
視認性が高まったLCDディスプレイ
録音機能へアクセスしやすいボタン配置
本体を手にしてまず目に飛び込んできたのは、従来機と比べて2倍の大きさとなる液晶画面です。多くの情報を一度に確認できる視認性の高いブルー・ホワイトのLCDやシンプルになった入力レベル・ノブ、基本的なボタンの位置などはMKⅡのデザインを踏襲しつつも、全体的にデザインが洗練された印象。マイク・ユニットの周りは丈夫なバンパーでしっかり囲われて補強されているので、ヘビー・ユースに耐え得る仕様となっています。
MKIIではボトム・パネルにさまざまなスイッチ類が配置されており、レコーディング時にはカメラ三脚やマイク・スタンドに筐体を固定するため、ちょっとした切り替えにわずらわしさを感じることがありました。しかしMKIIIのボトム・パネルではスイッチ類がすべて無くなり、とてもスッキリしています。
また、録音時によく使う機能へアクセスするためのボタンがトップ・パネルに配置されているので、メニューを操作してあれこれ探さずとも容易に設定が可能になりました。録音フォーマットもMKIIは24ビット/96kHzまでだったのに対し、MKIIIでは24ビット/192kHzまで対応しています。
筆者が個人的に気に入った仕様は、記録メディアのスロットが右サイド・パネルに搭載されたこと。MKIIはフロント・パネルのマイク側にスロットがあったため、野外録音の際にウィンド・ジャマーを装着しているとSDカードの入れ替えをしづらかったのですが、これはうれしい改良点です。
レンジが広いくっきりとした音像で
起動してからすぐに録音を行える
次は、先日筆者がMKIIIを導入して実施したフィールド・レコーディングについて記します。場所は神奈川県の奥地にある渓谷。到着するやいなや、渓流で遊ぶ子供たちを発見。谷間に反響するはしゃぎ声と水しぶきをレコーディングするため準備……電源ボタンを押してからの起動が速い! フィールド・レコーディングでは音との出会いは一期一会。とにかく面白い音が聴こえたらすぐに録音ができる瞬発力はとても重要です。
次にグリップ・ノイズが入らないよう三脚にMKIIIを固定して、録音フォーマットを最高位の24ビット/192kHzに設定。ラバー付きの入力レベル・ノブはグリップ力が上がり操作性が向上、L/Rの入力レベル値調整はディスプレイ内でデジタル表示されるため、調整しやすくなりました。トップ・パネルの“INPUT LEVEL”スイッチの切り替えで、STEREOもしくはL/Rで個別にレベル調整が可能です。L/R別のインプット・レベルに設定した後、STEREOに戻すと両方の増減を同時に調節することもできます。
入力レベルのモニタリングも大きいディスプレイのおかげでとてもスムーズになりました。MKIIは基本的にピーク値が数字で表示されるのに対して、MKIIIはピーク値に加えてdBの目盛りが画面上に常に表示されているので、直感的なモニタリングが可能となっています。入力レベルがXLR/フォーン入力付近に付いたLEDで確認できるのもナイス。MKIIはピークを超えたときのみPEAKランプが点灯する仕様だったのですが、MKIIIは“−48/−6/PEAK”の3つの値でLEDが点灯するようになりました。これにより事前に過度な入力を抑えることができます。レコーディングの途中、何度か横を通過する車両の音が入り込みましたが、耐音圧もMKIIより許容範囲が広くなった印象です。
MKIIIの音質はMKIIと比べてさらにディテールがくっきりとしてレンジが広がり、音像がはっきりしているように感じました。対岸の水しぶきの粒立ちや、反響する声のサステイン、山中のトンネルではゆっくりと消えていく残響や天井から落ちる水滴の位置など、細かなニュアンスを録音可能。SN比、音質の改善が施されたステレオ・マイク・ユニットによって音の広がりや奥行きも自然になり、現場の音をそのまま保存することができる、といった印象です。ダイナミック・レンジ/音場の広い環境音の録音にMKIIIは最適と言えるでしょう。



(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年10月号より)