第1回〜音楽制作の仕事って何?

私が音楽ディレクターという仕事に就いたのは1993年。それまでは音楽教育の仕事をしていましたが、訳あって音楽ディレクターとして働くことになりました。名古屋でCMの音楽制作やアマチュアのデモ・テープなどは録ってはいました。しかし突然、“東京で某アーティストのCDリリースのためのレコーディングをディレクターとして仕切れ”と言われ、とりあえずスタジオに入りました。ひろーいスタジオの中でほぼ初めて見るSSL、SONY PCM-3348、NEUMANNのマイクなどなど。めちゃくちゃ緊張したのを覚えています。本当に右も左も分からずでしたが、レコード・メーカーのA&R、エンジニア、アシスタント・エンジニア、アレンジャーの皆さんに支えられて何とか仕事を覚えていきました。そしてあっという間に23年。ここでは、これまでの私の音楽ディレクター、プロデューサーとしての経験をなるべく具体的にお話しできればと思っています!

プロデューサー/A&R/ディレクターの違い

“音楽プロデューサー”“A&R”“音楽ディレクター”の違い、分かりますか? これらの言葉の意味は特に日本では曖昧な感じがします。また、業界内でも人によって理解が違う場合があるかもしれません。しかし、それぞれの仕事の内容は違います。

●プロデューサー

音楽プロデューサーは、“そのプロジェクトをビジネスとして成功させるための方法論を関係者(主にアーティスト本人、所属事務所、レコード・メーカーの三者)、もしくは場合によっては一人で考え計画し、実行に移す人”です。
プロデューサーはアーティストの資質や能力を見極め、世の中にどのような方法で届ければ商業的に成功するかを考えます。それは音楽的なことだけでなく、予算から衣装、PVや宣伝方法などなど、そのプロジェクトの全てにわたって責任を負います

●A&R

日本の場合、“A&R”の意味合いも曖昧な感じがするのですが、基本的にA&Rはレコード会社のスタッフです。“アーティスト・アンド・レパートリー”の略なのですが、アーティストの発掘/育成から始まり、主にリリースする曲についてレコード・メーカー側の責任を負います。実際はレコード・メーカーの制作担当としてアーティストとかかわり、レコード・メーカー内の宣伝や営業など各スタッフとのリレーションを取って、レコード・メーカーにおいての担当アーティストの現場責任者となる場合が多いです(レコード・メーカーと事務所の関係はまたあらためてお話ししましょう)。
ディレクターとの決定的な差は、スタジオ・ワークをするかしないかです。A&Rはスタジオに入ってエンジニアと一緒にマイクを選んだりはしません。マイクプリやコンプはどうしようかな……ということも考えません。

●ディレクター

音楽ディレクターとは、“そのプロジェクトの制作意図を受け、具体的に音楽を作っていくための指揮をする人”です。しかし日本の場合、プロデューサー/ディレクター/A&Rの業務を兼ねている方はとても多く、人によってそのバランスもまちまちだったりします。私は長く音楽事務所の所属ディレクターをしており、レコード・メーカーの仕事をしたことは無いので、“プロデューサー”と“ディレクター”の業務をアーティストによってバランスを変えて行ってきました。レコード・メーカーの制作では、人によってはプロデューサー、ディレクター、A&Rの3つの仕事を兼務する人もいます。ここにアーティスト(パフォーマー)、作曲家、作詞家、編曲家なども加わるので、音楽の制作にかかわる人のスタイルはその人によって違うと考えてもいいでしょう。

例えば秋元康さんは、AKBにとって“プロデューサー”であり“作詞家”です。つんくさんはハロプロの“プロデューサー”であり、“作詞・作曲家”です。山下達郎さんはもちろん素晴らしい“アーティスト”ですが、私が知る限り優秀な“プロデューサー”“ディレクター”であり、“作詞・作曲家”であり“編曲家”だと思います。

このように音楽制作の仕事もいろいろある訳ですが、まずは数回にわたって“音楽ディレクター”の仕事にスポットを当ててお話ししたいと思います。次回は音楽ディレクターの大切な仕事の一つ、“歌入れ”についてのお話です!

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【中脇雅裕】
プロデューサー/音楽ディレクター。CAPSULE、中田ヤスタカ、Perfume、手嶌葵、きゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に深くかかわる。アーティスト/クリエイターの成功とメンタルの関連性に日本でいち早く着目し、研究を重ねている。http://nakawaki.com

※本連載は毎月15日・30日近辺に更新していく予定です。お楽しみに!