「APPLIED ACOUSTICS SYSTEMS Chromaphone 2」製品レビュー:打楽器の挙動をフィジカル・モデリングしたパーカッション・シンセ

APPLIED ACOUSTICS SYSTEMSChromaphone 2
高度なモデリング技術で知られるAPPLIED ACOUSTICS SYSTEMS。エレクトリック・ピアノをモデリングしたLounge Lizard EP-4、アナログ・シンセをモデリングしたTassman 4は筆者も愛用している。今回紹介するChromaphone 2は、そんな同社のモデリング技術の結晶とも言える製品だ。

Mallet/Resonatorセクションで
さまざまなサウンドを生成

Chromaphone 2は、打楽器が発音するときのふるまいを演算でシミュレートし発音するフィジカル・モデリング音源。パラメーターは、通常のシンセサイザーやPCM音源とは異なり、アコースティック打楽器の各部分を模したものになっている。音色を作るというよりも、オリジナルの楽器を組み立て、調節する感覚だ。

“何で”たたくかを決めるのが、Malletセクション。その名の通り、マレットやスティック(バチ)にあたる。ここでは、硬くて細いスティックなのか、柔らかく打面の広いマレットにするのかを、つまみで調節できる。併せて、さまざまなサウンドのアタック・ノイズを加えることも可能だ。

一方、“何を”たたくを決めるのはResonatorセクション。さまざまな素材が選択でき、弦を選べばハープ、木の板ならマリンバ、金属の板でシンバル、皮であればドラムのようになる。2系統のモジュールを装備するので、異なる素材を組み合わせ可能。さらにそれら素材の硬さやたたく場所、余韻の長さなどを自由に調節できるので、硬いアタックと柔らかい余韻といったレイヤー・サウンドを作ったり、現実にはあり得ないような組み合わせでオリジナル楽器を作ることも可能だ。

発音体と共鳴体の相互作用も再現
エフェクトやアルペジエイターも装備

Chromaphone 2では、2つのResonatorセクションを直列に接続(カップリング)できる。この場合、片方がたたく対象、もう片方が共鳴体となる。例えば、金属の板+パイプでビブラフォン、弦+木の板でベース、といった具合。ここで面白いのが、このカップリングでは、単に一方向に振動の情報が流れているだけでなく、相互に影響しあうように設定されている点だ。例えばビブラフォンだと金属板がパイプを共鳴させるだけでなく、パイプの共鳴が金属板の振動にも影響を与える。こういったアコースティック楽器で起きている複雑な挙動をシミュレートしているので、サウンドがとてもリッチだ。

また“何で”たたくかに関しても独特の機能があり、Malletセクションのほかに、Noiseセクションも装備。これはアタック・ノイズとはまた別で、ノイズによってたたくという動作になる。実際にはあり得ないのだが、イメージとしては、細かい粒や玉を発音体の上に落とし続けているような形。スネア・ドラムの響き線のような音色が可能になるのだが、さらに積極的に使って、持続音を作ることもできる。金属板やパイプによる持続音はユニークでこれでしか得られないサウンドだ。

こうして作られたサウンドは、最終的にエンベロープ・ジェネレーターで音量を整えられる。一般的なADSRだけでなく、アタックの後、音量を一定時間保持するAHDモードも装備しているので、鋭いアタックを損なわず音量変化をコントロールできるわけだ(画面①)。

▲画面① エディット画面ではMallet、Resonatorの選択だけでなく、LFOやEG、Noiseなどを備え、打楽器を作成するように音色のエディットが行える ▲画面① エディット画面ではMallet、Resonatorの選択だけでなく、LFOやEG、Noiseなどを備え、打楽器を作成するように音色のエディットが行える

Chromaphone 2には、EQ、コンプレッサー、ディレイ、コーラス、リバーブも内蔵。いずれも打楽器には欠かせないエフェクトで、本機だけでも完成度の高いサウンドが実現できる。それぞれのオン/オフは簡単なので、好みのプラグインに差し替えるのも迷わないだろう。また、シンプルながら実用性の高いアルペジエイターも装備。ライブ・シーケンスに使ってもいいし、トレモロ奏法としても使用できる。

そして、これらさまざまな機能を使った豊富なプリセットを600種類以上内蔵。グロッケンやカリンバ、マリンバのようなチューンド・パーカッション、スネアやキック、ハイハットなどのドラム・キット、ベースやClavinetのような弦楽器、さらに実際にはあり得ないような摩訶不思議なシンセ・サウンドなど、実に多彩だ。フィジカル・モデリングならではの、ベロシティや音域によるオーガニックな音色変化、フレーズへの反応が気持ちいい。

Chromaphone 2の音作りの幅広さと高品位なサウンドは、現在のモデリング技術の最先端と言える。シンセでもサンプリングでもない音色は、多くのクリエイターに新たなインスピレーションを与えるだろう。弾いて、触って楽しい音源なので、ぜひ一度手にとってみてほしい。

製品サイト:http://www.minet.jp/brand/aas/chromaphone/

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年8月号より)

APPLIED ACOUSTICS SYSTEMS
Chromaphone 2
24,000円
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.7以降、1GB以上のRAM ▪Windows:Windows 7/8/10、1GB以上のRAM ▪対応フォーマット:Audio Units、VST(32/64ビット)、RTAS(Pro Tools 9/10)、AAX Native(64ビット)、スタンドアローン ▪共通項目:1,024×768以上のディスプレイ解像度、120MB以上のハードディスク空き領域