パーツ単位のモデリングで回路を再現
ひずみの少ないオシレーター波形
System-1Mのルックスは、黒パネに緑のLEDを基調としたAIRAシリーズに通底するデザインです。Eurorack規格に準拠しているので(84HP)、結構小さめのパネル・スペースにつまみがぎっしり並び、カッコイイですね。
まずはSystem-1Mの音源部からチェックを始めます。シンセとしての構成を大枠で示すと、OSC×2、FILTER×1、AMP×1、ENV×3、LFO×1という標準的な仕様となりますが、細かく言うと、サブオシレーターやリング・モジュレーター、シンク、ノイズなども搭載。フィルターはハイパスとローパスが同時に使えたり、さらにリバーブやディレイなども装備されているので、見た目以上にマニアックな構成であるとも言えそうです。
音を出すにはMIDIやUSB、CV/Gateを介して外部鍵盤やDAWなどからのコントロールをするか、パネルにあるPITCH/GATEつまみを使うこともできます(押している間はGATE ON、つまみを回してピッチ上下)。
最初はフィルター全開状態でオシレーター波形から聴いてみます。クラシックな波形としては、のこぎり波、矩形波、三角波があり、一聴した印象は、ワイド・レンジで癖の無い素直な音。特に高い周波数帯でもなまめかしい音が出ているような感じなので、オシロスコープでチェックしてみたところ、アナログだと鈍ってくる2kHz以上の周波数でもひずみが少ないのに驚かされます。
System-1MのエンジンであるACBはAnalog Circuit Behaviorの略で、“アナログ回路の振る舞い”という意味。トランジスターや抵抗といったパーツの一つ一つをモデリングし、それらを元にオリジナルの回路を再構築していくというのが基本です。こういったモデリング技術はもう10年以上前から存在してますが、実際System-1Mのこの波形の音は、ちょっとこれまでのモデリングものとは次元が違うように感じます。
SuperSawに代表される即戦力波形搭載
バージョン・アップで波形の追加も実現
では再び波形の話に戻ります。System-1Mはかつてのアナログ・シンセを再現することだけに目標を置いているわけではないので、いろいろな波形が用意されています。前述したクラシック3種類に、のこぎり波2、矩形波2、三角波2の合わせて6種類が基本(写真①)。
この“〜2”が付くのは、ROLANDユーザーならおなじみのSuperSawに代表される波形群と思えばいいでしょう。SuperSawは波形を幾つか重ね合わせることで生じるアナログ特有の微妙なズレをあらかじめ盛り込むことで、独特の厚みが得られるというもの。ROLANDが20年ほど前にリリースした最初のモデリング・シンセ、JP-8000に搭載され、その音は特にダンス系では定番になりました。この波形が素晴らしい。恐らく多くの人は一番この“〜2”波形の世話になるのではないかというほど良い出来だと思いました。ただ波形を鳴らすだけでなく、COLORツマミを回すと重ねた波形のズレ具合を調整できるので、ベースからホーン、ストリングスなどおよそ代表的なアナログ音から、ダンス系で定番のコード音などまで、重宝することは間違いありません。このCOLORツマミはすべての波形に対して有効ではありますが、矩形波ではパルス・ワイズ・モジュレーション、のこぎり波では位相角、三角波だと主にプラス側の山を削る、というように波形ごとに違う働きをするのがユニークです。
そして早くもこの6月、System-1MのOSアップデート(Ver.1.20)がなされ、Noise Saw、Logic Operation、FM、FM+Sync、Vowel、CBがオシレーター波形に追加されました。これらもCOLORツマミを併用することで面白さが倍増します。例えばLogic OperationやFMに使うと、キャリアとモジュレーションの関係になり、COLORの変化でゴ〜ンとかチ〜ン、あるいはガキュ〜ンなど多彩な金属音を奏でることができます。またVowelではツマミの位置で“あ・い・う・え・お”が発音できます。もちろんサンプリングではないのでそこまで明りょうではありませんが、“シンセ・ボイス”と考えれば実用性十分です。白眉はCBで、これはTR-808のカウベルのこと。さすがに本家が出す音だけに、その酷似ぶりには脱帽。単発で使うもよし、別の波形とスタックしてアタック成分に使うもよしというところです。このように波形とCOLORだけで時間を忘れて引き込まれてしまうのですが、System-1Mにはこのオシレーターが2基搭載されていますから、重ね合わせること以外に、SYNCやCROSS MODといったおなじみのパラメーターで調理することで、多彩なバリエーションを生み出すことができるわけですね。
ローパスとハイパスを併装したフィルター
アンプ・セクションにも音作りの機能を搭載
さてフィルター・セクションですが、−12dB/Octまたは−24dB/Octのローパスと、ハイパスが併用可能な仕様で、専用のエンベロープも搭載(写真②)。
このフィルターが当たり前とは言え、実にROLANDっぽい質感です。オシレーター波形の音はとても良い音ですが、ある意味ROLANDっぽくないと筆者には思えました。ところがこのフィルターをかけてやると、いきなりそれっぽくなるのです。例えば三角波を入れてフィルター・エンベロープで切るだけで往年のTR-808で聴けるキックっぽくなりますし、レゾナンスを加えるとTBやSH系で聴ける例のつやっぽい感じが得られます。やはり本家は一味違うなと感心させられました。ちなみにフィルターは単独での発振が可能ですから、ディープなベースやリードを作り込むこともできます。これ、モデリングと銘打つ割にできないシンセが多いんですよね。
アンプ・セクションは普通のアナログ・シンセとはちょっと違う、要するに今どきな仕様のものです。まず入力信号の音量を時間軸でコントロールする、というところは同じですが、TONEで明るさを変化させることもできます(写真③)。
雰囲気的には第2フィルターという感じで、特に低域にブーミーさを加えたいときなどに良いかなと思いました。このセクションにあるCRUSHERは強烈に音色を破壊するビット・クラッシャー。アンプの後の最終段にはリバーブとディレイも装備されています。これらは単独のエフェクトと比較するとパラメーターは無いに等しいのですが、あると無いとじゃ大違いです。
パッチ入出力は解像度24ビット/96kHz
USBオーディオ&MIDIも実装
ここまでの仕様は兄弟機であるSystem-1と基本的に同じで、ほかにユニゾンや4音ポリが出せたり、音色メモリーが可能な点など共通してます。でもSystem-1は鍵盤付きでアルペジエイターやフレーズ作成もできますが、System-1Mにはそれらが無いにもかかわらずSystm-1より価格が上です。その理由は、パッチができるから。例えばフィルターにほかのシンセ音を入力したいとしましょう。シンセ音はアナログ信号ですが、System-1Mの内部はデジタルなので、AD変換する必要があります。逆にSystem-1MのLFOでほかのシンセ・モジュールに変調をかけたいなら、DA変換が必要になります。System-1MにはマスターのL/Rやヘッドフォンまで含めれば21も入出力端子があるので、結構な数のAD/DAコンバーターを内蔵する必要があります(写真④)。
ということでSystem-1Mの内部にはちょっとしたオーディオI/O並みの数のAD/DAコンバーターが搭載されていますが、その解像度は24ビット/96kHzだというのだから驚きです。そう考えてみると、むしろSystem-1Mの価格は安いくらいとさえ言えますね。
ちなみにSystem-1MはUSBオーディオ&MIDI I/Oとしても使えます。早速聴き慣れた音源でテストしてみたところ、低価格なオーディオI/Oにありがちな無理やり高域を出しているような感じは無く、非常にフラットな印象でした。つまり奏でるシンセ音の太さに変なカラクリは無いというわけですね。
では入出力ジャックをチェックしてみましょう。System-1Mのパッチ・ポイントは幾つか制限が設けられてます。まずオシレーター(個々かミックス)は単体で出力可能ですが、フィルターやアンプは無理です。アンプ後のマスター・アウトがミニとフォーンになっているので、ここを使えばフィルター+アンプという流れでの出力は可能にはなります。入力系は、リング・モジュレーター入力(かなりキワモノ・サウンドが出せる)にプラグを挿すとOSC2と掛け合わせることができたり、外部入力信号を使うとミキサーに入るので、別機種のオシレーター波形をあたかもSystem-1Mの拡張波形として扱う、なんてことも可能です。コントロール系はLFO出力やエンベロープ入出力など、結構アイディア次第で使い道はいろいろです。0〜10V対応なので、今どきのEurorackならほとんど互換は可能でしょう。System-1Mを完全にモジュールごとに分割して必要なところだけ使うとか、コントロール信号のポイントを細かく随所に設けるなどはできませんが、デジタルとの相性はバッチリ。前述したオーディオI/Oとして使う場合、直接シンセの音をDAWにデジタル録音可能だったりします。
PLUG-OUTで“別のシンセ”に早変わり
名機の特徴を忠実に再現
そんなデジタルの恩恵で注目すべきは、PLUG-OUTの存在。System-1Mはこの機能を使うことで、もうひとつ別のシンセ(別売り)を内部に持つことができるのです。現時点でリリースされているのは、ROLANDが1970年代末に市場に送り出したPromarsとSH-2です。これらはDAWのプラグイン(VST/Audio Units対応)としても起動可能ですが、画面にあるPLUG-OUTボタンを押すと、パソコンからSystem-1Mにソフト・シンセが移動し、System-1M内蔵の別シンセとして単体で動作するようになる、という仕組みです。
で、気になるPLUG-OUTシンセの出来栄えはと言えば、“恐るべしACBテクノロジー”というのが偽らざる感想です。“Promarsは波形の向きが逆なんだ”とか”SH-2って結構波形が鈍っているけれどそれこそが味だったんだなぁ”ということが今さらながら判明しました。ボタン一つでSystem-1MとPLUG-OUTを切り替えられるので、違いが如実に分かり、楽しいです。ちなみに筆者はSH-2を所有していたことがあるのですが、聴いた瞬間“おお、これこそ耳になじんだんだあの音!”と身体が反応したので面白かったです。なおPromarsにせよSH-2にせよ、オリジナルを踏襲しつつ、多少の拡張が可能なようにもなって、どちらもリバーブやディレイ、あるいはCRUSHERなどと言ったオリジナルには無い機能もさりげなく加えられているのはナイスだと思いました。今回は試せませんでしたがSH-101も新たにリリースされたので、今後がますます楽しみですね。
System-1Mはまずシンセとして非常に高いポテンシャルを備えていると思いました。さらにPLUG-OUTを使うことでさまざまなキャラのシンセとしても使えるようになるのが素晴らしいです。デジタルなのだけど、パッチをすることでほかのアナログ・シンセとのアナログ連携がとれるというのも、さまざまな活用法が考えられて楽しいですね。Eurorack規格であり、テーブルトップでも使え、付属のラック・マウント・アダプターを付ければ3Uラックにも入る。価格にして、ざっくり3倍以上の働きは楽にしてくれるんじゃないかと思いました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年9月号より)