
1,000種のプリセットを内蔵
ディスクリートVCO×2基を備えた6ポリ
まずはスペックから。本体はアフタータッチ付きセミウェイテッドの61鍵盤を採用した6ボイスのポリフォニック・シンセサイザーで、各ボイスごとにVCO×2、VCF×1、VCA×1、LFO×1とエンベロープ(ADSR)×2で、これらはすべてトゥルー・アナログ回路です。これにステレオのデジタル・エフェクトと64ステップのポリフォニック・ステップ・シーケンサーを内蔵しています。見た目は往年のOBERHEIM製品にそっくりなストライプ入りのデザインですが、ノブを回した感触を含め、全体の質感はDAVE SMITH INSTRUMENTS Sequential Prophet-6などと共通したものがあります。液晶画面をあえて採用せず、スイッチ類のデザインも1980年代をほうふつさせるクラシックな見た目がそそられます。
プログラムのパッチ・メモリーは500ユーザー+500ファクトリー・プログラムで計1,000とかなり多いのもOBERHEIM製品にあった仕様ですが、これを100プログラムずつ10バンクに分けて保存しています。工場出荷時のプリセットを全部試してみるだけでお腹いっぱいですが、使える音色がたくさん入っているので、音作りの苦手な人にも即戦力となるでしょう。
VCOはディスクリート仕様で、波形が連続可変するタイプ。VCO 1はノコギリ波からパルス波へ、VCO 2は三角波〜ノコギリ波〜パルス波とノブで変更できます。もちろんパルス幅は別のノブで調整可能です。フリケンシー(ピッチ)は半音単位で可変するProphetシリーズと同様の仕様で、9オクターブをフォローします(写真①)。

2つのオシレーターはシンクできるほか、VCO 2はキーボードやMIDIノートを無視して一定のピッチに固定することもできます。VCO 2はピッチを下げて第2のLOW FREQボタンを押すことでLFOとしても利用できるようになっているので、モジュレーション・ソースとして使用する場合などに便利です。
UNISONボタンは6ボイスを同時に発音してモノフォニックのような動作をさせるときに使用しますが、隣のDETUNEノブを回していくと、故意に各ボイスのピッチをランダムにずらし、分厚い音を作るのに役立ちます。DETUNE機能はこれまでにもしばしばあった機能ですが、本機のものは特にずれ加減がリアルで自然にばらける感覚がありました。ビンテージっぽいです。
また2つのオシレーターをまとめるミキサー・セクションではサブオシレーターとホワイト・ノイズを付加することも可能で、サブオシレーターの出来も好印象です。
OBERHEIM SEMにインスパイアされた
2ポール・マルチモード・フィルター
フィルター・セクションを見ていきましょう。OB-6のフィルターはローパス、ハイパス、バンドパスによって構成されるアナログ・ステート・バリアブル・フィルターで、2ポール(−12dB/Oct)です。OBERHEIM SEMにインスパイアされたとうたわれていますが、モード切り替えノブの12時位置がノッチ(バンドパスの逆のカット)になっており、BPボタンを押すとバンドパス・モードに切り替わるようになっています(写真②)。

2ポールは一般的な4ポール・タイプのフィルターよりもカットオフのスロープが緩く、レゾナンスも発振しなくなっていますが、音のヌケが良く、非常に音楽的なキャラクターを持っているフィルターです。この辺りがSEMの持つ特性でもあったのですが、本機はまさにそのニュアンスを受け継いでいます。
フィルター・セクションにはキーの上昇に合わせてフィルターが開いていくTRACK(オフ/ハーフ/フル)に加え、独立したADSRタイプのフィルター・エンベロープが用意されています。これは逆相にもかけられる上、ボタン一つでキー・ベロシティに反応させることもできます。さらにこのフィルター・エンベロープは、後述するX-MODセクションのFILTER ENVノブでレスポンス・カーブを変化させることも可能です。言葉で説明するのは難しいのですが、いろんなシンセをいじった方であれば機種によってエンベロープのかかり方が違っていることに気付いているでしょう。これはカーブが単純な直線でないことを表していますが、フィルターをスウィープさせたときなどに如実にその違いが出ます。特にDAVE SMITH INSTRUMENTSの製品は特徴的なカーブを持っていて、フィルターの切れ方に独特なニュアンスをもたらしますが、このOB-6にはアタックやディケイのタイムを短くしたときなどにまた違ったキャラクターがあるなと最初から感じていました。そのカーブに柔軟性を持たせてサウンドを調整できるようになっているわけです。
そのX-MODセクションを詳しく見ていきます(写真③)。

ここでは風変わりなモジュレーションを得るための要素が詰まっています。モジュレーション・ソースはフィルター・エンベロープとVCO 2で、デスティネーションとして選択できるのはVCO 1、SHAPE1、PW1、フィルターのカットオフなどのほか、フィルター・モード、ノッチ/バンドパスの移行(NORM↔BP)などにも適用できます。このセクションの応用で、例えばVCO 2でカットオフを動かせばオート・ワウ効果を出せますし、VCO 2でVCO 1のピッチをモジュレートしながらオシレーター・シンクをかけるとなかなか面白いことになるので試してみるといいでしょう。VCO 2の波形をパルス波にしてノッチとバンドパスを周期的に切り替えてみる、といった使い方もかなりド変態で良いです。
通常のLFOによるモジュレーションは独立した扱いになっています(写真④)。

波形はサイン波/ノコギリ波/反転ノコギリ波/矩形波/ランダムが用意され、デスティネーションとしてVCO 1、VCO 2、パルス幅、VCA、フィルター・フリケンシー、フィルター・モードが選べます。パルス幅は2つのVCOを個別にオン/オフ可能です。LFO SYNCをオンにすれば、後述のアルペジエイター、シーケンサー、MIDIクロックに周期が同期します。
さまざまなクロック同期にも対応する
アルペジエイター/ステップ・シーケンサー
OB-6はアルペジエイターとシーケンサーを搭載しています(写真⑤)。

アルペジエイターがオンになるとシーケンサーは無効化されますが、テンポは内蔵クロック(BPM表示)、タップ・テンポや外部同期にも対応するほか、逆に外部機器をコントロールしたりもできるようになっています(写真⑥)。

リア・パネルにトリガー入力があるので、古いタイプのリズム・マシンやモジュラー・シンセのステップ・シーケンサーなどとも同期できます。
アルペジエイターにはテンポに対する音価(音の長さ)を決めるVALUEのほか、OCTAVES(1/2/3)、MODE(UP/DOWN/UP DOWN/RANDOM/ASSIGN)というパラメーターが用意されています。鍵盤近くのHOLDボタンを押すとラッチ・モードになり、鍵盤から手を離しても次の鍵盤を押すまでアルペジオが繰り返されます。
一方、ステップ・シーケンサーは1トラック/64ステップという仕様で、1ステップには6音までの和音を記憶できます。プログラミングの仕方は簡単で、まずRECORDボタンを押し、鍵盤を押していくだけです。現在のステップ・ナンバーがディスプレイに表示されます。鍵盤を押していないときにIncrement(TENS SELECT)ボタンを押すと休符が入り、鍵盤を押している間にこのボタンを押すとタイ、つまり音符が伸張されます。
PLAYボタンを押すと今プログラミングしたものがプレイバックされ、プレイバック中にRECORDボタンを押しながら鍵盤を押すとトランスポーズされます。またシーケンスの内容はユーザー・バンクへ音色と同時に保存されるようになっています。
2系統のデジタル・エフェクトに加え
アナログ・ディストーションも実装
エフェクト・セクションは24ビット/48kHzのデジタル仕様で、A/Bの2系統が用意されています(写真⑦)。オフにするとトゥルー・バイパスになり、音源はデジタル回路を通過せずに出力されます。

エフェクトAはBBD素子風のディレイとデジタル・ディレイ、ビンテージライクなコーラス、フランジャー2種、フェイザー3種、リング・モジュレーターが切り替え可能。フェイザーのうち1種とリング・モジュレーターはトム・オーバーハイムによるオリジナル仕様です。
エフェクトAを通過した音はエフェクトBへ流れます。このルーティングは変更できませんが、BにはAと同じエフェクトに加え、リバーブ4種類が追加されています。スプリング・リバーブ風のものもあり、デジタルでローノイズとはいえ、どれもあまりギラギラとしないので、シンセに効果的で雰囲気に合う音色が選ばれている印象です。
また近年のアナログ・シンセにお約束となりつつあるアナログのディストーション回路もこっそり内蔵しています。これはEFFECTボタンを1秒以上押さえると呼び出され、そのままMIXノブを回すことで効果の強さを決めることができます。マニュアルを読まないと気がつかない、数少ない機能の一つです。
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このOB-6の音を聴いた方はまず“これ、いいっすね!”と言ってしまうに違いありません。一聴した印象が他社と違うばかりか、DAVE SMITH INSTRUMENTSのほかのモデルともかなり違うように感じます。オシレーターの倍音の心地良さ、フィルターのヌケ感、エフェクトの広がり感もただならぬセンスの良さがあります。ビンテージ・シンセの持つメロウでウォームなサウンドと、現行製品特有のピッチの安定感を併せ持つ秀逸なシンセだと言えるのではないでしょうか。ヴァン・ヘイレン「ジャンプ」ばりの、ニヤっとするOBERHEIM特有のブラスのキャラクターから、いまどきのインディー・ロックでバックに鳴ってそうなキラキラしたパッドまで、いろいろ出せる汎用性の高さ。なおかつ操作すべきパラメーターのほとんどがパネル上に見えているというアクセシビリティも時代を超越して評価できます。単なる懐古趣味に終わらず、普遍的に付き合える一生ものの買い物になると思います。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年8月号より)