
クラスAディスクリート・アンプ搭載
直径15mmで厚さ6μmのダイアフラム
今回レビューするM60 FET Stereo Master Setには、M60マイクが2本と、指向性の異なるTK60(単一指向)、TK61(無指向)、TK62(超単一指向)の3種類のカプセルが同梱。そのほかウィンド・スクリーンや、ショック・マウント、5mのXLRケーブルがコンパクトな専用ケースに収納されています。また本セットとは別に、マイク本体が1本のM60 FET Master Set(オープン・プライス:市場予想価格118,000円前後)もラインナップされています。
3種類のカプセルは、同社のスモール・ダイアフラム型チューブ・マイク、Ela M 260と同様のTK6Xシステムを採用し、外観はゴールド・メッシュとブライト・ニッケルで仕上げられています。本体との接続部分はネジ込み式で、交換の際は工具不要で簡単です。
ダイアフラムは厚さ6μm、直径15mm。クラスAディスクリート・アンプの回路基板には金メッキ処理がなされています。パーツの組み込みはすべて手作業で行われているそうで、出力段にアメリカ製カスタム・トランスを採用しているところにこだわりの強さを感じます。最大音圧レベルは130dB SPLで、ドラムにオンで立てたり、ギター/ベース・アンプなどに使用することが可能です。
実際にマイク本体を手に取ってみると、ほど良い重量感があり、つや消しブラックのボディにしっかりとした作りのTELEFUNKENのロゴ・マークが施されています。高級感があり、見た目の印象はとても良いです。48Vファンタム電源駆動で、本体にスイッチのたぐいは一切なく、回路をシンプルにすることで音質の向上を図ろうとするストイックな姿勢がうかがえます。
ノイズ感やひずみ感が少なく
クリアで抜けの良い音質
それでは実際に音を聴いてみましょう。スモール・ダイアフラム型のマイクは、癖が無くフラットな特性上、歌よりも楽器録音に向いています。今回はオケ録りをする機会に恵まれたので、マイクプリにNEVE 1073を用意し、いろいろな楽器の収録に本製品を試してみました。まずは、カプセルをTK62(超指向)にして、ドラムのトップにステレオで設置。シンバルを連打した際も高域の暴れをうまく抑えつつ、スネアやタムの輪郭をしっかりとらえてくれます。かぶりも少ないので、ミックス時にあまり苦労しなくて済みそうです。キレがあり、エッジ感がハッキリと出るので、ハイハット用に使っても良いでしょう。
続いてアコギです。ドラムのように他のパーツのかぶりの心配もないので、TK60(単一指向)に付け替えてマイク1本で録ってみます。歯切れが良く、コードの厚みも感じられました。ストロークではザクザクと刻む感じがハッキリと分かり、アルペジオだと各音の粒立ちが良く、ニュアンスもキッチリと表現。トランジェント特性が良く、アタックをしっかりとらえてくれますが、耳に痛い感じが無く好印象です。高域は一番上の帯域まで伸びているというよりは、明るく力強さがあります。低域もしっかりとカバーしてくれますが、特定の帯域がたまってモワモワしないところが良いです。ステレオでピアノに立てても良さそうだと思いました。また、先に試したTK62と比べると中高域が多少柔らかくなるというキャラクターの違いを感じられたので、使い分けのアイディアが広がりそうです。
最後に、ダブル・カルテットのストリングス用にTK61(無指向)を装着し、ルーム・マイクとしてステレオで使用。素直な質感でふわっとした広がり、部屋の空気感を含んだ伸びやかで開放感のあるサウンドが録れました。
周波数特性表を確認すると、どのカプセルを使用した場合も8kHz付近にピークがあるようですが、聴感上はそのような印象は無く、高域には一貫して明るさがあります。本機の根本的なキャラクターは、ノイズ感やひずみ感が少なく、クリアで抜けが良いものと言えるでしょう。
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コンパクトで扱いやすく、どんな楽器にでも使える万能タイプの本機。TELEFUNKENのイメージ通り、ビンテージ・マイク的な音の太さがありつつも、現代的な高域の抜けの良さを併せ持つとても良いマイクです。セット内容を考えるとコスト・パフォーマンスも高いので、エンジニアだけでなく、宅録用に本格的なコンデンサー・マイクの導入を考えているクリエイターにもお薦めです。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年11月号より)