「SPL Creon」製品レビュー:モニター・コントローラー機能を備えた小型USBオーディオI/O

SPLCreon
スタジオワークを知り尽くしたマニアックな製品で有名なSPL。長年好評のモニター・コントローラーにも昨今はさまざまなバリエーションを加えている。今回紹介するのは、本格的なモニター・コントローラー+USBオーディオI/Oの統合デバイスCreon。2014年に紹介した同社Crimsonの流れをくむ機種の登場である。

機能を絞り込んでコンパクト化
上級機と同等の精巧な操作感

Creonが通常のオーディオ・インターフェースと異なるのは、モニター・コントローラー部をメインに据えた設計であることだ。MTCやSMCなど同社専用機ゆずりの本格的アナログ・アクティブ回路で構成されているので、デジタル領域でのビット解像度の問題や、パッシブ回路において起こるインピーダンスの変化によるリニアリティの低下などを回避することが期待できる。本体の幅は260mmとなり、330mmのCrimsonよりコンパクト。それでも2kgの重量があるのでギター・ケーブルに引っ張られるようなこともなく、操作時の安定感は抜群だ。

まずは要となるモニター・セクションを見ていこう。アナログのSources L/Rはステレオ2系統で、リア・パネルの端子(フォーン/RCAピン)にCDプレーヤーなどを接続できる。デジタルはUSB経由によるDAWのステレオ出力1系統で、計3系統を混ぜてモニター可能だ。スピーカー用のメイン・アウト(XLR)は1系統だが、業務用パワー・アンプにもそのまま対応。大きなVolumeつまみは軽快ながらも精巧に動くので全くストレスが無い。一方で各インプットつまみの方にはしっかりと止まる手応えがある。本体の手前に装備したヘッドフォン端子は20〜600Ωに対応しており、ハイインピーダンス仕様のヘッドフォンもしっかりドライブできる。

次に録音セクションに移ると、リア・パネルにMic Inputs 1/2(XLR)、Line In L/R(フォーン)、手前にInstrument(フォーン)という5つの入力端子を装備。これらの入力をUSB経由でDAWに2ch録音可能だ。入力はプラグを挿すだけで内部で切り替えられ、Instrument→Line→Micの順で優先される。DAWへの録音時はInputsボタンを押すことで本機内部でのダイレクト・モニタリング状態となる。DAW上のバック・トラックとのバランスはMonitor Mixつまみで調整可能なのが便利だ。モニター用のデジタル・ミキサーは内蔵していないが、アナログ段階で混ぜるため当然遅延の心配は無い。なお本機にはスピーカーのミュート・スイッチが無く、DIM(−20dB)スイッチのみの装備。通常、楽器録音においては演奏音のモニターのためにMonitor Mixつまみを左寄りで使うことが多く、スピーカーのボリュームが上がりがちなため、スピーカーの保護を考えて意図的にミュート・スイッチを付けていないのではないかと筆者は考える。

スピード感を持ちつつ立体感のある音
スタンドアローン使用時も空き端子が活躍

さて実際に録音作業に使ってみよう。本機はUSB 2.0クラス・コンプライアント対応なのでMacではドライバーのインストール無しで使用できるほか、iOS機器でも使える。今回はMOTU DP8で使用するためハードウェア設定で“Creon”を選択。DAW側から見たCreonは2イン/2アウトのインターフェースとなる。これだけでMic Inputsの信号はInputスイッチを押さなくても既にDAW側に来ている状態。Creonのダイレクト・モニタリングを使うので、DAW側はインプット音をミュートする。

Mic Inputsは+8〜+60dBで、ダイナミック・マイクでボーカル録音する場合でもゲインは十分。入力インピーダンスが10kΩと高めなせいもあってか、アコースティック・ギターとの相性が良い。ハイパス・フィルターは75Hz(6dB/oct)で、低域多めのリボン・マイクにも対応可能。コンデンサーだけでなくダイナミックやリボンでもSPLらしいスピード感のあるサウンドが録れた。再生側も音量の大小にかかわらず普段より明快なサウンドでモニターできるので、必要以上のEQをしなくて済みそうだ。リバーブ感や奥行きがとてもよく見え、低域にも立体感があって味わい深い。音質的にはほとんどCrimsonに負けない印象で、これがまさにアナログ・アクティブ回路の利点であろう。ちなみにVolumeつまみは8時〜2時の位置で使用するのが、音質的ロスが少なくて良いそうだ。

Instrument入力は−6〜+31dBで、パッシブのエレキギターをつないでもかなりの余裕がある。特にアクティブ・ピックアップのエレキベースが、コンプ無しでも安定したレベルと音質が得られて、とても印象が良かった。

最後に本機のUSB端子をつながずに単なるモニター・コントローラーとしてスタンドアローンで使ってみた。DAWの出力は外部オーディオI/OからSources L/Rに入力。当然これまで使い慣れたの音色バランスを保ちつつ、より質の高いモニター音が得られる。ここでLine In L/Rにガイド・クリックを返してみたが、手元で即座にオン/オフできて便利であった。

多機能なCrimsonと比べると本機の仕様はシンプルだ。しかしアナログ部のスペックを見ると同等の数値となっており、音質や耐久性も含めほとんど同じ感覚で使えるのではないだろうか。設置スペースを理由に、コンパクトになった本機を選ぶ人も多いだろうと思われる。

▲リア・パネル。左よりUSB端子、電源端子、Spaeker/Main Out L/R(XLR)、Sources L/R(RCAピン、フォーン)、Line In L/R(フォーン)、Mic Inputs 1/2(XLR) ▲リア・パネル。左よりUSB端子、電源端子、Spaeker/Main Out L/R(XLR)、Sources L/R(RCAピン、フォーン)、Line In L/R(フォーン)、Mic Inputs 1/2(XLR)

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年5月号より)

SPL
Creon
62,500円
▪接続タイプ:USB 2.0 ▪入出力:2イン/2アウト(アナログ) ▪最高ビット&レート:24ビット/192kHz ▪入力インピーダンス:10kΩ(マイク/ライン)、1.1MΩ(楽器) ▪ダイナミック・レンジ:128dB(A/D)、124dB(D/A) ▪外形寸法:260(W)×67(H)×175(D)mm ▪重量:2.0kg REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.6以降 ▪Windows:Windows XP/7/8/10 ▪iOS:iOS 6以降