「TRITON AUDIO D2O」製品レビュー:TUBE/FETモードを切り替えられるオランダ製の1chマイクプリ

TRITON AUDIOD2O
TRITON AUDIOはオランダのアルクマールという小さな街に拠点を置くプロオーディオ製品のガレージ・メーカー。強力な磁力による非接点浮遊型のスピーカー・インシュレーターNeolevはその革新的なアイディアで我々エンジニアを驚かせた。今回はビンテージの名機TELEFUNKEN Vシリーズを参考にしたとおぼしきハンドメイドのマイクプリ=D2OがDI端子を搭載してリニューアルされたとのことで、実際のレコーディングで使用しながらレビューしていこう。

パンチあるサウンドのTUBEモード
FETモードはタイトな音の印象

D2Oを手にしてまず驚いたのが、そのコンパクトさ。さすがに電源ユニットは別になるが、手のひらに乗ってしまうほどの大きさだ。エメラルドグリーンの四角いロゴはまさにTELEFUNKENをほうふつさせ、電源を入れるとこのロゴのバックが淡く点灯するのがカッコいい。パネルも同社のEla M 251のような独特のカラーと質感で、この時点で本機の音の方向性が伺えるようだ。フロント・パネルには左からLO/HIのインピーダンス切り替え、その右に位相反転スイッチ、パネル中央には固定抵抗アッテネーター式のGAINノブ、その隣にはD2O最大の特徴でもあるFET/TUBEの切り替えスイッチ、右端は48Vファンタム電源と、とてもシンプルな仕様だ。電源はリア側にトグル式のスイッチが付いている。

また本機は内部パーツにもこだわりが感じられ、NOSビンテージ真空管に加え、入力トランスにはLUNDAHL 1571を採用するなど、なかなかの力の入れようだ。

早速音を聴いてみる。まずTUBEモードにしてドラム・キットの正面、約2mほどの距離で1.5mの高さにセットしたNEUMANN M49でテストしてみた。パッと聴きはなかなかクリアな印象だったが、ゲインを上げていくにつれパンチのあるサウンドになる。クリップする寸前になると筆者が所有するTELEFUNKEN V72Sに似たサウンドになってくるが、ドライブする感じは若干粗い印象を受けた。この状態でFETに切り替えてみると、全体的に倍音が減ってタイトな印象に変化。この状態でもドライブ感は若干粗く感じられたので、D2Oの特性なのかもしれないが、音調は力強く、粘りもある。

続いてアコースティック・ギターでテスト。貴重な1947年製のGIBSON J-45にビンテージのNEUMANN U67をサウンド・ホールをやや外して20cmほどの距離に立て、アルペジオ/ストロークでテストしてみた。どちらの奏法も、低音はたくましく伸びながらもタイトで魅力的。高音はスムーズでフォーカスがピッタリ合っている印象だ。ストロークはゲインを上げてドライブさせるとピタリと張り付くような音像になった。TUBE/FETどちらのモードも、押し出しが強く適度に荒れた中域はなかなか魅力的だ。タイトな低域のお陰でギターのボディの余計な鳴りも感じられず、バランスが良い。TUBEモードの方が高域に伸びがあり、楽器らしさが加わる印象を受けた。

次はエレキギターでテスト。赤色の1958年製GIBSON ES-335 (通称チェリー)によるソロ・パートのダビングだ。ギタリスト側でKEELEYのROSSタイプのペダル・コンプを入れて、少しだけサスティンを伸ばしている。マイクはおなじみのSHURE SM57(アメリカ製Unidyne Ⅲ)を使用。これは見事にマッチした音色になった。TUBEモードでは中域の粘り強さが全面に押し出され、粒立ちの整ったすがすがしいサウンド。FETモードは演奏の表情が明りょうで、ES-335のウーマン・トーンを余すところなく収録することができた。

最後はボーカル。低域が魅力の“ラブソングの王様”と呼ばれるベテラン歌手に、いつも使っているEla M 251でテストしてみた。ややオンマイク気味にセットしてみたが、量感がありつつタイトな低域、粘りがありながらもクリアな中域、スムーズで天井の高い高域と、よく整えられた音調を維持し、バランスを崩したり嫌な成分を出す場面は皆無。Ela M 251の持つ瞬発力や音圧は保ちつつ、強調もしない。この印象はTUBE/FETモード共通であった。筆者が普段使用しているNEVE 4081と比較すると歌声がまとう湿度感はやや低く感じたが、タイトな音像を作るのには適した個性と言えるだろう。

アナログ的な生っぽさのある出音の
コスト・パフォーマンスは高い

D2Oには入力インピーダンス切り替えスイッチも付いているが、低い方でも2.25kΩと高めな設計なので、マイクによるインピーダンスを等価させるよりは、より積極的に音色の変化を楽しむ使い方が良いだろう。

全体の印象としては、まさに“名は体を表す”、いや“姿は音を表す”。筐体の色合いや質感から受ける印象から音を想像してもらって間違いない。さすがに本家と比較すると倍音は少なく感じてしまうものの、解像度の高さは現代的であり、TUBE/FETの切り替えも相まって古典と現代の中庸を行く音の表現が魅力的に感じられた。低域はよりどっしり感が欲しいところではあるが、これは24V ACの電源アダプターによるものかもしれない。中高域はスムーズながら密度感があり、これほどエネルギッシュでアナログ的な生っぽさを感じさせるマイクプリは、この価格帯ではなかなか出会えないと感じた。

このD2Oは単体機のほかにAPI 500互換モジュール、本国では2ch分を1Uに収めたステレオ・モデルも発売されている。筆者としてはやはり2chは欲しいところだ。ちなみにそのステレオ・モデルはIECソケットによる電源供給なので、音調も若干有利に変化すると思う。ぜひ輸入していただきたい。

▲リア・パネル。左より電源端子、Output(フォーン、XLR)、Input(XLR) ▲リア・パネル。左より電源端子、Output(フォーン、XLR)、Input(XLR)

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年3月号より)

TRITON AUDIO
D2O
オープン・プライス(市場予想価格:90,000円前後)
▪ゲイン:56dB(TUBE)、67dB(FET) ▪ヘッドルーム:30dB ▪入力インピーダンス:2.25/6.25kΩ ▪出力インピーダンス:50Ω ▪外形寸法:120(W)×40(H)×170(D)mm(実測値) ▪重量:約840g