
ライブで位相を切り替える際に有効な
フェイズ・スイッチを搭載
まずはスペックを説明していく。本機はCh-A/Bの2ch構成。Ch-Aの入力端子(フォーン)はステレオに対応しており、ステレオ・フォーンのチップ側はCh-Aに、リング側はCh-Bに入力される。A/Bの2つの入力にモノラル・フォーンを挿入した場合は、各チャンネルが独立した入力となる。入力の右隣にはパラアウトをするためのパラレル出力(フォーン)が装備され、入力信号をアンプ、チューナーなどに分配。通常のDIではこのパラアウトにそこまで重きを置いている製品が少なく、単純にインプットからパラってしまっている製品が多い。そうすると後につながれたアンプやチューナーによって、インピーダンスの影響で楽器本来の音色を損ねてしまうのである。しかし本機のパラレル出力は厳選されたパーツで組み上げられており、純粋にDIとして適正なサウンドを保持しながらパラアウトの音質を両立させている。また、入力の左隣には入力信号を20dB下げるPADスイッチを装備。これにより出力の小さいアコギからライン・レベルのキーボードまで余裕を持ってカバーできる。
続いてリア・パネルを見ていく。本機の電源は内蔵電池(9V)と48Vファンタム電源に対応し、リア・パネル右端には内蔵電池で駆動させる場合の電源スイッチを装備。出力(XLR)も2ch用意され、電池駆動をしない場合にはここの回路につながれた機器(マイクプリなど)から48Vファンタム電源の供給を受ける。出力の右隣にはグラウンド・リフト・スイッチを用意し、アースが合っていない場合などにグラウンドを浮かすことでハム・ノイズを軽減させることが可能。ちなみにこの機能は内蔵電源駆動時のみ有効だ。そしてその隣には位相を切り替えるフェイズ・スイッチを搭載。これはDI自体に装備されていないことが多く、ギターを持ち替える際に各々の楽器によって位相が逆になったりするライブなどで有効だ。
トップ・パネルには低域/高域を−6dB/Octで減衰させるフィルターを2ch分それぞれ装備。Low Cutでは指定した帯域より低い周波数を、Hi Cutでは指定した帯域より高い周波数を減衰させる。細かいことだがフィルターの表示にはよくHPF(高域をパスする)、LPF(低域をパスする)と表記されるが、本機は楽器ライクに分かりやすく“Low Cut”“Hi Cut”と表示され、直感的に理解しやすい。フィルター・スイッチの上には9V電池の入れ替え口があり、電池の交換が楽に行える。
立ち上がりの良い華やかなサウンドで
入力された原音を忠実に再現
肝心のサウンド面を見ていく。今回はアコースティック・ギター、エレキギター、ベースをCOUNTRYMAN Type85につないだ場合と比較してみた。まずは本機が最も得意とするであろうアコギから試聴。最初にピックが当たった瞬間から音のスピードの速さに驚き、滑らかで立ち上がりの良い音を聴かせてくれる。ギター本体とピックアップの素性がダイレクトに伝わり、まさに製品名である“Fidelity”(忠実)を体現。プレイヤーとしても演奏しやすいという感想を持った。また、フル・アクティブというだけあり、レベルもType85に比べ10dBほど大きくS/Nが良い。
次にエレキギターをチェック。最近は“素ライン”と呼ばれるリアンプ用のギター・トラックを同時に収録することが増えている。試してみるとヌケとカッティングの粒立ちが気持ち良く、リアンプやプラグイン・エフェクトで音作りを行う際の素材としても最上位に当たる音質であった。
最後にベース。ここではDIのサウンドとパラレル出力からのアンプ・サウンドの相性をチェックしてみた。本機を通したベース・サウンドは先ほどアコギで感じたスピード感が生きており、華やか。パラレル出力からの音質も通常使われるDIに比べスピードが速く、DI出力とパラレル出力経由のアンプ・サウンドのバランスがとても良かった。スラップとの相性も良さそうだ。
それぞれの楽器でフィルターをチェックしてみたところ、Low Cutは主にアコギのムダな低域の除去、Hi Cutはベースに落ち着きを与えている印象であった。
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本機は華やかな音質が特徴で、ありそうで無かったデュアル・モノという部分も見逃せない。ライブ前にギターとベースをあらかじめつないでみて、位相やフィルターのセッティングをしておくのも良い。今回アコースティック・ギターではピエゾのみのチェックとなったが、機会があればピエゾ/マグネティック両方のピックアップを受けブレンドしたものや、シンセ類やエレピでも試してみたい。


製品サイト:https://enfini-customworks.com/RZero03.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年12月号より)