
ステレオ/ブリッジ/パラレル
3つの動作モードを選択可能
CPXシリーズのパワー・アンプは、引き締まったブラック・パネルを採用した2Uサイズのコンパクトな筺体ながら、大電流を供給する大型のトロイダル・トランスフォーマーを搭載。ハイパワーでありながらも省スペース性を維持できているのは、最新のSMD技術の採用によるところだろう。また、ヒート・シンクと速度可変式の冷却ファンが採用されており、アンプの温度上昇に対する対策がなされている。さらにスピーカーを保護する内蔵リミッター、ミュート保護などの各種回路が採用され、安定動作に主眼が置かれている印象だ。
2イン/2アウトの本機は、フロント・パネルに電源スイッチのほか、ch1とch2に対応するレベル・コントロールつまみを装備したシンプルなデザインになっている。2つのつまみの間にはそれぞれに対応した3つのインジケーターが付いており、上からオーバー・ヒートやDC漏れなどの異常により保護回路が働いた際に点灯するフォルト・インジケーター(これが点灯すると、その間はアンプが使用できなくなり、消灯すると通常のオペレーティング・モードに戻ったサインとなる)、音声信号がオーバー・ロードしてクリッピングが発生した場合に点灯するクリップ・インジケーター、音声信号の入力を確認するシグナル・インジケーターが並ぶ。
リア・パネルには、スピーカー出力にスピコン端子を装備。さらに動作モードをステレオ/ブリッジ/パラレルに切り替え可能なスイッチを搭載している。ステレオ設定時はイン/アウトが通常の1対1の仕様となるが、パラレルでは1対2という使い方ができる。つまり、パラレル・モードに設定してサイド・モニターなどを2台接続すれば、ch1に入力した信号のボリュームを各出力チャンネル対応のレベル・コントロールつまみで調整可能だ。2チャンネル分の入力はXLR端子で、バランス/アンバランスの信号に両対応している。
シリーズ全体に共通する特徴は、基本機能以外をいかに削ぐかによって実現したであろうコスト・パフォーマンスの高さである。サイズも奥行きが227mmと抑えられているので、2Uラックにマウント可能だ。システムを組む上で省スペース化が図れるというメリットがある。また、バランス・スルーXLR出力も装備されているので、チャンネルに入力されたものと同一の信号をそのまま外部アンプに送る際に有効である。そして意外だったのが重量だ。従来品からすれば軽くなったようだが、製品の軽量化が流行している昨今において、本機のずっしりとした重量感は特徴的。大型トランスとヒート・シンクの重みだろうと想像しているものの、人間の心理とは不思議なもので、重い方がやはり信頼できる。
感度切り替えスイッチで音色が変化
ゴツッとした0.775Vと滑らかな1.4V
それでは、いよいよ音を入力し試してみよう。試聴内容は、定番の15インチ同軸モニター・スピーカーを使い、他社の定番アンプとの聴き比べをするというもの。今回は多数のエンジニアが集まるタイミングを利用して、それぞれに声を出してもらい所感を聞いてみた。まず皆が驚いたのは、その強いパワー感である。皆が口をそろえて“出る!”と言っていたのが印象的だった。
ちなみに、以前にあるアンプを現場で使用した際、コンソール側のレベルを上げ、マイク・テストとして“ハッ!”という大声を入力したところ、出力信号がクリップし、必要な音量に達する前にリミッターがかかって無音になってしまった経験がある。本機でも同じように試してみたがそんな懸念は不要であることが認められた。
次に、本機よりも価格が10倍もするパワー・アンプと比較してみた。ローミッドの滑らかさが多少欠けるものの、スピード感とパワー感では全くひけをとらなかった、というのが各人共通の印象だ。
また、リア・パネルに搭載された感度切り替えスイッチで入力感度を0.775Vと1.4Vに設定して聴き比べを実施。0.775Vに設定すると、十分なパワー感とゴツッとした音色が得られ、1.4Vに切り替えると0.775Vからパワー感はそれほど落ちずに、音色が少し滑らかになったように感じた。会場や用途によって異なるスピーカー・レスポンスに合わせ、感度を選んで使うといったことができるだろう。
続けてCDを再生して試聴を行った。ローの量感とハイの伸びはおおむね問題なく、オーディオ的というよりはPA的なスピードの速さを感じられたため、遠くまで音を届けられる仕様のスピーカーにも対応できそうだ。
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最近のコンパクトなシステムには、パワード・タイプのウェッジ・モニターなどの使用が増えているが、多くの電源ライン確保が必要になるという難点がある。一方、パッシブ・スピーカーを使用し、電源近くのラックに本機をセッティングすれば、シンプルな配線を実現できるように思う。何よりも高いコスト・パフォーマンスが魅力の本機。全体にバジェットの決まったPAシステムの中で、どうしても比重が高くなりがちなアンプにかかる経費を節減できるメリットは大きい。台数が多く必要になるモニター・アンプとして導入すれば、その分ほかの機材を充実させることができる。結果として中小規模のロック系ライブ・ハウス、イベント会場などでCPX2000のハイパワーが十分に生かされるシステム作りができるだろう。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年10月号より)