
進化したFM音源を搭載
個性的かつ説得力のある出音
見た目の第一印象は、手に取ると小さいのにずっしりと重くボタンやツマミなどのパーツの品質も含め高級感があり、他社のコンパクト・シンセのガジェット感とは一線を画す質感です。初代DX7をほうふつさせる濃いブラウンのボディに緑のLEDがかなりカッコ良く、鍵盤は新たに開発された“HQ Mini鍵盤”を採用。程よいクリック感とともにベロシティにも対応し、ミニ鍵盤なのに十分な表現力があります。また本機はステレオ・スピーカーを内蔵しているのですぐに音出し可能なのですが、この音質もなかなか良く“あれ、モニター環境に接続したっけ?”と一瞬疑う出音です。全体的にフル・サイズのシンセをそのままぎゅっと凝縮したような本物感があります。
Reface DXの音源部は、今回新たに開発された4オペレーター仕様のFM音源を搭載。4つのオペレーターすべてにはフィードバックが備わっており、サイン波をノコギリ波または矩形波に連続的に変化させることが可能なため、4オペにもかかわらずその表現力には驚かされます。旧来のFM音源を焼き直しただけではない確実に進化したサウンドです。またDX専用にチューニングされた2系統のエフェクトを搭載し、表現の幅を広げており、さらにDAコンバーターにも徹底的にこだわっているそうで、音ヌケの良さはフル・サイズ機とそん色ありません。
早速プリセットをチェックしてみると、これが無いとウソでしょうというエレピは6オペのDX7に引けを取らないサウンドで、コーラス・リバーブが最初からかけられていて何も言うことがありません。ウォブル・ベースは音圧も十分、ディストーションもガッチリかかって今日的な凶悪ダブステップ・サウンドにも対応します。意外だったのがブラス・パッド系で、この手は苦手なはずのFM音源で実にワイドでまろやかかつヌケの良いサウンドを実現していました。この辺りはEGコントロールとリバーブが音作りにうまく生かされています。リードも最高! アナログ・ライクな太い持続音でありながら、FMならではのギラっとしたアタックが独特の説得力を持っています。
ポイントを押さえたインターフェースで
音作りも簡単
さて、音作りに関してはどうでしょう。FM音源の音作りは難しく、苦手とする人は多いのではないでしょうか。しかしReface DXではFM音源の音作りの代表的なパラメーターを上手にレイアウトしてあり、本当に簡単に音を作ることができます。FMセクションにはフリーケンシー、レベル、アルゴリズム、フィードバックの4つのボタンがあるだけ。FM音源の原理をよく分かっていなくても、プリセットを選びこの4つのセクションのパラメーターを変更するだけで十分魅力的な音が作れます。キモはタッチ・パネル式の4系統DATA ENTRY(写真①)。

タップ、フリックとスマホ感覚で対応する4つのパラメーターを同時にコントロール可能なのですが、このインターフェースが実に秀逸! アナログ・シンセのツマミのような直感的なエディットを可能にしています。一度触ればFM音源アレルギーも解消することでしょう。中でも注目したいのはフィードバックで、ここを触るだけでもブっ飛びの音が作れてしまいます。演奏中リアルタイムにいじれば、アナログ・シンセのフィルター・コントロールとはひと味違ったFM独特のエグい音色変化をプレイに取り入れることができます。作った音は32個まで本体にメモリー可能です。
そのほかの機能としてフレーズ・ルーパーも搭載。MIDIシーケンサーなのでパラメーターの動きも記録でき、フレーズをループさせながら音色を入れ替えたり時間で変化する音色でフレーズを彩ることも可能です。パソコンとの親和性もちゃんと押さえてあります。USB MIDI端子を搭載しているのでパソコンと接続すればDAWソフトのコントローラーとしての使用も可能ですし、逆にABLETON LiveやNATIVE INSTRUMENTS Maschineなどで作ったMIDIデータでReface DXを走らせてライブを行うこともできます。
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本機の価値は、フル・サイズのシンセに負けない出音の良さを秀逸なインターフェースで小さなボディに濃縮したところにあります。とにかくバランスが良い楽器です。このサイズでこの機能というのはちょっと替えが効かない感じがあります。最近ヨーロッパでもパソコンを使ったライブに楽器で何かひと味加える流れも目立っていますが、そんなとき本機は個性的なサウンド/操作性/機動力と最高のパートナーになってくれるのではないでしょうか。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年12月号より)