
左右のエンクロージャーをまとめて
片手で持ち運ぶことが可能
箱からスピーカー本体を取り出してみると、何と上部に取っ手が付いています。本機はスピーカー・ユニットのある面を向かい合わせにして1つにまとめることができ、その場合は片手で両方のエンクロージャーを持ち運べるようになります。リアには入出力端子を隠せるようにマグネット吸着タイプのふたが付いていて、重量もそんなに重くないですし、まさに持ち運びを意識した作りです。
一番の特徴は、フロントのロゴでも察しが付く通り、FOCALのスピーカー・ユニットを採用している点。おなじみの逆ドーム・ツィーターで一目りょう然でしょう。内蔵パワー・アンプの出力は最大150Wで、L/Rchそれぞれの低域に50W、高域に25Wのパワーが供給されます。
入出力端子やアンプはLchのエンクロージャーにまとめられています。つまりRch側はスピーカーのみで、Lchとは付属のフォーン・ケーブルで接続するという構成。Lch側の入力については、リアにTRSフォーンのメイン・インL/R、フロントにAPPLE iPodなどの携帯プレーヤーを接続するためにステレオ・ミニのAUXインがスタンバイ。このAUXインへの入力は、リアに入ったものとミックスされて出力されます。またフロントにはステレオ・ミニのヘッドフォン端子も配置。この端子を使っているときは、スピーカーからの出力がキャンセルされる仕様です。そして音を鳴らしたままヘッドフォンを外すと、スピーカーに音がフェード・イン。さりげないことですが、こうしたユニットの保護機能はよく考えられています。コントロール系としては、音量ツマミと1段階ずつブースト/カットが行える2バンドのルームEQをフロントに備えています。
ローエンドがうまく抑えられ
設置場所を選ばない印象
まずはテーブルに置いて試聴。聴きやすい音だと言えます。全体にモニター的な要素もありますが、どちらかと言えばリスニング向きの作りだと思いました。低域に関しては、40〜60Hz辺りのローエンドがあまり感じられません。しかしうまく抑えているという印象で、足も付いているため(ドライバーで取り外し可)、設置場所をほとんど選ばないという点で宅録にも向くでしょう。とりわけ打ち込み系の音楽は得意だと思います。その少し上の帯域については持ち上がっていて、ベース・ラインなどがダブつきの無い状態で見えてきます。このようにタイトで好印象な低域。反射が気になるときは、フロントのEQでローカットすれば問題無い場面が多かったです。
高域はFOCALのユニットらしい素直な印象で、変に誇張された感じがありません。ツィーターにはグリルが付いていますが、外してみたところ、より好みの音に近付きました。筆者はFOCALブランドの製品もツィーターのグリルを外して使うので、本機も似た特性と言えます。ハイエンドの量は少ないと思いますが、総合的にはどんなジャンルも気持ち良く聴けて、合う/合わないという感じが少ない。この辺りは好みが分かれるところでもありますが、筆者は“よく考えたな”と思います。曲によるレンジの広さがよく分かり、例えば高域が出ていない曲は、その出ていない感じがちゃんと再現されます。また小音量時に、全体のバランスが崩れにくいのも良かったですね。
定位感に関しては狭めですが、センターはしっかりと出ています。ステレオ感を広げたければ、横置きにすると良いでしょう。音量は、普通に使う分には全く問題ありませんが、リミッターのかかっていない生ドラムなどで大きめの音量になるとひずんできます。しかしスピーカー保護が付いていて、飛ぶことはなさそうなので安心ですね。
ブランドがFENDERということで、最初は“どんな感じかな?”と思うところもありました。しかし割り切るところは割り切って、それをカバーするような特性なので、堅実に作っているのが分かります。最近のスピーカーに多い個性の強い出音や、自宅での低域のダブつきを嫌だなと思っている方は使ってみると良いでしょう。


製品サイト:http://intl.fender.com/en-JP/series/passport/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年3月号より)