「ZYNAPTIQ Orange Vocoder」製品レビュー:柔軟性の高い音作りを可能とするボコーダー・プラグインの先駆者

ZYNAPTIQOrange Vocoder
デジタル・ミュージックのアレンジにおける声の存在は、近年さらに注目されています。メイン・ボーカルのみならず、YAMAHA Vocaloid、ANTARES Auto-Tune、トーク・ボックス、そしてボコーダーにより、さまざまなアプローチで声を楽器として扱い、活用されています。今回紹介するのは10周年記念エディションとしてZYNAPTIQからリリースされたボコーダー・プラグイン、Orange Vocoder。1998年にPROSONIQから登場して以来、ボコーダー・プラグインの代表格として進化をし続け、時代のニーズに応えてきたその力を試していきましょう。

8種類のボコーダー・アルゴリズム
32ボイスのバーチャル・シンセを搭載


前述の通り、Orange VocoderはPROSONIQの製品でしたが、ZYNAPTIQによって再リリースされました。PROSONIQは、オーディオ処理、ボーカル除去、ストラクチュアル・オーディオ・モーフィングなどに実績があり、その技術によってOrange Vocoderは生み出されたのです。基本的な仕様を見ていきましょう。ボコーダーのアルゴリズムはアナログ・モデル回路からデジタル・クロス合成モードまで8種類内蔵。また、32ボイスのバーチャル・アナログ・シンセサイザーのほか、リバーブや10バンド・グラフィックEQなどを搭載しています。動作環境は、Mac OS XのAudio Unitsのみと、VST/RTAS/AAXユーザーには寂しい条件ですが、VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proに立ち上げれば、ほかの環境でも使用可能でした。ソフトとしての動作は非常に軽く、サクサク音作りができます。まず筆者が引かれたところは、どこをどう触れば音作りができるのかすぐに分かるという親切なGUI。シンセを少しでも触ったことがある人なら、このカッコいいオレンジの画面上を見れば一目瞭然(りょうぜん)です。筆者もそうですが、プラグイン世代で実機のボコーダーを使い倒すような環境になかった人でも、簡単にその効果を得られるはず。コードや音程は、MIDIデータをトリガーにできるので、ボイス・データを読み込んだオーディオ・トラックにインサートしつつ、MIDIトラックのアウトにも本機をアサインすれば、自在にボコーディング可能です。 

新しいインスピレーションとなる
多彩なプリセットを内蔵


8つのボコーダー・アルゴリズムについて詳しく見ていきましょう。ボコーダーと言えば、さまざまな音を想像できると思いますが、Orange Vocoderに搭載された8種類のアルゴリズムは、柔軟性が高く、作りたい音のたたき台になりうるものがすべてそろっています。発売当初のOrange Vocoderの音である“Classic Orange”や、24バンド・アナログ・ボコーダーをエミュレートし、いわゆる一番ボコーダーとしてイメージされる音の“Analog Emul1/2”。そして筆者が一番うなった“MR 3rd order”。低域に比べ高域によく反応し高い解像度を実現するため、人間の耳に近い処理となり自然なサウンドが得られるとのこと。すごく抜ける音が作れました。この辺りはさすがボコーダーの先駆者としての技術を感じます。シンセ部には2基のオシレーターを備え、Pulse/Sawtooth/Squareなど、10個の基本波形のほか、Voice/Strings/Noise/Indigoなどの7種のサンプル・サウンドも選択可能。オシレーターごとにLFOやリング・モジュレーター、ディストーションなども搭載されているので、幅広い音色作りが可能です。そしてリバーブ、アナライザー付き10バンドEQによって仕上げ、イメージを詰めていけるので、かなりの作り込みができます。最後に筆者が特に気に入った機能“Phat”を紹介しましょう。これはステレオ拡張機能で、オンにすると定位がかなり広がるという効果が得られます。この機能、近年のエレクトロ・ミュージック・シーンではよく耳にする効果で、重宝しそうです。Orange Vocoderは多彩なプリセットも搭載しているので、その一つ一つを選ぶだけでもインスピレーションとなり、そこから新しい発想が生まれてきます。また、声だけでなく、自由にほかのオーディオ素材を読み込むというアイディアもあります。筆者はエレクトロ・パーカッションのループ素材を読み込み、サウンド・モードにAnalog Emul1を選びリバーブをカット。リリースを最速、オシレーターの波形を2つともIndigoにしたところ、リズミカルなシンセ・フレーズと出会いました。 近年のポップス・シーンでは、多くのデジタル・ミュージックの手法が活躍し、デジタル・ミュージック的な声素材のアレンジは作り込みがいのある部分の一つです。Vocaloid、Auto-Tune、トーク・ボックス、そしてボコーダーは、それぞれ似ている部分もあるけれど違うもの。その中でもボコーダーは、音の生成、発音の基本的な仕組みはシンセサイザーであり、メロディ、コード、リズム、音色を担う最も楽器的要素の強いものと言えるでしょう。Orange Vocoderはボコーダー・プラグインとして多彩な機能を持ち、なおかつ分かりやすいインターフェースなので、シンセ/ボコーダーの初心者にはなじみやすくも、バリバリのシンセ・マスターには自分だけのボコーダー・サウンド・ライブラリーの1つとして応えてくれるでしょう。今、エムアイセブンジャパンが販売する国内正規品を購入してユーザー登録すると、齋藤久師氏による即戦力プリセットが無料で入手できるので、ぜひ試してみてください。ハイセンスなサウンドをこの機会に一緒に楽しみましょう。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2015年1月号より)
ZYNAPTIQ
Orange Vocoder
17,407円
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:Mac OS X 10.6.8以降 ▪CPU:1.5GHz以上のINTEL CPU ▪対応フォーマット:Audio Units