「RETRO OP-6」製品レビュー:RCA OP-6を現代によみがえらせた1ch仕様の真空管アンプ

RETROOP-6
私が音楽業界に入った1980年代はAPIやNEVEなどのディスクリート機材が中心で、実は真空管機材に触れる機会はあまりありませんでした。その後1990年代に入ってTUBE-TECHなどのメーカーが台頭し、現在ではさまざまな真空管機材を選ぶことができるようになってうれしい限りです。今回紹介するRETRO OP-6は、1940年代に活躍したRCA OP-6を現代風に復刻して作られた1ch仕様の真空管アンプです。

ランチボックス型の愛嬌あるボディ
入出力段にカスタムのトランスも装備

OP-6はビンテージ感満載のランチボックス・タイプで、グレーに塗装された金属製の工具箱のようなデザイン。ふたを開けて使用するタイプです。フロントの操作子にはビンテージ風のパーツが採用されており、スイッチ、つまみ、メーター、ランプ、すべての作りが大きく、愛嬌のあるルックスとなっています。パネル中央には大きなVUメーターとVOLUMEノブがあり、その左側にマイク・インピーダンス切り替え(37/150/600Ω)、メーター表示の切り替えスイッチ、右にトグル式の電源スイッチとOUTPUTつまみがレイアウトされています。中の真空管はRCAのNOSを中心としたものが使われ、トランスはインプット/アウトプット/電源とも専用にカスタムされたものを使用。各パーツはポイント・トゥ・ポイントでハンド・ワイアリングされており、丁寧な作りと言えます。

使用上の注意点ですが、メーター切り替えスイッチのV1/V2/V3は真空管のチェック用なので、切り替える際にノイズが出る場合があります。通常はVUのポジションで使用するのがよいでしょう。ステップ式のVOLUMEつまみはAカーブが採用されており、左側からゲインを上げていくと変化量が大きく、12時くらいの位置から変化量が少なくなっていきます。インピーダンス切り替えスイッチはどのポジションでも音が出ますが、音色に多少変化があるので、好みで使用してください。OUTPUTつまみはアッテネーターで、基本的には右いっぱいに回し切って使用するのがよいでしょう。入力端子はHi-ZとMICROPHONEが用意されていますが、同時にケーブルを挿した場合はHi-Zが優先されます。

リアルな音色と距離感
ベースのDIとしても優秀

まずダイナミック・マイクをスネア/キックに立ててみました。これまで聴いたことがないリアルな音色と距離感です。低域が100Hz、高域は15kHzくらいからなだらかにロールオフする、アナログ・テープに録音したような音色。距離感は耳元でささやかれているようで、1940年代にこのような音が鳴っていたのかと驚きました。

次にドラムのトップに単一指向性のコンデンサー・マイクを立てて聴いてみましたが、シンバルにスティックが当たる際のアタックが品良く、良質なジャズ・レコードのドラム・サウンドを想起させます。次にこのマイクをオフめに移動して聴いてみましたが、距離感がリアルに表現され、まるで無指向性マイクのように聴こえました。マイクの位置を少し動かしただけで音色/距離感が大きく変わるので、エンジニアがセンスや技量を発揮できるでしょう。

次にコンデンサー・マイクをアコースティック・ピアノにオンマイクで立てて聴いてみましたが、中域の密度が高く、リズムが鮮やかに聴こえ、アメリカ南部音楽の、良い意味で泥臭くカッコいい雰囲気の音になります。オフマイクでも試してみましたが、これも距離感が素晴らしく、ピアノのボディの響きを含めた倍音を奇麗にとらえるので、コード感の表現も良いです。

アコースティック・ギターにコンデンサー・マイクをオンめに立てて聴いてみたところ、何だか聴き覚えのある音色がします。ベン・ハーパーのギターやアメリカン・ルーツ・ミュージックを思わせる、乾いた鳴りの倍音がよく聴こえる音で、“探してきたサウンドがやっと見つかった”とすら思わせる、好みの音色でした。最後にエレキベースのDIとして使用してみましたが、ボディの鳴りと倍音が素晴らしく、DIにありがちな過剰なアタックも感じられません。ベース・アンプをマイクで拾った音に近く、100Hz以下が自然にロールオフしているので無駄な低音も無く、表現力豊かです。本機は高価ですが、単体のDIとしても実力は十分だと思います。

オリジナルのOP-6の時代はステレオ・バランスによる左右の定位がなく、楽器の音量や前後の奥行きでしか音楽を表現するすべがありませんでした。当時のエンジニアはスタジオの響きやマイク・ポジションを考慮し、技術やセンスを磨いていたのだと思います。OP-6はアタック感、距離感、音色すべてに個性があり、使っていて往年のエンジニアリングの素晴らしさを追体験するような思いがしました。その一方でヘッドルーム/SN比は優秀で、今日のレコーディング状況にもマッチしています。古き良きアメリカの生音好きにはたまらない製品だと思いますし、シンセなどを通してトラック・メイクに活用しても面白いでしょう。ベース音好きの音楽人にお薦めできる1台です。

▲トップ・パネル左上のスイッチは上からファンタム電源、位相反転、PAD。その下にHi-Z(フォーン)とMICROPHONE(XLR)入力をレイアウト ▲トップ・パネル左上のスイッチは上からファンタム電源、位相反転、PAD。その下にHi-Z(フォーン)とMICROPHONE(XLR)入力をレイアウト
▲トップ・パネル右にはファンタム電源、位相反転、PADの動作ランプを配置。その下は電源端子とOUTPUT(XLR) ▲トップ・パネル右にはファンタム電源、位相反転、PADの動作ランプを配置。その下は電源端子とOUTPUT(XLR)

製品サイト:http://www.miyaji.co.jp/MID/product.php?item=OP-6

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年3月号より)

RETRO
OP-6
オープン・プライス(市場予想価格:460,000円前後)
▪ゲイン:80dB以上 ▪マイク・インピーダンス:37/150/600Ω ▪外形寸法:315(W)×225(H)×140(D)mm(実測値) ▪重量:約7kg