
フェーダーを上げていくと
ハウリング周波数が自動検知される
内蔵のフィルターは固定フィルターとライブ・フィルターの2種類があり、前者は会場の特性に起因するハウリングを抑えるためのもの、後者は本番中の突発的なハウリングを自動検知し抑制するものです。24個のフィルターにおける両者の比率は、シチュエーションに合わせて変更可能。ハウリングの音に似たフルートやシンセ音への誤検知は、従来機のAFS224に比べて大幅に減っているようです。
今回のテスト会場は、東京渋谷のライブ・ハウスduo MUSIC EXCHANGE。デジタル卓のMIDAS Pro2にコンデンサー・マイクのAKG C414XLS×2とバウンダリー・マイクのSHURE Beta 91Aをつなぎ、マスターへAFS2をインサートして試しました。いずれのマイクも客席側より30cmほどステージ側に入れ、C414XLSはマイク・スタンドに設置した上でセンターより約2mずつ離して左右にセット、Beta 91Aはセンターの床に置きました。またC414XLSは単一指向性にセットし、PADはOFF。メイン・スピーカーは、片側あたりJBL PROFESSIONALのラインアレイ・モジュールVT4889×4にサブローのVT4880×2を加えた構成で、サイド・モニターとして同社SR4733Xを左右に1台ずつ設置しました。メイン・スピーカーとモニター・スピーカーはチューニングせず、マイクもノーEQです。
まずは工場出荷時のまま使用。C414XLSのチャンネルのヘッド・アンプは+10dB、Beta 91Aの方は+20dBに設定しました。卓でEQをかけずにマイクのチャンネル・フェーダーを上げていくとハウリングが起こるものですが、その周波数がライブ・フィルターによってすぐに検知&カットされました。さらにフェーダーを上げていくと、新しくハウリングの起こる周波数が次々とカットされます。このライブ・フィルターはデフォルトで12個まで設定できるため、マージンを考えても十分な数です。
さて先述の通り、各フィルターの最大数は12個固定ではなく、シチュエーションによって変更することができます。例えば本番前のサウンド・チェックで固定フィルターの設定が5ポイントで済めば、ライブ・フィルターは最大19個使用可能となります。本番時の備えとしては十分過ぎる数でしょう。
なお実際の公演中に必要なライブ・フィルターは、5つほどで十分だと思います。固定フィルターを20ポイント近く設定できればほぼハウリングは起こらないので、過剰なフェーダー操作にさえ注意すれば、満足のいく音響を提供できるのではないでしょうか。
フィルターの設定に関しては、ウィザード機能を使用すると簡単。画面の表示に従って卓のフェーダーを上げていくだけで完了します(ただし英語表示なので、筆者は取扱説明書を片手に操作しました)。そのウィザード機能をONにするには、フロント・パネルの“WIZARD”ボタンを押すだけ(写真①)。実際にフェーダーの上げ下げのみで大部分の設定が完了し、使いやすいと思いました。

24個のフィルターを使った際も
それを感じさせない自然な音質
次に先述のマイクで故意にハウリングを起こした後、本機で固定12ポイント、ライブ12ポイントのフィルターを設定。それから卓にSHURE SM58を接続し、自分の声を入力して本機オンの状態とバイパス時の音質を比較。さらには音源を使った比較も行いました。
声を入れたときの印象としては、合計24ポイントもカットしているとは思えないほどナチュラルな音質。音源で比べた際も音楽的な要素の欠落はほぼ感じられず、サブ帯域が少し減ったように思ったものの、ビートと臨場感はしっかりとしたままでした。ただし今回試した限りでは、自ら固定フィルターを設定する方が何かと安心でした。ライブ・フィルターには検知の反応が速い帯域となかなか検知しない帯域があり、サブ帯域などを任せるのは少し不安がありました。とは言え、音質面などを考えるとフィルターとしての精度は極めて高く、申し分の無い性能だと思います。
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さてライブ・イベントの構成上、途中で劇が入ったりする公演が過去にありました。その際、出演者からピン・マイクやハンド・マイクを使わずに地声でパフォーマンスしたいと要望されたのですが、客席全エリアに地声を届けるのは無理があったため、まさに今回のテストのようにC414XLSやBeta 91Aを幾つか仕込ませてもらったのです。本番ではハウリング防止策としてグラフィックEQやパラメトリックEQなど、使えるものを活用してみたのですが、なかなか厳しい結果に終わりました。しかし、AFS2があれば卓のグループ・バスなどにインサートして使えたため、あれほどの苦労は無かったと思います。このような場面があれば、ぜひとも使用してみたいですし、良い結果が得られると確信できます。本機は音楽イベントだけでなく、音響スタッフの居ない会議室や結婚式場などの設備としてもうまく機能するでしょう。

製品サイト:http://proaudiosales.hibino.co.jp/information/3207.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年1月号より)