自由度の高い音を生成できる
グラニュラー・ウェーブテーブル
まずグラニュラー・ウェーブテーブルとは何かを説明したいと思います。この土台となっているグラニュラー・シンセシスという技術は、理論としては古くからありましたが、シンセの音源として普及し始めたのはここ十数年くらいでしょうか。波形を細かく切り刻み、その一つ一つの切り出し方、順番、変調などに手を加えて新しい音を生み出すという方式です。一方ウェーブテーブルは、1980年代からあったシンセのタイプで、短い波形の入った箱のようなものを数珠つなぎに再生していくことで、フィルターなどでは作れない音色変化をもたらそうとするものです。
両者は考え方に似た部分もありますが、グラニュラーの方がより複雑な計算によって波形が生成されているので自由度が高いと言えます。一方ウェーブテーブルは取り扱いが単純で分かりやすいことから、この両者を合体させた方式がここ最近注目されています。グレイン・テーブルなんて名前で呼ばれることもあります。
分かりやすく言えば、Codexはウェーブテーブル内の波形をグラニュラー的に作っているというわけです。ただし使用時にはこの部分をあまり深く掘り下げなくても十分使いこなせると思いますので、話はこの辺までにしておきましょう。
アナログライクなフィルターと
対数的な調整が可能なエンベロープ
パラメーターを見ていきましょう。一見複雑そうな画面ですが、触ってみるとそんなに難しくはありません。VCAやVCFなど一般的なアナログ・シンセに共通するパラメーターも並んでいます。そして最上段にあるのが2つのオシレーター(画面①)。
これは前述の通りグラニュラー・ウェーブテーブルのエンジンが作り出した波形を取り扱う音の出発点です。上限32ボイスのポリフォニックで、ボイス数は自由に調整できます。
プリセットは100種類以上内蔵し(画面②)、
ウェーブテーブルは64種類の中から選択できますが、オシレーター1と2で違うウェーブテーブルを利用できます。ウェーブテーブルを切り替えると、表示されている波形のスペクトルも切り替わり、現在のウェーブテーブルがどんな波形の集合体であるか視覚的に見せてくれます。
また、内蔵のウェーブテーブルを使わずに外部からインポートしたオーディオ・ファイルの音声をウェーブテーブルに変換して使うこともできます。試しにボーカルのWAVファイルをインポートしてみましたが、原音とは全くイメージの異なる音になりました。原音の声のニュアンスがそのままウェーブテーブルに反映されると想像していましたが、そういう感じでもありません。ただ予想を裏切る複雑な波形ができて面白いです。ちなみにCodexが自動的にウェーブテーブルに変換するために必要な音声の長さは1〜5秒とのこと。
2つのオシレーターは“オシレーター・シンク”も可能です。この場合オシレーター2は1の倍音として機能します。“RESOLUTION”や“FORMANT”のツマミもあり、フィルターでは得られない音色変化を生み出すことができるので、積極的に回してみるといいでしょう。効果は絶大です。
オシレーターから出てくる音は非常にデジタルな響きですが、硬い感じはしません。これはここ最近リリースされているAPPLE iPadのアプリやプラグインなどにも共通して言えることかもしれませんが、硬いというより“解像度が高い”、というイメージが強く、とても美しい音が印象的です。グラニュラーというと変態でグリッチなノイズかと思われがちかもしれません。実際そういう音もバンバン出ます。しかしCodexはPPG的なエレガントでウォームなサウンドも得意で、音楽的なオシレーターを搭載していると言えます。
次にVCFを解説していきましょう。VCFというくらいだからアナログなフィーリングを期待しますが……やはり思った通りですね! 2/4ポールの切り替えが可能なマルチモード・フィルターで、ローパス、ハイパス、バンドパス、ノッチを搭載。どれもキレが良く、アナログな感覚のスウィープ感が再現できていますが、CURTIS製のようなビンテージなフィーリングというよりモダンなモジュラー・シンセのフィルターに近い印象を受けます。専用のADSR以外に、オシレーターでカットオフにモジュレーションをかけられるFMがあり、これもいい倍音が作れて非常に使えます。
VCAはADSRで設定しますが、CodexのADSRはその減衰カーブがデフォルトではデジタル的にリニアなものになっているようで、そこまでリニアではないアナログ・シンセを使い慣れた人にとっては思い通りにならない感覚があるかもしれません。しかし“SHAPE”のツマミによって対数的なカーブに調整が可能で、このツマミを左右に回すことでイメージに近いカーブが得られます。これは微妙な違いかもしれませんが、エンベロープのカーブの違いは直接サウンド・メイキングの質に関係してくるのでとても重要です。音作りの幅を広げるという意味でこの機能は画期的ですが、音作りにかかる時間はその分多少増えることは覚悟しなければなりません。
豊富なモジュレーション・ソースで
複雑な効果を作り出せる
中央左下に配置されているLFOは4系統で、うち2つはテンポに同期できます。この4つをどのモジュレーション・ソースとして取り扱うかは、その右にあるMOD MATRIXセクションによって指定します(画面③)。
ここではまずSRC(ソース)とDEST(デスティネーション)の関連付けを指定し、MOD(モジュレーション)の強さを決めます。ソースにはCodexに入ってくるMIDI信号などを細かく利用することもでき、それをオシレーターのウェーブテーブルのスキャンやエンベロープのタイム、後述するエフェクトのかかり方などを動かすために使うことも可能です。マトリクスの設定も画面に見えているものがすべてで、サブウィンドウが開いてより複雑な操作を求められることもなく、分かりやすく作られています。
ARP/SEQセクションではアルペジエイターの設定を行います。名前に“SEQ”と付いていますが、あくまで外部からMIDIノート信号を受けて初めて動き出すステップ・シーケンサー(16ステップ)なので、自走式の単独シーケンサーとして考えると使い勝手がよくありません。これは自分で組んだシーケンス・パターンをアルペジエイター的に使える機能と言えます。そして一番左下にあるのがFXセクション。ここにあるのはビット・クラッシャー、ディストーション、左右に個別のタイムを指定できるステレオ・ディレイ、ダークな質感のプレート・リバーブ、そしてコーラスです。どれも非常によくできていて、ディストーションは“つぶれる”というよりグッと音を前に出してくれる質感で、常にかけておいてもいいくらいに感じました。その横のEQはグラフィック・タイプですが、さすがWAVESというべき、単体プラグインでもいいくらい素敵なかかり具合です。ここにもローパス/ハイパス・フィルターがあり、どれもおまけ程度とはとても言えないほどの完成度です。
CodexはほかのWAVES製品と同様、Mac/WindowsのVST、AAX、RTAS、Audio Unitsプラグインとして、ほとんどのホストアプリケーションに対応するほか、スタンドアローンのアプリケーションとしても使うことができるので、既にある制作環境に組み込むのも容易です。
またオシレーターの質感、フィルターのキレ、付属エフェクトの完成度の高さなど、どれをとっても非常に洗練されたソフト・シンセと言えると思います。出音は抽象的なイメージの強いものですが、ちゃんと自己主張も忘れない使える音色が満載です。プリセットだけに終わらず積極的に自分だけの音作りに挑戦してほしいと思います!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年1月号より)