「ELECTRO-VOICE ND96」製品レビュー:プレゼンス・ブースターを備えたステージ用のダイナミック・マイク

ELECTRO-VOICEND96
ELECTRO-VOICEからNDシリーズという新しいマイクが8種類発表された。ボーカル用4機種、楽器用4機種のうち、今回はボーカル用のND96をテスト。本機はスーパー・カーディオイドのステージ用ダイナミック・マイクで、ハンドリング・ノイズを低減するショック・マウント・カプセル機構、ハム・ノイズを減じるハム・バッキング・コイル、丈夫なメッシュ・グリルなどステージ用マイクに求められる基本的な要素を押さえている。

ノーマルな状態ではハイが伸びていて
ミッドローがスッキリとした印象

ELECTRO-VOICEと言えば、RE-20やPL-80、N/D408、N/D757など中低域に魅力のある製品が多く、個人的にも所有して使っている。それでは早速、ND96を試してみよう。まずはスタジオ・ブース内のモニター・スピーカーで聴きながらチェック。比較するものが必要になるので、自分のPA業で長年にわたりシステム・チェックするのに使っているSHURE SM58と比べてみる。声を入れると、ND96のゲインが6dBほど高い印象だ。ハンドリング・ノイズはSM58とほぼ同じくらいで、全く問題無い。

音色はボーカル用ということでハイの伸びがあり、ミッドローはややスッキリとした印象。NDシリーズにおいて、ND96だけに付いているボーカル・プレゼンス・ブースター・スイッチ(以下、プレゼンス・ブースター)を入れてみると、ローがわずかに抑えられるとともに、ハイミッドも抑えられてスーパーハイが伸びるように感じられる。

続いてはPAシステムにつないで声を入れてみよう。持論なのだが、ハウリングに強いマイクは確かにあるものの、ハウリングを避けられるかどうかはマイクだけの問題ではなく、そのほかの機材をいかに使うか、どのような音楽で使うかにもよるので、万能ではないと思うのだ。マイクにおいて重要なのは、音のカブりが多いかどうか、音の密度が高くて声をしっかりとらえられるかどうかだと思う。出音はヘッド・アンプの使い方などでも変わってくるので、ここからは客観的なレポートというより、テストした環境での個人的な印象になることをご了承願いたい。

まずはホール内に音源を流し、ステージのセンターに立てたND96がどのくらい拾うかでカブりについてチェックした。これはSM58とあまり変わらない印象だったので、ボーカル・マイクとしてはほぼ問題無いということになる。音については、抜けは良いがパワーの少ない傾向にあるコンデンサー・マイクに比べると、密度がしっかりある印象。ステージ・モニターからの出音も申し分無い。

プレゼンス・ブースターを入れると、普段ボーカル・マイクにおいてEQでカットしたくなるようなポイントがあらかじめ切られるように感じた。歌の少しモタついてしまう帯域と、やや耳に痛いところがマイクの特性に合わせて調整されるような感じで、耳だけを頼りにEQしていくよりも正確に、エネルギーを失わずに音作りされる印象。少しザリっとしたハイは、明りょう度をキープしていた。

ローのもたつきやハイの飽和を避け
声を的確にとらえられる

さらにリハーサルの現場で、実際にボーカル・マイクとして使ってみた。ボーカリストは角松敏生さん。まずは自分のSM58を使いスピーカー・チューニングを施した後、プレゼンス・ブースターをオンにしたND96をテスト。グリルのトップが平面になっていて広いので、声を的確にとらえている。近接効果によるローの膨らみが抑えられる上、元からハイが伸びていてポップ・ノイズがほぼ気にならなかったので、ボーカリストとしてもオンマイクで歌いやすいのではないかと思う。角松さんにND96の感触を伺ってみると“いいね、合うね”との答えが。併用しているイアモニは、普段EQでローをカットしてハイをブーストする傾向にあるが、ND96使用時はフラットで問題無かった。角松さんの印象と機材の設定が一致しているわけだ。オフマイク時の音の伸びは、普段使っているコンデンサー・マイクほどではないが、音圧はさほど落ちなかった。

角松さんの後ろにはギター・アンプがあったので、その音がどのくらいカブるかも確かめてみた。SM58よりは少し多いかもしれないが、コンデンサー・マイクにあるようなバシャバシャしたカブりは感じられず、ギターのハイが奇麗に入ってくる印象。総合的には、ローのもたつきやハイの飽和を避けつつ歌をとらえるのに好印象なマイクだ。

そのほか、角松さんがOTODAMA SEA STUDIOという浜辺にあるライブ・ハウスへ出演した際、本番で使用してもらった。過酷な環境だったが、音質にはコンデンサー・マイクのような伸びが感じられ、クリアなサウンドを届けてくれた。ハイのザリっとした部分が少し出過ぎてしまう場面もあったが、角松さんもストレスなく歌えたようで、良いパフォーマンスに一役買ったと思っている。

良いマイクと言われているものでも、人や音楽、そして環境によって選んで使うものだ。そうした諸要素と合わないマイクを使い、無理やりEQした音は聴き苦しいものである。NDシリーズには4種類のボーカル向けモデルがそろっているので、歌い手とマッチすれば、より良いパフォーマンスが期待できるだろう。

▲NDシリーズには、ND96のほかにも7つの機種がラインナップされている。左からボーカル用のND76(27,800円)、ND76S(29,800円)、ND86(34,800円)、楽器用のND44(28,500円)、ND46(34,800円)、ND66(39,800円)、ND68(39,800円) ▲NDシリーズには、ND96のほかにも7つの機種がラインナップされている。左からボーカル用のND76(27,800円)、ND76S(29,800円)、ND86(34,800円)、楽器用のND44(28,500円)、ND46(34,800円)、ND66(39,800円)、ND68(39,800円)

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年10月号より)

ELECTRO-VOICE
ND96
39,800円
▪形式:ダイナミック ▪指向性:超指向 ▪周波数特性:30Hz〜15kHz(オンマイク時)、140Hz〜15kHz(オフマイク時) ▪感度:3.3mV/Pa@1kHz ▪最大SPL:140dB以上 ▪インピーダンス:350Ω(バランス接続) ▪外形寸法:50.5(φ)×170(H)mm ▪重量:323g