
インピーダンスを問わない出力回路
合計8基のD/A回路で低ノイズ化
Grooveのサイズは、見ての通りとても小さい。USBメモリーを少し大きくした程度で、剛性感のあるアルミ製ボディのトップ側にUSB端子、ボトム側にはステレオ・ミニのヘッドフォン端子を備える。電源はUSBバス・パワーで供給。フロントに配置された2つのボタンで音量調整が可能だ。ボリューム・コントロール中はLEDがパープルになり音量設定を表示し、通常は音量に合わせてグリーンに点滅する。“分かってるな〜”と思ったのは、ボディの裏面にゴム・シートが張ってあり、ノート・パソコンや機材の上に乗せても滑らないようになっていることだ。
スペックとしては、24ビット/192kHz対応。Constant Current Driveという技術を採用し、どんなヘッドフォンに対しても耳に心地良い周波数特性を提供できるように設計されているとのこと。現在ある多くのヘッドフォン・アンプは定電圧設計であり、インピーダンスが高いヘッドフォンでは十分にドライブできず音量が小さくなる可能性がある。逆にインピーダンスが低いヘッドフォンだと音量が大きくなり過ぎてひずみが発生してしまうことも。これらの問題をConstant Current Drive技術で解決しているという。
また、D/AチップにはAPOGEEの上位機にも搭載されているESS Sabre 32ビットDACを実装。併せてQuadSum DACという技術も採用している。左右独立したD/A回路を備えるDual DAC方式のモデルはよく見かけるが、Grooveでは左右各チャンネルに4基ずつのD/Aを搭載し、圧倒的な低ノイズとクラス最高峰のダイナミック・レンジを実現しているそうだ。
圧倒的な低域解像度の高さ
自然で天井が高いフレッシュな音
では、試聴してみよう。今回は、普段からモニター用として使っているSONY MDR-CD900ST(OYAIDE HPC-22Wにリケーブル済み)、そして家庭で観賞用として使用しているAUDIO-TECHNICA ATH-A900Xを使用した。USBケーブルをMacに接続し、“システム環境設定”の“サウンド”から出力先としてGrooveを選ぶだけで使用できる(Windowsではドライバーのダウンロード&インストールが必要とのこと)。今回は、24ビット/96kHzでミックスした音源をソースとして使った。
MDR-CD900STのインピーダンスは63Ω、ATH-A900Xは42Ωであるが、同じボリュームの設定でも音量の差を感じることはない。音質はAPOGEEらしいフレッシュな音調。天井がとても高く感じられる。特に優れているのは、圧倒的な低音域の解像度の高さ。キックとベースの分離も良い。筆者はドラム・レコーディング時にYAMAHA SKRM100 Subkickを使用してキックのリリース感を出しているが、そのリリースの感じもきちんと再現されているし、ベースのリリースとの混濁感も全く無い。大編成の作品において、コントラバスとエレキベースが同居するようなアレンジでも、それぞれの低音はきちんと分離し、ハーモニーが生き生きと聴こえてくる。
全体的にはニュートラルで、特に強調されたところは感じられない。それだけに、バランスの良さとレンジの広さが際立つ。また、 SN比に優れ、背景がとても静かに感じられる。そして人工的な色は感じられず、そのソースが自然に流れてくる印象なのが大きな特色と感じた。昨今流行のハイレゾ音源も十分に楽しめそうだ。
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極めて自然な音調なので、リスニング用はもちろんのこと、モニター用DACとしても十分に活躍してくれるだろう。最近、ライブ・レコーディングした音源を、翌朝のTVでダイジェストとしてOAするためにホテルの一室などを使ってヘッドフォンで簡易的にミックスするというケースもあるので、そうしたときには大活躍してくれそうだ。大きなオーディオI/Oやヘッドフォン・アンプを持ち歩く必要が無いことはうれしい限りだ。
どのようなジャンルの音楽でもベースやドラムが生き生きと弾み、躍動感にあふれた再現を展開しているところから、オーディオ的にも音楽的にも解像度が高く、APOGEEの実力と音楽性を再認識させられた。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年9月号より)