「SHURE KSM8」製品レビュー:ダイアフラムを2枚備えたハンドヘルド型のダイナミック・マイク

SHUREKSM8
ライブ用のボーカル・マイクと言えばSHURE SM58が代名詞的存在であり、その質と実勢について異論を唱える人は少ないだろう。そのSM58を手掛けるSHUREから、新たなボーカル用マイクKSM8が発売された。本機は全く新しい発想で作られており、“デュアル・ダイアフラムを採用した世界初のハンドヘルド型ダイナミック・マイク”とうたわれている。単一指向性で、ダイアフラムを2枚使うことにより近接効果を大幅に抑え、軸上において色付けなく収音できる距離を伸ばしたとのことだ。それでは早速レビューしていこう。

近接効果や低域の減衰を抑制
コンデンサー・マイクのようなサウンド

KSM8のカートリッジは特許取得済みの設計で、超極薄のダイアフラムを2枚(アクティブとパッシブを1枚ずつ)と逆エア・フロー・システムを備えている。この“デュアルダイン・カートリッジ”が、近接効果による低域の持ち上がりや、ソースとの隔たりが大きい場合の低域の減少(音ヤセ)など構造上の問題を改善。中域から高域にかけてフラットな特性を獲得し、従来のダイナミック・マイクよりもナチュラルなサウンドを実現したという。また軸外音の入り込みを抑制することで、フィードバックへの対策にもなる。そのほか中空式のショック・マウントにより、低域のレスポンスを損なうことなくハンドリング・ノイズを抑制。グリルの疎水性織布ライニングでは、ポップ・ノイズなどを防ぎつつ、防水に迫る耐水性を実現しているという。高級感のある筐体デザインも手伝って、持つ者に喜びを与えてくれるだろう。

それではボーカルのレコーディングで音質をチェックしてみよう。まずはS/N。この価格帯のマイクとしては標準的で、全く問題無い。感度はSM58より少し高い印象だ。また同じクラスのダイナミック・マイクSENNHEISER MD431と比べてみると、KSM8の方が5dBほど高い。最近設計されたマイクということで、やはりこの辺りは改善されているのだろう。

肝心の音質は、かなり筆者の好み。聴感上はコンデンサー・マイクのようで、低域から高域までしっかりと収めている。中高域は耳に痛いところが無く、それでいて気持ち良く抜けてくる。GML 8200などの高級アナログEQで超高域を持ち上げているような特性は、ボーカリストが心地良く歌えるツボを心得ている印象だ。またエンジニアにとっても、ノー・エフェクトでこの音質を得られればEQする必要が無く、素早く高いパフォーマンスを発揮できるのではないか? また本機の良さは、低域の豊かさにもある。欲しい低域が十分に得られつつも、無理に誇張された音ではないのだ。この音質なら、ボーカルのほかアコースティック・ギターなどにもお勧めできる。

軸外音の各帯域が満遍なく減衰
ハンドリング時の低域ノイズが少ない

次に軸外減衰についてもチェックしてみた。私はライブ・レコーディングの仕事も多いので、かぶりの多寡は大いに気になるところだ。ライブ録音の音質を向上させるために重要なのは、かぶりをいかに少なくするかである。例えばボーカル・マイクに楽器のかぶりが多いと、ミックスでEQやコンプをかけた場合にそれらが強調されてしまい、意図したサウンドを得にくくなるからだ。しかしこのKSM8は、軸外のあらゆる帯域の音を満遍なく減衰させつつ、その減衰のカーブも自然な印象。特に背面の遮音性に優れているので、レコーディング/PAの両エンジニアにとってうれしいマイクと言える。

ハンドリング・ノイズについては、ボコボコしたような低域のノイズがSM58などよりも少ない。しかし筐体に手がこすれる際に発生するカサカサした音は、マイクの特性なのか、それほど除去できていない。とりわけ先述のMD431と比べたときにカサカサ音が気になった。とは言ってもSM58と同程度なので、通常の使い方で気になるものではないだろう。

以上いろいろと検証してきたが、KSM8の最大の特徴はやはり音質と軸外減衰の品質だと思う。特に音質は、新しい次元で完成されていると言って良いレベルだ。また凹みにくい焼き入れ炭素鋼グリルを採用するなど、細かい部分もプロ機器としての要素がきちんと押さえてある。この辺りはさすがに世界のトップ・シェアを誇るメーカーの製品であり、長く安心して使えるモデルだと思う。

▲カラー・バリエーションのニッケル ▲カラー・バリエーションのニッケル
▲付属のジッパー付きバッグ。中にはクッションが張ってあり、マイクを安全に持ち運べるようになっている ▲付属のジッパー付きバッグ。中にはクッションが張ってあり、マイクを安全に持ち運べるようになっている
▲焼入れ炭素鋼のグリルを外すと、メーカー名の頭文字を刻印したユニット部が見える ▲焼入れ炭素鋼のグリルを外すと、メーカー名の頭文字を刻印したユニット部が見える

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年5月号より)

SHURE
KSM8
88,000円
▪形式:ダイナミック ▪指向性:単一 ▪感度:−51.5dBV/Pa ▪出力インピーダンス:300Ω ▪周波数特性:40Hz〜16kHz ▪外形寸法:48.3(φ)×187.9(H)mm ▪重量:330g