ち望んでた方は多いのではないでしょうか。

本家TR-909とそん色ない音質のTR-09
ライト/プレイ・モードの行き来が可能

まず3機種に共通する仕様として、①単三電池またはUSBバス・パワーで動作、②24ビット/96kHz対応のオーディオ・インターフェース機能、③スピーカー内蔵(写真①)、④別売のキーボード・ユニットK-25Mをつなげて演奏可能、という4点が挙げられます。まず③がいかにもハードウェアらしいと言うか、ソファでちょっと触りたいときなどにすぐに音が出せ、便利だと感じました。②も、コンピューターにUSB接続すれば即DAWに録音可能となる、非常にありがたい機能です。また全機種、通常のMIDI IN/OUT端子も装備しています。

◀写真① TR-09の底面。BoutiqueシリーズはUSBバス・パワーに加え、単三電池(充電式ニッケル/アルカリ)×4でも駆動可能。右手には小型スピーカーが見える ▲写真① TR-09の底面。BoutiqueシリーズはUSBバス・パワーに加え、単三電池(充電式ニッケル/アルカリ)×4でも駆動可能。右手には小型スピーカーが見える

では一機種ずつチェックしていきましょう。まずTR-09です。筆者は実機を所有していないので、本誌でもおなじみのエンジニア、渡部高士さんのスタジオにお邪魔して、渡部さん所有のTR-909と比較検証してみました。両機を並べてみると、TR-09のコンパクトさが際立ちます。最初はキックを出してみました。同じパターンを打ち込んでTR-909と交互に聴き比べてみたところ、オリジナルとそん色ない音圧と、豊かな低音を持つキック音がしっかり出ています。TR-909と全く同じ仕様の音色パラメーターのつまみを動かしてみると、“DECAY”はオリジナルより若干短い感がありましたが、渡部さんによると、TR-909自体、製造年などによってかなり出音に個体差があるので、この音の違いはその範ちゅうとのこと。しかし、この小さな筐体からぶっといキックが出てくることに、とにかくビックリしました。ACBテクノロジー、恐るべしです。

次にスネアを比べてみました。“TONE”“SNAPPY”を絞り切ったコツコツした音から、“SNAPPY”を上げたバシャッという特徴的な音までそっくりで、つまみの位置による変化具合まで同じです。試しに渡部さんがTR-909とTR-09をMIDIシンクさせ、ミキサーで混ぜて聴いてみましたが、フランジングを起こすくらい似ていました。

タムはオリジナルと比べてアタックが若干弱い気がしましたが、これも個体差と言えるくらいのわずかな差でした。リム、クラップは元から“LEVEL”しかパラメーターがないので、変わりようがないと言うか、ほとんど同じ音がします。ちなみに、スネアとクラップを同時に鳴らすと微妙にフランジングするというTR-909の特徴も渡部さんが試していましたが、TR-09でも同様でした。

ハイハット、ライド、シンバルの金物系も試してみました。本家TR-909も金物だけはPCM音源ですので、“変わりようがないだろう”と思いきや、少し違和感がありました。音色は全く一緒なのですが、TR-09の金物はアタックが上品に聴こえるのです。しかしこれもあくまで単音で厳密に比較した際の話で、全パートを鳴らした場合はほとんど気になりませんでした。

最後にシーケンサー部ですが、これはもうTR-09の圧勝と言うか、TR-909には無い機能が増えています。渡部さんが一番うらやましがっていたのが、シーケンスを走らせながらライト・モード/プレイ・モードの行き来が可能になった点。これによってライブ・プレイ中にもリズムの書き換えが可能になりました。特徴的なシャッフルも、4段階から8段階と倍に増えていますし、BPMも小数点以下まで設定できます。

DELAY/OVERDRIVE搭載のTB-03
LEDディスプレイで操作性が大きく向上

TB-03も、渡部さん所有のTB-303と並べて比較検証してみました。TB-03の方が若干小さいですが、ほぼ同じサイズ感。つまみの形状や回したときのトルクの重さもよく再現されています。

TR-09と同様、同じパターンを打ち込んでみて鳴らしてみました。“RESONANCE”を上げていくと、特徴的なビキビキとしたアシッド音が出てきます。“ACCENT”“SLIDE”の感じもそっくりです。TB-303には無いつまみが“DELAY”“OVERDRIVE”(写真②)。つまり、TB-303につなぐ定番エフェクト2種類を、TB-03はあらかじめ内蔵しているのです。エフェクトの音色変化は非常に音楽的で、的を射たものでした。

▲写真② TB-03は2種類のエフェクトを搭載。OVERDRIVEはひずみ系エフェクトを3種類、DELAYはエコーやリバーブなど3種類を切り替えて使用できる ▲写真② TB-03は2種類のエフェクトを搭載。OVERDRIVEはひずみ系エフェクトを3種類、DELAYはエコーやリバーブなど3種類を切り替えて使用できる

また、TR-09同様シーケンサーがかなり進化しています。TB-303では一つのパターンを作る際、音程、タイミング、ACCENT、SLIDEをそれぞれ別々に打ち込む必要があり、狙ったフレーズを作るのが相当難しかったのですが、TB-03ではこのオリジナルの打ち込み方法も残しながら、新たにステップ・レコーディング・モードを追加。簡単にTB特有のフレーズを作成できます(写真③)。さらに7セグメント/4ケタのLEDディスプレイが追加され、現在のステップなどの情報が分かりやすくなりました。BPMも小数点以下を設定できますし、何と言ってもシャッフルに対応したのが最大のポイント。TB-303にはシャッフル機能は無く、シンク・ボックスを使った裏技で何とか対応していましたが、TB-03は単体でそれが可能となっており、フレージングの幅が広がっています。

◀写真③ シーケンサーは従来の入力方法に加え、ステップ・レコーディング・モードを新搭載し、シーケンスを走らせながらリアルタイムで音程を入力することが可能。TR-09同様、ライト・モード/プレイ・モードを行き来することもできる ▲写真③ シーケンサーは従来の入力方法に加え、ステップ・レコーディング・モードを新搭載し、シーケンスを走らせながらリアルタイムで音程を入力することが可能。TR-09同様、ライト・モード/プレイ・モードを行き来することもできる

“コード・メモリー”機能などを新搭載し
演奏の幅が広がったVP-03

最後はVP-03です。まず見た目ですが、独特のスイッチがそのまま再現されているのがうれしいです。VP-330に無かった機能としては、スライダーの先が光るようになっており、暗いステージ上でもパラメーターの位置が分かりやすくなっています。本機にはグースネック・マイクが付属しているので、早速つないでみます。第一声はやはり“トキオ!”ですね。先述のK-25Mを接続してもよいですし(写真④)、本体左側にあるリボン・コントローラーをタッチしても演奏できます。タッチする場所でピッチが変わるので、“トキオ!”と同じになる位置を探ってみると、もうあのまんまの音が飛び出してきました。“ENSEMBLE”スイッチを入れると、ROLAND独特のコーラス効果がかかって、よりアナログ感が増します。オリジナルのVP-330はボコーダー機能だけでなく、ボイスとストリングス音色がプリセットされており、当時はバッキングなどで重宝されたらしいのですが、その音色も再現されています。

▲写真④ VP-03に付属のグースネック・マイクとユニットK-25Mを接続したところ ▲写真④ VP-03に付属のグースネック・マイクとユニットK-25Mを接続したところ

そして演奏面においては、VP-330には無かった新しい機能が2つ追加されました。まず指一本でコードを再生できる“コード・メモリー”。16種類をステップ・ボタンにメモリー可能で、自分で作ったコードも保存できるので、一曲で使うコードをあらかじめステップ・ボタンに登録しておけば、ライブ時に指一本でボコーダーのバッキング・コーラスが実現。設定をコンピューターに保存することもできます。もう一つが“ボイス・ステップ・シーケンサー”機能。単音、コード、音声を入力可能で、16ステップそれぞれに6ボイスの録音ができ、声のフォルマントとともにメモリーできるので、あらかじめ声を録音しておけば、マイクに向かって歌わなくても自分の声を使ったエフェクティブなシーケンスが演奏できます。

§

以上、駆け足で3機種をレビューしてきましたが、過去の資産をそのままリイシューするのではなく、現代にマッチングさせるための使い勝手の向上や、表現の可能性を広げるために考えられた新機能などが“やり過ぎない”程度に加えられており、ユーザー目線で丁寧に作られている製品だと感じました。TB-303は、本来想定されていなかった“変な”使い方をしたユーザーがアシッド・ハウスというジャンルを生み出したわけで、このBoutiqueシリーズも、また誰かが独自に使いこなすことで新しい音楽ジャンルが生まれるかもしれません。そんなワクワクした気分になる、触っていて楽しい3機種でした。

▲TR-09のリア・パネル。左より電源スイッチ、USB端子(マイクロB)、VOLUMEノブ、PHONES(ステレオ・ミニ)、OUTPUT(ステレオ・ミニ)、MIX IN(ステレオ・ミニ)、MIDI OUT/IN端子 ▲TR-09のリア・パネル。左より電源スイッチ、USB端子(マイクロB)、VOLUMEノブ、PHONES(ステレオ・ミニ)、OUTPUT(ステレオ・ミニ)、MIX IN(ステレオ・ミニ)、MIDI OUT/IN端子
▲TB-3のリア・パネル。左より電源スイッチ、USB端子(マイクロB)、VOLUMEノブ、PHONES(ステレオ・ミニ)、OUTPUT(ステレオ・ミニ)、MIX IN(ステレオ・ミニ)、MIDI OUT/IN端子 ▲TB-3のリア・パネル。左より電源スイッチ、USB端子(マイクロB)、VOLUMEノブ、PHONES(ステレオ・ミニ)、OUTPUT(ステレオ・ミニ)、MIX IN(ステレオ・ミニ)、MIDI OUT/IN端子
▲VP-03のリア・パネル。左より電源スイッチ、USB端子(マイクロB)、VOLUMEノブ、PHONES(ステレオ・ミニ)、OUTPUT(ステレオ・ミニ)、MIDI OUT/IN端子 ▲VP-03のリア・パネル。左より電源スイッチ、USB端子(マイクロB)、VOLUMEノブ、PHONES(ステレオ・ミニ)、OUTPUT(ステレオ・ミニ)、MIDI OUT/IN端子

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年12月号より)

ROLAND
TR-09 / TB-03 / VP-03
TR-09(50,000円)、TB-03(45,000円)、VP-03(45,000円)
⃝TR-09 ▪ユーザー・メモリー:96パターン、8トラック、1キット ▪ステップ:16ステップ(16裏ステップ) ▪エフェクト:コンプレッサー ▪外形寸法:308(W)×51(H)×130(D)mm ▪重量:980g ⃝TB-03 ▪ユーザー・メモリー:96パターン、7トラック ▪ウェーブフォーム:SAW、SQUARE ▪エフェクト:オーバードライブ、ディレイ ▪外形寸法:308(W)×52(H)×130(D)mm ▪重量:940g ⃝VP-03 ▪ユーザー・メモリー:16コード・メモリー ▪エフェクト:コーラス ▪ステップ・シーケンサー:16ステップ、16パターン、5音、サンプリング音声(100ms) ▪外形寸法:300(W)×46(H)×128(D)mm ▪重量:940g