「NATIVE INSTRUMENTS Molekular」レビュー:強力なモジュレーションを備えたソフトウェア・マルチエフェクター

NATIVE INSTRUMENTSMolekular
NATIVE INSTRUMENTSから、モジュラー式のエフェクト・システム、Molekularがリリースされました。これは同社のReaktor 5もしくは無償配布されているReaktor Player上で動作するもの。Mac/WindowsでスタンドアローンまたはAudio Units/VST/RTAS/AAXプラグインとして使用できます。曲作りをしていて、作成したループやシーケンス・パターンなどにさらに手を加えたいときはよくあるのですが、まさにMolekularはその答えを一発で導いてくれそうです。

リズムからメロディックなフレーズも作成
モジュレーションのアサインも簡単


Molekularには35種類のエフェクトが用意されており、画面下の4つのDSPスロットで選択します。それぞれのスロットで扱えるエフェクトの種類が決まっています。後述するように接続順は入れ替え可能です。DSP 1で扱えるのは、Dual Comb、Plagiarizm、ReSonitarium、Spektral Shift、Spektral Smearなど。名前を挙げてもよく分からないと思いますが、入力信号のスペクトル(周波数分布)を制御し、ピッチ指定やレゾナンスで音程を与えるものです。たとえ原音がリズム・パターンであってもメロディックな音を生み出すことができます。DSP 2はAngel Delay、Band Delays、Cloud Delay、Dub Delay、Freezer、Iteratron、Reverseoid、Ryuchi、Trailsなど。ディレイのほかスタッターやグリッチ系といった、入力信号の時間やタイミングを制御するものです。DSP 3にはChorus、Dark Forces、Dual Filterなど、主にリバーブ、フィルター、コーラス系エフェクトといったものを用意。DSP 4はLo Fi、Modulo Fry、Slam Dunkなど。これらはEQ、ダイナミクス、ディストーション系です。なおDual Delay、Equalizer、Filter、Level、Metaverbの5つは、どのスロットでも使用できます。画面左上にはモジュレーター・セクションがあり、パラメーターに動きを与えることができます(画面①)。

▲画面① モジュレーション・セクション。ENVは、最大16ステップのトリガー・シーケンサー3基とエンベロープ・フォロワーを備える ▲画面① モジュレーション・セクション。ENVは、最大16ステップのトリガー・シーケンサー3基とエンベロープ・フォロワーを備える
 LFO、進行方向も変えられるステップ・シーケンサーのSTEP、エンベロープ・フォロワーと3基のトリガー・シーケンサーを組み合わせたENV、入力信号をある一定の規則で変更したりランダマイズしたりするLOGICの4種類があります。例えばLFO波形にはサンプル&ホールドが無いのですが、LFOとLOGICを組み合わせればサンプル&ホールドができるようになります。Monokularでは、DSPのどの部分にモジュレーションをアサインするかでさまざまなパターンを生み出せるのが秀逸です。例としてモジュレーションでSTEPを選び、パターンを作ってみます。モジュレーション・セクション内右下のASSIGNを押すと、各パラメーターのノブにこのSTEPでどの程度の変化をつけるのか表示されます。しかも正逆双方向にコントロール可能です(画面②)。
▲画面② モジュレーションのASSIGNボタンを押すと、パラメーター・ノブの隣にアサイン用のゲージが現れる。センターより上が正方向、下が逆方向。画面でPitchの左にあるマークは、ステレオ・モジュレーション(効果を左右にパンニングする)のオン/オフ ▲画面② モジュレーションのASSIGNボタンを押すと、パラメーター・ノブの隣にアサイン用のゲージが現れる。センターより上が正方向、下が逆方向。画面でPitchの左にあるマークは、ステレオ・モジュレーション(効果を左右にパンニングする)のオン/オフ
 例えば、Dual CombのPitchとResoをSTEPのパターンで動かせば、音程を備えたシーケンス・フレーズが出来上がります。またReSonitariumのResoとFBをモジュレートすると、これらのパラメーターを上げた部分だけレゾナンスとフィードバックが加わります。こうしたモジュレーションを、LFO/STEP/ENV/LOGICの4種×各4系統で計16パターン作れるわけです。下手なリズム・パターンを考えるより、単純なリズムの素材をMonokularで加工していく方が面白い結果が得られるかもしれません。また、モジュレーションは試してみないと分からない部分も多いのですが、ダブル・クリックで値をクリアすることができる上、ASSIGNオンの状態でパラメーター名をクリックすると、そのパラメーターのモジュレーション一覧が見られるので、心置きなくトライ&エラーできます(画面③)。
▲画面③ 各パラメーターへのモジュレーション・アサイン状況は、ASSIGNオン時にパラメーター名をクリックすると一括して見ることができる。右端のMACROSはモーフィング・セクションのM1〜4に相当する ▲画面③ 各パラメーターへのモジュレーション・アサイン状況は、ASSIGNオン時にパラメーター名をクリックすると一括して見ることができる。右端のMACROSはモーフィング・セクションのM1〜4に相当する
 

複数のパラメーターを同時に操作可能
シンセのように全く新しい音を生成


次にモーフィング・セクションを見ていきましょう。Molekularのインターフェースの上部中央には強力なモーファーが配置されてます。使い方はこのようにします。まずMOPHERを押し、対象とするDSPユニットやモジュレーションなどを指定します。次にパラメーターを調整してから、Saveを押し、現在のパラメーター設定を保存するポイントをA/B/C/D/Baseの5つから選択します。例えばVokodarならPitchを上げて、Saveを押してAをクリック。Pitchを下げて、Save→Bの順にクリック。これでA↔B間でピッチの高低がコントロールできます。また、モーフィング・セクションには4つのマクロ・コントロール・ノブ(M1〜4)があります。モジュレーションと同じように、1つのノブで複数のパラメーターを操作可能。さらにM1〜4のモーフィングや、モジュレーションのモーフィングも可能です。このモーファーでのポインター位置は、角度と、中心であるBaseからの距離で示されています。Motionをオンにすれば、指定したモジュレーション・ソースでこの角度と距離をコントロールできます(画面④)。
▲画面④ モーフィング・セクションではA/B/C/D/Baseにパラメーター値を記録し、その間の連続した変化を生み出すことができる ▲画面④ モーフィング・セクションではA/B/C/D/Baseにパラメーター値を記録し、その間の連続した変化を生み出すことができる
 円形に動かすのであればLFOのノコギリ波を、円周を往復させるなら三角波を選べばOKです。またマニュアルでモーフィングの動きを記録する場合は、DAWのオートメーションを使うのが手っ取り早いです。そして右上のルーティング・セクションは、4つのDSPの接続順を変えるもの。直列/並列はもちろん、DSPユニットの位置の入れ替えもできます。ユニットとユニットの信号合流点ではScanが設定可能です(画面⑤)。
▲画面⑤ ルーティング・セクション。白丸がScanで、この位置でモジュレーションを使った信号のクロス・フェードが可能だ ▲画面⑤ ルーティング・セクション。白丸がScanで、この位置でモジュレーションを使った信号のクロス・フェードが可能だ
 2系統の信号をクロス・フェードできるのですが、もちろんこれもモジュレーションで操作することができます。接続の自由度はモジュラー・シンセさながらで、ルーティング・ポイントでディレイとマルチモード・フィルターを追加できるのも特筆すべき点です。さらに、ピッチやモーフィングのクオンタイズもできます(画面⑥)。
▲画面⑥ 生成される音階のクオンタイズも可能。音名やスケールでの指定が行える ▲画面⑥ 生成される音階のクオンタイズも可能。音名やスケールでの指定が行える
 つまり、オシレーターやレゾナンスなどで発振したサウンドを一定のスケールに当てはめたり、パラメーター変更のタイミングをDAWのテンポにシンクさせるといったことも可能です。今回試してみて面白いと思ったのは、こんな使い方でした。このピッチ・クオンタイズで複数のスケールを用意しておきます。1つ目は単音のド、2つ目はソ、3つ目はメジャー・スケール……などといった具合です。これをステップ・シーケンサーで切り替える設定にし、DSP 1のDual Combで、スネアが鳴るたびにド(C)の音が出力されるように設定します。これでスネアに合わせて音階を持ったさまざまな音が鳴らされるわけですが、さらにDub Delayを加えたり、Scanでエフェクトのブレンド量を変えたりと、動きのある音を生み出していくことができました。リミックスやアレンジをする上でこうしたエフェクトは必須。楽典のアレンジ作法から逸脱した、より感覚的&身体的なアプローチができます。そしてMolekularは、そんな用途において、従来のエフェクトを越えるものとも言えるでしょう。入力した音を元に、新たなサウンドを生成するシンセであるかのような変化を与えてくれます。もちろんそれは良しあしで、なかなか一発では良い結果に導いてくれません。しかし操作はいたって直感的で、シンプル。それだけに一度その構成を熟知すれば無限のエフェクト・アレンジメントも可能になることでしょう。各エフェクトの特性を語るにはまだまだ時間がかかりそうですが、プリセットも豊富なので、飽きることなく扱っていけそうです。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年6月号より)
NATIVE INSTRUMENTS
Molekular
17,800円
▪Mac:Mac OS X 10.7〜10.8、Intel Core 2 Duo以上のCPU、2GHz以上のRAM(4GB以上推奨)、1GBのディスク空き容量、DVD-ROMドライブ、Reaktor 5またはReaktor Player(無償)上で動作(スタンドアローンもしくはAAX 64ビット/Audio Units/RTAS/VSTに対応) ▪Windows:Windows 7/8(32/64ビット)、INT EL Core 2 DuoまたはAMD Athlon 64 X2以上のCPU、2GHz以上のRAM(4GB以上推奨)、1G Bのディスク空き容量、DVD-ROMドライブ、Reak tor 5またはReaktor Player(無償)上で動作(スタンドアローンもしくはAAX 64ビット/RTAS/VS Tに対応)