「NATIVE INSTRUMENTS Maschine Jam」製品レビュー:柔軟に演奏できる新開発コントローラーを備えたMaschine

NATIVE INSTRUMENTSMaschine Jam
2009年に登場したNATIVE INSTRUMENTS Maschineは、専用の16ドラム・パッド付コントローラーで演奏できるソフトウェア音源としてエポックメイキングな機材となりました。今回発売されたMaschine Jam(以下Jam)はその流れから外れ、8×8のグリッド状に並んだパッドを搭載したイマドキな形に変身。筆者も発表時から興味津々の一台です。

8×8のクリック・パッドと
8本のSmart Stripsを搭載

Jamは、これまでのMaschine同様Mac/Windows対応で、音源となるMaschine SoftwareにUSBバス・パワーで動作する専用コントローラーを組み合わせて使用します。Maschine Softwareは新しくバージョン2.5が付属し、スタンドアローンのほかVST/Audio Units/AAXプラグインとして動作します。本体の質感はこれまでのNATIVE INSTRUMENTSのハードウェアを踏襲しており、サイズ感も12インチ・レコードに近いコンパクトさ。本体右上にはレベル・メーターを搭載し、演奏や制作する上でとても重要な音量の管理に役立ちます。その下には代々Maschineファミリーに搭載されてきたプッシュ式のエンコーダーがあり、ボリュームの調節や操作するオブジェクト、プリセットの選択などができます。

本体中央にはマルチカラーLEDを搭載した8列×8行の“クリック・パッド”が並び、シーケンスの切り替えやステップ・シーケンサー/ドラム・パッドやキーボードとして使用します。パッドの左側には動作モードを切り替えるボタン類が配置され、その下には操作をナビゲートする十字型の“D-PAD”と、指ドラムが苦手な方でも演奏に便利な“NOTE REPEAT”ボタンが配置されています。本体下部には“Smart Strips”と呼ばれる8本のタッチ・センサーが搭載され、指でスライダーのようになぞることで、ミキシングやエフェクトの操作、音階入力などが可能。その左右にはSmart Stripsの機能を切り替えるボタン類が配置されています。本体最下部には、再生/録音といったシーケンサーのトランスポートに関するセクションがあり、Jam1台でMaschine Softwareのほぼすべての機能をコントロール可能です。

Maschine Softwareを起動してプリセットをロードしてみました。“BROWSE”ボタンでブラウザーを呼び出します……とはいうものの、Jamのコントローラーにはディスプレイがありません。そこでコンピューターの画面を見ると、ブラウザーが大きくオーバーレイ表示されていました(画面①)。これまでのMaschineはコンピューターの画面を見なくても完結するワークフローだったので少々意外ですが、コンピューターの画面が従来のディスプレイの役割を果たしていて使いやすくできています。

▲画面① Maschine Jamは本体にディスプレイを持たないが、Maschine Software 2.5はブラウザーが拡大表示されるなど工夫が見られる ▲画面① Maschine Jamは本体にディスプレイを持たないが、Maschine Software 2.5はブラウザーが拡大表示されるなど工夫が見られる

プロジェクトを読み込むと、Jamのクリック・パッドに“シーン”“パターン”といったMaschine Softwareのシーケンスが表示され、パッドを押すことで再生するシーケンスをサクサク切り替えられます。カラーLEDによりトラックごとに色分けされているので、楽曲の構成が直感的に作りやすくなりました。正直な話、従来のMaschineはアレンジ面での使い勝手があまり良くなかったのですが、Jamはそうした弱点を補う存在に進化した印象です。操作するトラックを切り替えるには、クリック・パッドの下部に配置されたA〜Hボタンを押してグループを選択します。このボタンもマルチカラーLEDを搭載しており、Maschine Software内で設定した色を表示するので、選択しているトラックを色で判別できます。

最大8トラックの同時ステップ入力が可能
リアルタイム性に優れたPERFORM FX

プロジェクトを読み込んだら実際にビートを打ち込みます。クリック・パッドの左側にある“STEP”ボタンを押すと、パッドがステップ・シーケンサーに変化。16個のドラム・パッドでステップ入力していた従来のコントローラーに比べると、Jamのステップ・シーケンサーはかなり多機能です。STEPを押しながらクリック・パッドの上部で点灯している1/4/8のボタンを押すと、クリック・パッドに表示されるステップ・シーケンサーのトラック数が変化します。1トラックだけをステップ・シーケンサーにするモードでは、クリック・パッドの上半分がステップ・シーケンサー/右下の4×4のパッドがドラム・パッドになりますが、4や8のボタンを押すことで最大8トラックまで同時にステップ入力できます。クリック・パッドはベロシティ対応ではないものの、これだけのトラックを同時にステップ入力できるシーケンサーはなかなか無いので、打ち込みが楽しくなるでしょう。

次はクリック・パッドの下にあるSmart Stripsを見てみましょう。平たく言えばタッチ式のスライダーなのですが、左右にあるボタンで、その機能をミキサー操作やノートの入力/サンプルの音程などさまざまに切り替えられます。このSmart StripsにもマルチカラーLEDが搭載されているので、視認性も良好です。中でも特筆すべきは、従来のMaschineでは階層が深く苦手な分野だったエフェクトの操作が大幅に強化されたところ。特にMaschine Software 2.5で搭載された“PERFORM FX”はシンプルな作りで、パフォーマンス向きのエフェクターとして“使える”仕様です(画面②)。エフェクトは8種類から選択可能で、ベーシックな“FILTER”やダブ処理に使える“BRST ECHO”、Smart Stripsをこするとスクラッチのようなサウンドになる“SCRATCHER”など多彩。このPERFORM FXはライブ中にエフェクトでサウンドを過激に加工しても、Smart Stripsから指を離すだけで元に戻せる賢い仕様となっており、筆者も時間を忘れて楽しんでしまいました。

▶画面② 新搭載のPERFORM FX。画面のFILTERのほか8種類を用意し、パラメーターの動きをSmart Stripsでコントロールできる ▲画面② 新搭載のPERFORM FX。画面のFILTERのほか8種類を用意し、パラメーターの動きをSmart Stripsでコントロールできる

音階の入力方法もユニーク
従来のMaschineとは良いコンビ

NATIVE INSTRUMENTSのオフィシャル動画ではJamでシンセを演奏しているシーンがあるので、興味を持った方も多いでしょう。これはSmart Strips/クリック・パッドの両方から音階を演奏できます。Smart Stripsを使った演奏では、右側にある“NOTES”ボタンを押すことでSmart Stripsが音階を演奏するモードに入ります。このとき、指の上下の移動に合わせて音階が変化し、上のクリック・パッドで鳴らすノートを設定します。スケールをはじめ細かい設定もできるので(画面③)、指一本でコード演奏することも可能。セッションする相手とスケールやコードを決めておけば、お互いどんな演奏をしても破たんしにくいという素敵な機能です。

▲画面③ Smart Stripsで音階を演奏する場合、Maschine Software上でスケール(Mode/Root Note/Type)やコード(Mode/Type)をあらかじめ設定可能 ▲画面③ Smart Stripsで音階を演奏する場合、Maschine Software上でスケール(Mode/Root Note/Type)やコード(Mode/Type)をあらかじめ設定可能

一方、クリック・パッドでノートを演奏するには、SHIFTキーを押しながら右側の“PAD MODE”ボタンを押し、パッドを“KEYBOARD”モードにします。すると8×8のパッド上に音階が展開され、パッドを押すことで演奏できます。こちらもキーとスケールを設定できる上に、内蔵アルペジエイターが使える点がポイント。これも多機能なので、楽しく演奏できるでしょう(画面④)。

▲画面④ Maschine Softwareでのアルペジエイターの設定画面。クリック・パッドとの併用で、複雑なパターンも演奏できる ▲画面④ Maschine Softwareでのアルペジエイターの設定画面。クリック・パッドとの併用で、複雑なパターンも演奏できる

従来のMaschineコントローラーはABLETON LiveなどのMIDIコントローラーとしても使用可能でしたが、Jamは操作子がたくさんあるだけに、Liveのコントローラーとしても優秀です。Liveとの連携も良くできていて、煩わしいマッピングの設定することなく、ステップ・シーケンサー/クリップのトリガー/ノートの入力/ミキサーやマクロ・コントロールなどの操作が可能です。

こうして見てくると、Jamはエフェクトのコントロールやミキサーの操作といったコンソール的な使い方ができるので、Maschineユーザーの中には“Jamを買い足した方がいいの?”と思う方がいるかもしれません。筆者も初代MaschineとJamを併用してみましたが、これが実に快適。2台を併用することで、Maschineはドラム・パッドの演奏、JamはMaschine Softwareのコンソールという使い分けができ、実に良いコンビネーションでした。

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Maschineの登場からはや7年。当初はコンピューターに触れることなく演奏や制作ができる仕様が注目を集めましたが、最近はDJやエレクトロニック・ミュージックの分野でも複数人でのセッションが流行し、より幅の広い演奏が求められるようになってきました。Maschine Jamは、そうした多様化した時代の流れに対応するべく現れた一台と言えるでしょう。

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年12月号より)

NATIVE INSTRUMENTS
Maschine Jam
46,112円
▪外形寸法:320(W)×30(H)×295(D)mm ▪重量:2.7kg REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.10または10.11、INTEL Core i5以上のプロセッサー、2GB以上のRAM ▪Windows:Windows 7/8/10、INTEL Core 2 DuoまたはAMD Athlon 64 X2以上のプロセッサー、2GB以上のRAM ▪共通項目:USB 2.0ポート、29GB以上のデ ィスク空き容量(フル・インストール時)