
ウーファー部の背面スロットに
フル・レンジ部を収納して持ち運べる
Evoxシリーズのスピーカーは、フル・レンジのスピーカーとウーファーの2つから構成されており、両者を付属のポールで接続して使用する。フル・レンジ部の中には2インチ径のユニットが縦に5基配置され、ウーファーは10インチ径のユニットを1基搭載。パワー・アンプはウーファー内部に備えられ、最大出力は高域200W+低域600W(共にピーク)の計800W。クロスオーバー周波数は220Hzとなっており、リミッティングなどの音声処理を行うためのDSPを内蔵している。
Evox 5を前にすると、まずはボディのコンパクトさに驚かされる。また設計がユニークで、ウーファー背面のスロットにフル・レンジ部を収納し、付属のソフト・ケースに入れて運搬することができる。ウーファーのサイズは288(W)×490(H)×427(D)mmで、手でも持ち運びやすい。セッティングは、ウーファーの天板に2本のポールをつないで立て、その上にフル・レンジ部を設置。あとはウーファーのパワー・アンプ・アウトとフル・レンジ部のインプットを付属のスピコン・ケーブルでつなぐだけだ。組み立ては2分もあれば十分で、電源や卓からのケーブルを引く時間を含めても15分あれば完了する。
ウーファーの背面にはパワー・アンプ・アウトのほか、XLRとTRSフォーンのオーディオ・イン、入力された信号を内蔵アンプへ通さずに出力できるXLRのパラアウトが備えられている。オーディオ・インはXLRとTRSフォーンに共通のライン/マイク・レベル切り替えスイッチを備えているため、マイクを直接つなぐことも可能だ。そのほか出音の周波数特性を切り替えるための“FLAT/BOOST”スイッチがあり、BOOSTモードに設定するとよくあるデフォルメされた音ではなく、単にウーファーのレベルが上がったような印象で使いやすさを感じた。
低域と高域のスピードがそろっていて
位相や定位が良い印象
今回は、500人規模の3つの会場にて、リファレンスCDと自分の声でテストしてみた。まずは間口10間(約18m)の中ホール。本機はポールで高さを調整でき、最高で2m10cmほどにもなる。さらに水平120°の指向性を持つため、1台でもホール全体をカバーすることができた。フル・レンジ部の最も下のユニットがわずかに下を向いているので客席最前列での音抜けは無く、高さを稼げる分、前列と後列の音圧差は少なく感じられた。最後列では厳しさを覚えたが、2インチのフル・レンジ・ユニット×8と12インチのウーファーを備えるEvox 8なら解消できるのかもしれない。
次にシュー・ボックス・タイプのクラシック・ホール。ここも先と同様の間口なので、音の抜けるところが無かった。残響が多いため明りょう度は落ちたが、嫌な反射は感じられない。また10インチのウーファーは、こうした環境で声を出すにはちょうど良いスピード感だと思った。
最後に、低い天井にカーペットの床というデッドな宴会場でもテストしてみた。最も高い位置にセットしてちょうど良く、明りょう度がぐっと上がり、エリア外の音もクリアに届いている。こうしたスピーカーの出音は、会場の後方などでブーミーになってしまうことが多いものだが、それもあまり感じられなかった。またミキサーを介さずにマイクを直接つないでも、そのクリアさが保たれていた。
全体としてはPAスピーカーらしい音質だと感じたが、ただスピードがあるというのではなく、ローとハイの速さが心地良くそろっている印象だ。高域の伸びは少し足りないと感じたものの、プロセッサーをかけてデフォルメさせた音よりは好ましい。内蔵リミッターのかからない範囲での使用ならひずみ感も少なく、位相や定位もしっかりしていると思った。テストに使用した会場は、本機がターゲットにしているところより大きかったと思うが、カバー・エリアが広く近距離でもうるさくないので、より高い遠達性を期待できるEvox 8なら問題ないかもしれない。
この規模のスピーカーはスタンドに設置するものが主流だが、組み立てに力が要る上に脚が邪魔になりがちで、なおかつスピーカー本体が重いため安定性に欠ける面もある。しかし本機は1台あたり20kg弱で、ポール上のフル・レンジ部に至っては片手で持てる程度の軽さ。故に設置が手軽で、組んでから動かすことも簡単だ。今回仕込みからチェック、バラしまですべて1人で行ったが、全く疲れなかった。それでいてこれだけのパフォーマンスを保てるのは驚異的だし、かつての“PAは体力だ!”という時代はとうに過ぎ去ったことを感じずにはいられない。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年8月号より)