「SPECTRASONICS Omnisphere 2」製品レビュー:サンプルの読み込みに対応したOmnisphereの新バージョン

SPECTRASONICSOmnisphere 2
SPECTRASONICSと言えばAtmosphere、Trilogyなどのソフト音源やCD-ROM時代のライブラリーも数々の受賞歴があり、肩書きだけでなくそのクオリティや実用性の高さは実証済みです。このたび、膨大な音色を備えた同社のフラッグシップ・ソフト・シンセOmnisphereがついに“2”へとバージョン・アップを果たし、音色/機能をさらに充実させました。

膨大なライブラリーの検索に貢献する
SOUND MATCH/SOUND LOCK

まず結論から言ってしまいますが、VST/Audio Units/RTAS/AAXに対応するOmnisphere 2のソフト音源としてのクオリティの高さは、表現する言葉もありません。好みはありますが、これ以上の音源は2015年の地球上に存在しないと言えます。美しいパッド、暴力的なウォブル・ベース、創造力をかき立てる未知のテクスチャー……プリセットを選ぶだけでも素晴らしい結果をもたらすことは保証されています。が、このVer.2は、いちから音色を作る場合も、プリセットに自分なりのテイストを加えるときも、より使いやすくなっています。どこまでもクリエイティビティを追求できるモンスター・マシンなのです。

さて、ここでVer.2に搭載されたすべてのライブラリーや機能を紹介するのは無理がありますから、ソフト・シンセの主な使い方である“音色を選ぶ”やり方と“音色を作る”方法に分けて説明していきます。

まず“音色を選ぶ”使用法ですが、Omnisphere 2においては、決して短絡的な結果を求めたプリセット選びにとどまりません。まず、順番に音色を聴いていくという従来の選び方はあきらめましょう。幾つかのプリセットをサラッと聴いておくことは、本プラグインの理解を深めることにつながります。が、すべて聴き終わるころにはVer.3が出ているでしょう。

Omnisphere 2においては、プリセットを選ぶ作業もクリエイティブに進化しています。カテゴリーやタイプ、ジャンルを指定することによって音色を絞り込む機能は引き継がれていますが、今回新たに追加された“SOUND MATCH”“SOUND LOCK”がさらに検索をサポートします。SOUND MATCHは現在選択された音色に似た特性を持つプリセットを膨大なライブラリーから絞り込める機能(画面①)。

▲画面① SOUND MATCHのインターフェース。特性のマッチ具合は棒グラフで表示される ▲画面① SOUND MATCHのインターフェース。特性のマッチ具合は棒グラフで表示される

SOUND LOCKは選択した音色のアルペジエイターやフィルターなどのパラメーターをロックしてほかのプリセットに適用することで、新たに音色を生成しながらサーチを続けます。この2つの検索方法だけでも膨大なライブラリーから導き出される音色が変わってきますので、Ver.1のユーザーも新たな魅力を感じ取れることでしょう。ここで、Omnisphereの売りの一つである“Psychoacoustic”ライブラリーの中にDiego Stoccoさんというアーティストのサンプルが大量に追加されています。このコレクションだけでもOmnisphere 2を買う価値がある、という評価をする人もいるほどですので、ぜひチェックしてみてください

大量のウェーブテーブルが追加され
サンプルのリバースにも対応

次に、“デフォルトの状態”から音色を作ることで分かってくる機能を見ていきましょう。

まず音色の基礎であるオシレーターですが、ここも強力にバージョン・アップされており、DSPオシレーターに波形が追加されています。特にうれしいのは大量のウェーブテーブル(画面②

▲画面② 大量に追加されたウェーブテーブル。“Edgy”“Overtones”“Sweepers”など音色の特性によってカテゴリー分けされている ▲画面② 大量に追加されたウェーブテーブル。“Edgy”“Overtones”“Sweepers”など音色の特性によってカテゴリー分けされている

さまざまな倍音変化を演出できる波形で、SHAPEスライダーを動かすことによって倍音変化が聴き取れると思います。さらにほかのシンプルな波形でもSHAPE/SYMMETRY/HARD SYNCの3つのスライダーによってさまざまな倍音を作り出せます。また新たにユニゾン機能が強化されており、シンプルなシンセ波形に加えるだけで美しい広がりを出せます。

ほかにはささいなことですが、サンプルがリバースできるようになっており、これだけで楽しみが倍になった気分です。さらにリング・モジュレーションもModulator波形がDSPオシレーターで使えるようになっていますので、いろいろなサンプルに適用することで新たな倍音抽出の可能性が広がります。

そしてグラニュラー部ですが、Omnisphere 2のグラニュラー・シンセシスは、ほかの機種とは若干違っています。前バージョンに搭載されたグラニュラーは“音楽的な結果がもたらされる”ようチューニングが施されていましたが、今回のアップデートによって、“よりノイジーに、実験的な結果が出るように”なった印象です。これまでの音色変化もLegacyモードとして残っていますので、皆さんも聴き比べてみてください。

そしてこのグラニュラー部に“使ってくれ!”とでも言いたげなフレーズ・サンプリング・ライブラリーが大量に追加されています。パッチではなくサンプルなのですが、ファイル名が“PHR”で始まっているサンプルはフレーズ・サンプリングという意味。しかもこれらはCD-ROM時代の『Hans Zimmer Guitars』や『Heart of Asia』『Vocal Planet』からの復活収録ですね! ガンガン活用してみてください。

待望のオーディオ・インポート機能
フィルターも大きくバージョン・アップ

今回のアップデートで個人的に一番気になっていたのは、オーディオ・インポート機能です。ドラッグ&ドロップや、UTILITYタグから“User Audio”を選択すると簡単にオーディオ・ファイルを読み込めます。ついに、手持ちのサンプル・ライブラリーがOmnisphereでプロセッシングできるわけです! グラニュラーで激しく変調させるもよし、フィルターやエフェクトをかけるもよし。楽しんでください!(画面③)。

▲画面③ Omnisphere 2より実装されたオーディオ・インポート機能。手持ちのオーディオ・ファイルを読み込んでグラニュラー・シンセシスを施したり、Harmonia、Innerspaceなどのツールで自在に加工できるようになった ▲画面③ Omnisphere 2より実装されたオーディオ・インポート機能。手持ちのオーディオ・ファイルを読み込んでグラニュラー・シンセシスを施したり、Harmonia、Innerspaceなどのツールで自在に加工できるようになった

そして音色制作の肝であるフィルターですが、ここも大きくバージョン・アップを果たしました。僕のお気に入りは“Metal Pipe”というフィルターで、音色的にはコムフィルター的な倍音変化なのですが、追加されたレゾネーター系も素晴らしいです。フィルターのパラメーターですが、カットオフやレゾナンスだけでなく“Variant”もさまざまな変化をしますので、お忘れなく。

エフェクト・ラックのアップデートも充実しています。追加された“Innerspace”はコンボリューション系のエフェクトですが、ここでまた劇的に音色を変化させられます。ただでさえ効果が強いのに、A/Bの2種類が適用可能。時間をかけて細かく調整してきた音色にかけるのは勇気が必要ですが、新たな発見もあるでしょう。ほかにもストンプ系のひずみやコンプ、それにアナログ系のフェイザーやコーラス、トレモロなども加わっています。アンプ・シミュレーターも増えており、特に“SAN-Z-AMP”の凶暴なひずみは秀逸です。さらにPre/Post選択可能なAUXセンドが実装されているのも個人的にうれしいポイント。例えばディレイを使用する場合、これまではインサートしてエフェクト・ラック内部でバランスを取っていたのですが、さらに細かな調節が可能になりました。

ほかにも大量に機能が追加されているわけですが、例えばアルペジエイターも音程の概念が追加されており、きちんとしたフレーズも組み立てられます。また一つの音色に対して複数のパラメーターをモーフィングする“ORB”は忘れられがちな機能ですが、非常に完成度の高いモーションを生成してくれます。今回のアップデートでは“ATTRACTOR”という機能が追加されており、動きのヒントを与えてあげると勝手に動きまわって音色に時間的/空間的な変化をもたらしてくれます。

数々のビンテージ・シンセ波形やウェーブテーブル、それに最新の音楽制作に使われるグラニュラーやグリッチなテイストを含んだ膨大なライブラリーもOmnisphere 2の特徴です。スケールの大きなサウンドトラック系のライブラリーと思われがちですが、あらゆるジャンルやスタイルに対応できる“深み”があります。これは万人にお薦めせざるを得ません。

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年8月号より)

SPECTRASONICS
Omnisphere 2
60,480円
▪Mac:OS X 10.8以降 ▪Windows:Windows Vista/7以降 ▪共通項目:2.4GHz以上のプロセッサー、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)、64GB以上のディスク空き容量