「ROLAND JD-XA」製品レビュー:2つの音源を備えるアナログ/デジタル・クロスオーバー・シンセ

ROLANDJD-XA
Musikmesse 2015で公式発表されたROLAND JD-XAは、メモリー機能の付いたアナログ/デジタル音源を併せ持つシンセサイザーです。ROLANDはここ30年ほどアナログ・シンセサイザーの新作はリリースしていなかったのですが、これは常に新しいことに挑戦する姿勢や、完成度の高いデジタル音源技術の自信の現れでもありました。一方でユーザー・サイドからはアナログ・シンセが持つ独特の質感を求める声も大きく、そこで満を持して発表されたのがこのJD-XAというわけです。

アナログ部はモノの4パートのほか
4ポリフォニックのシンセとしても使用可

まずボディは49鍵仕様の割に大きめに感じましたが、多彩な機能がうまくまとめられていると思います。重量は6.5kgと軽く、電源は付属のACアダプターを使用。電源を入れると光沢のあるパネル上のあちこちが赤く光ります。回転式のボリューム/スライダーも光るので、ステージでの操作性などでも大きなメリットがあります。

音源部はアナログが4パートで、各パートはモノフォニック仕様となっています。この4パートは4つのモノシンセとして演奏できますが、Poly Stack機能を使うことで1パートの4ポリフォニック・シンセとして演奏したり、ユニゾンで鳴らして分厚い音を出すことも可能です。デジタル・パートには定評のあるSuperNATURALシンセ音源を搭載。アナログと同様の4パート構成ですが、各パートはポリフォニック仕様となっており、さらにパートごとに3つのパーシャルがあります。1パーシャルは1台分のデジタル・シンセに相当し、1パートでそれを3つも重ねることができるのです。トップ・パネルの左側にあるパートの選択セクションでは音色をコントロールするパートを選んだり、アナログ/デジタルの各パートをレイヤーでき、幅広い音作りが可能になっています。

パネルのフィジカル・コントローラーはアナログ/デジタル共用で、両者は基本的な部分は同じような操作法で音色を作る設計となっています。アナログ・パートは1ボイスごとに2つのオシレーター、フィルターとアンプ、エンベロープはピッチ用にAD、フィルターとアンプ用に独立したADSR、さらにLFOという構成で、音を太くする“Drive”回路も搭載。デジタル・パートではオシレーターが1つになっているのと、それに伴うオーディオ・ミキサーやノイズ・ジェネレーターが省かれている代わりに、独特のデチューン・サウンドを生成する“SuperSaw”など多彩な波形が選べるようになっています。

マルチトラックのパターン・シーケンサーと
充実したアルペジエイターを装備

ここからはアナログ部のパラメーターを紹介していきます。2つあるオシレーターは一般的なアナログ波形が選べ、ピッチは細かな調整も可能。2つのオシレーターを使ったクロス・モジュレーションやリング・モジュレーター、オシレーター・シンクを装備し、それらを同時に使えます(写真①)。またモジュレーション・ソースをミキサー・セクションのAUXで指定したノイズ/デジタル・パート/マイク入力にすることもできるなど、モジュレーションの柔軟性はとにかく高いです。

◀写真① アナログ・オシレーターにはクロス・モジュレーション、リング・モジュレーター、オシレーター・シンクを搭載。それぞれにアナログ回路が用意され、3つを同時に使用可能。モジュラー・シンセ並みの柔軟な音作りを実現する ◀写真① アナログ・オシレーターにはクロス・モジュレーション、リング・モジュレーター、オシレーター・シンクを搭載。それぞれにアナログ回路が用意され、3つを同時に使用可能。モジュラー・シンセ並みの柔軟な音作りを実現する

フィルターはキャラクターの違う回路を複数切り替え可能。“LPF1”はROLANDのビンテージ・シンセと同じタイプのローパス・フィルター、“LPF2”はMOOGがお得意としたトランジスター・ラダー・タイプ、そして“LPF3”がJD-XAにしかない、レゾナンスを上げた状態でカットオフを動かすことで劇的な変化が得られる飛び道具的なフィルターです。このLPF3はHPF/BPFに切り替えられるマルチモード・フィルターとなっており、いずれも同様のレゾナンス特性を持っています。フィルターとアンプ用に個別に用意されたエンベロープは一般的なADSRタイプで、反応の良いこだわりのカーブで作られています。またデジタル・パートをこのアナログ・フィルターに通すこともできる設計となっており、ほかには無いハイブリッドな質感のサウンドが得られます。

フィルターの後はアンプを通ってデジタル・エフェクターに入ります。リバーブ/ディレイは専用のつまみが用意されており、液晶ディスプレイを使ってさらに細かくパラメーターを追い込むことも可能。これ以外にも同時に2つまで使用可能なひずみ系、モジュレーション系、コンプレッサーやEQなど多彩なエフェクトが搭載されています。さらにアナログ/デジタル各パートには、同社のIntegra-7と同様のマルチエフェクトを用意しています。またリア・パネルにある入力端子にマイクを接続することでボコーダーとして使えるほか、音声信号を活用してシンセ音にリアルタイムで変化を加えられます。本機は充実したパターン・シーケンサーも搭載しています(写真②)。

▼写真② パターン・シーケンサーの入力方法はクリックを聴きながら鍵盤を使って手弾きするリアルタイム録音と、ステップごとに鍵盤を押して指定していくステップ録音の2種類がある。リアルタイム録音ではクオンタイズをかけながら録音していくことができるので簡単に入力が可能 ▼写真② パターン・シーケンサーの入力方法はクリックを聴きながら鍵盤を使って手弾きするリアルタイム録音と、ステップごとに鍵盤を押して指定していくステップ録音の2種類がある。リアルタイム録音ではクオンタイズをかけながら録音していくことができるので簡単に入力が可能

Scaleボタンでステップの長さを調整でき、プログラム単位でテンポも保存可能なほか、外部クロックにも同期できるので、ライブなどで楽しくプレイできるでしょう。このシーケンサーは内部音源用と外部音源用に各8トラック、計16トラックとなっており、パートごとに違うパターンを設定できます。このとき鍵盤も併用可能なので、シーケンサーで走らせるパートと手弾き用パートを使い分けることもできます。

さらにアルペジオ機能の充実ぶりも見逃せません。ボタン1つでオン/オフが可能で、多くのテンプレートをディスプレイで確認しながら切り替えられるほか、パターンのエディットや保存もできます。ベロシティもプログラムに入れられるので、かなり表現力のあるオリジナル・フレーズを作ることができそうです。

アナログ×デジタルで生まれる
新たなサウンド生成の可能性

本機は外部機器との接続も充実しています。リア・パネルのUSB COMPUTER端子をコンピューターに接続することで、MIDIの受け渡しのほかオーディオを16ビット/44.1kHzで送ることもできます。特筆すべきはアナログ音源用に設けられたANALOG DRY端子(写真③)。

◀写真③ リア・パネルにはANALOG DRY端子を装備。アナログ・パートの音をデジタル・エフェクトを通すことなく出力でき、ライン出力L/Rと比べても武骨なアナログ・サウンドが得られる ◀写真③ リア・パネルにはANALOG DRY端子を装備。アナログ・パートの音をデジタル・エフェクトを通すことなく出力でき、ライン出力L/Rと比べても武骨なアナログ・サウンドが得られる

通常のライン出力L/Rから出力されるアナログ・パートは最終段でデジタル・エフェクトを通るため、AD/DA変換された音声が出力されています。それをエフェクターの前段でアナログのまま出力するのが、この端子の役目。試しにここから出力した音をライン出力L/Rと聴き比べてみたところ、ANALOG DRY端子の出音はまさに“生身のアナログ!”といった荒々しいもので、一方のライン出力L/Rは落ち着いた奇麗な音に聴こえました。

さらにCV/Gate出力がある点にも注目。モジュラー・シンセとの接続にも使えますし、本機をMIDI to CVコンバーターとしても活用できます。JD-XAは単体でも十分なポテンシャルを持っていますが、周辺機器で拡張させて使いたいシンセ・フリークのことも考えてくれているのがうれしいです。また本機は優秀なプリセットが数多く用意された16バンク×16プログラムの内蔵メモリー以外にも、USBメモリーに保存/呼び出しができます。お気に入りのプログラムを1〜16のボタンに登録する“Favorite”ボタンも便利。ライブで使うプログラムだけをここに並べておけば、音色の切り替えもスムーズでしょう。

さて肝心の音色ですが、アナログ/デジタルの2つの音源に優劣をつけるのは、JD-XAに関しては正しくありません。アナログ・パートはEDMなど最新の音楽に対応する押し出しの強さと独特のひずみ感を持ち、滑らかな音色変化と立ち上がりの速さが印象的。その傾向は先述したANALOG DRY端子から出力することで、さらに顕著になります。デジタル・パートのSuperNATURALシンセ音源もさすがに説得力のある出音で、分厚いシンセ・ブラスから透明感のあるパッドまで幅広く対応。抜けが良くワイド・レンジな音が得られます。

そして、そのアナログとデジタルの両方の音を自由自在にクロスオーバーできるのが、本機の最大の利点と言えるでしょう。中域に存在感のあるアナログと、超低域から高域にかけて広がりのあるデジタル・パートをミックスすれば、これまで聴いたことがないような存在感のあるサウンドが生まれます。また本機は各レイヤーに異なる設定のエンベロープが使えるので、それらでフィルターをスウィープさせると、かなり複雑で新しい感覚のサウンドが作れました。今回JD-XAを使用してみて、音色レイヤーは本機のアナログ/デジタルのようにキャラクターの異なるもの同士を掛け合わせた方が混ざりが良いことに気付くと同時に、大きな可能性を感じました。

▲リア・パネル。左よりヘッドフォン端子、ライン出力L/R、ANALOG DRY、CLICK(すべてフォーン)、LEVELつまみ、MIC入力(XLR/フォーン・コンボ)、CTRL 1、CTRL 2、HOLD端子(すべてフォーン)、CV/Gate OUTPUT×4(モノラル・ミニ)、MIDI IN/OUT、USB COMPUTER、USB MEMORY、電源端子 ▲リア・パネル。左よりヘッドフォン端子、ライン出力L/R、ANALOG DRY、CLICK(すべてフォーン)、LEVELつまみ、MIC入力(XLR/フォーン・コンボ)、CTRL 1、CTRL 2、HOLD端子(すべてフォーン)、CV/Gate OUTPUT×4(モノラル・ミニ)、MIDI IN/OUT、USB COMPUTER、USB MEMO
RY、電源端子

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年8月号より)

ROLAND
JD-XA
オープン・プライス(市場予想価格:270,000円前後)
▪音源:アナログ/デジタル(SuperNATU RAL) ▪最大同時発音数:アナログ・パート=4音、デジタル・パート=64音 ▪ユーザー・プログラム・メモリー:256 ▪マルチエフェクト:8系統、67種類 ▪内蔵シーケンサー・トラック数:16 ▪外形寸法:899(W)×111(H)×388(D)mm ▪重量:6.5kg