MIDI over MADIに対応
コンピューターから遠隔操作が可能
アルマイト処理された鉄製の1Uの筐体に、TRSフォーンのバランス・アナログ入出力を備えた本機。2つのTFT液晶画面と3つのボタンのみのシンプルな操作系だが、この3つのボタンでインプット・ゲイン、アウトプットのボリューム、サンプリング周波数、マスター・クロックや同期の設定などが可能。また付属のリモート・コントロール・ソフト(Mac/Windowsに対応)で、同様の操作がコンピューターからでも行えるようになる。本機はMADI入出力(MIDI over MADIにも対応)と2系統のADAT入出力を搭載しているので、もう1台のAD/DAを用意して16ch分のアナログ入出力を追加したり、2台のA16 MK-Ⅱを接続することで32イン/32アウトという環境を簡単に構築できる、また4台のA16 MK-ⅡをMADIで接続して、RME MADIFace USBなどに接続することで、アナログ64イン/64アウトのオーディオI/Oとしてコンピューターで使用可能になる。さらにはRME HDSPE MADI FXを使用すれば、64ch×3系統で合計192イン/192アウトが利用可能になるということだ。これだけ大規模なアナログ入出力環境を比較的リーズナブルな価格で構築できることは驚きだ。また、先述の通りMIDI over MADIにも対応しているため、本体のTFT液晶でのコントロールだけでなく、コンピューターにインストールしたリモート・コントロール・ソフトウェアからMIDIもしくはMIDI over MADIで遠隔操作が行える。ここでMADIについて簡単に説明しておこう。MADIはMultichannel Audio Digital Interfaceの略で、当初は信号を28個並列させ、最大56ch(28イン/28アウト)をサポートしていた。2001年にMADI-X(MADI-Extended)が導入されたことにより、48kHzで64ch(32イン/32アウト)、96kHzで32ch(16イン/16アウト)、192kHzの場合16ch(8イン/8アウト)の伝送に対応した。MADIデータ伝送は75Ωの同軸(標準のBNC)ケーブル、または本機でも採用されているオプティカル(デュプレックスSC)ファイバー・ケーブル1組だけで行われ、従来のアナログ・マルチケーブルによる伝送と比べ、低コスト、容易なメインテナンス、より高い柔軟性で効率的に行うことが可能になった。MADIオプティカルはわずか数ミリの太さのケーブルで、中継無しで最大2kmまで延長することが可能。また電源ケーブルなどからの電磁波の影響が無く、同チャンネル数のアナログ・マルチケーブルと比較して重量や取り回しの良さという点でその差は歴然だ。MADIは元になる地点から目的の地点へ一方向に信号を伝送するが、双方の拠点に本機を設置して間をMADI接続することにより、双方向のデジタル・スネークを簡単に設置することもできる。
派手さは無いが落ち着いた音質のD/A
マイクなどのキャラがよく出るA/D
ではそのサウンドをチェックしていこう。amp' box Recording studioでいつも使用しているAVID Pro Toolsをテストの録音ソフトとしたがサンプリング周波数はPro Toolsへ自動的に追従する。いったんPro Toolsを介してのモニタリングでは少しレイテンシーが気になったが、付属のリモート・コントロール・ソフトには簡易ミキシング機能もあるので、ルーティングでインプットを直接返せばレイテンシーを気にせずに録音することも可能だ。次に音色をチェックしてみる。まずは録音済みのオーディオ・ファイルを再生してD/A部のキャラクターをチェックしてみた。派手さは無いが落ち着いた音である。安価なデジタル機器にありがちな変に硬いところも無く、落ち着いた、いわゆるナチュラルなサウンドと言えよう。出音にキャラクターが無い分、アウトボードでの色付けはしやすいかもしれない。続いてA/D部のキャラクターをチェックしてみた。歌とアコースティック・ギター用に真空管マイクのNEUMANN U67を立て、マイク・プリアンプにNEVE 1073を使用してみたが、こちらもナチュラルな印象だ。マイクやマイク・プリアンプのキャラクターがそのまま出る感じである。ダイナミック・レンジも特にワイドな印象はないが、この価格帯では十分なレベルだろう。ある意味色付けが無い分、マイクやマイク・プリアンプにはこだわりたいと思わせる音色だ。スタジオでの使用にも十分な仕様に仕上がっているが、一番お勧めしたい使用環境は録音設備を持つ大きなホールやライブ・ハウス、放送局ではないだろうか? MADIシステムの便利さは今後、いろいろなシーンで標準の仕様になっていくのではないかと思う。