「ROLAND FA-06」製品レビュー:Integra-7直系の音源/エフェクトを持つワークステーション・シンセ

ROLANDFA-06
ROLANDから制作/ライブの両方に向けたワークステーション・シンセ、FAシリーズがリリースされました。同社音源モジュールのフラッグシップ機、Integra-7直系の音源/エフェクトを備えるほか、Mac/Windowsに対応したUSBオーディオI/O機能やコントロール・マップの装備により、DAWとの高い連携性を実現。今回は、61鍵モデルのFA-06をレビューしていきます。

クリアできらびやかなピアノ音色
ドラムは生音系から電子音まで多彩


本機の鍵盤はベロシティ対応で、タッチは同社のJuno-Dなどに近い印象。速い指使いにも適した柔らかい感触で、細かいパッセージも楽に弾くことができます。グランド・ピアノに慣れた人には軽く感じられるかもしれませんが、普段シンセ鍵盤に親しんでいる人にとっては自然な重さでしょう。音源部は全16パート。楽器音色やプレイヤーの演奏ニュアンスを高度に再現する独自技術“SuperNATURAL”(以下、SN)による音色をはじめ、同社音源モジュールXV-5080に収録されたPCM音色のブラッシュアップ版を備えています。SN音色は生楽器系が中心で、PCM音色はシンセやドラムがメイン。液晶画面下のボタンでは楽器カテゴリーが選べ、それぞれにSNとPCMの両音色が一緒になって入っているので、ジョグ・ダイアルでシームレスに選択できます(写真①)。

▲写真① 楽器カテゴリー・ボタンで目的のものを選ぶと、その中に入った音色のリストを表示することができる。SuperNATURAL音色とPCM音色が一緒になって収録されており、写真右のジョグ・ダイアルでシームレスに選択可能だ。音色名の左側にはアイコンが付いており、“SN”と冠されたものはSuperNATURAL音色、“PCM”と付いたものはPCM音色となる ▲写真① 楽器カテゴリー・ボタンで目的のものを選ぶと、その中に入った音色のリストを表示することができる。SuperNATURAL音色とPCM音色が一緒になって収録されており、写真右のジョグ・ダイアルでシームレスに選択可能だ。音色名の左側にはアイコンが付いており、“SN”と冠されたものはSuperNATURAL音色、“PCM”と付いたものはPCM音色となる
 印象に残った音色を幾つか紹介してみます。まず、ピアノ音色の“Full Grand1”はクリアできらびやかなROLANDらしいサウンド。これでファンキーなフレーズを弾くと、昨年亡くなったジョージ・デュークを思い出します。エレピの音色は全部で約90種類と豊富ですが、中でも“'73 Pure”や“'73 Tine”はRHODESのエレピを打鍵したときに生じるかすかなアタック・ノイズまでも忠実に再現していて、臨場感あふれる仕上がり。さすがは“SuperNATURAL”と言うだけあります。エレピはオケに混ぜると埋もれがちですが、これなら十分に存在感が出せそうです。オルガンは、良質で使いやすいHAMMOND風の音色を多数搭載。“B3 Jazz 1〜7”や“B3 Bossa”辺りは、コンボ・オルガンのVK-8やステージ・キーボードのV-Comboシリーズなどでオルガン音色に定評のあった同社らしい高品位なビンテージ・テイストです。“C3 Rock 5”などのひずんだサウンドも、ロータリー・スピーカーで鳴らしているような自然なひずみ方で素晴らしい。独特の粘りがあるクラビネット音色も健在で、ワウの効いた“Twah Clav”“Awah Clav”など、キャラクターの立ったものは特にうれしいです。シンセ・リードやシンセ・ベースはそれぞれ300種類前後と圧倒的なボリュームで、実用性の高いものが多い印象。シンベだけなくアコースティック・ベースの音色も充実しており、“Ac Bass 1”や“Ac Bass 2”といったSN音色は、目の前でジャズ・ベーシストが演奏しているかのようなリアルなアタック感が魅力です。ドラム・キットに関しても、全体を通してリアリティあふれるクリアなサウンド。“Solid Kit”や“LA Studio”といったSNキットのタイトで抜けの良いキック&スネア、そしてPCMキット“Meshell Kit1”に含まれるアタックの効いたリム・ショットは、R&Bやヒップホップなどリズムがキモになる音楽で活用できそうです。PCMの“LD Std Kit 1”は、高音の余韻が奇麗に抜けるスネアが魅力。生音系だけでなくエレクトロニックなサウンドもそろっており、中でも同社のビンテージ・リズム・マシンをシミュレートしたと思われる“909 808 Kit”や“TR808Special”はキックが特徴的。低域が豊かで、温かみのある極太サウンドです。アンダーグラウンドなビート・ミュージックの制作にも役立ちそうですね。 

全68種類のマルチエフェクトや
クラブ映えしそうなトータルFXを搭載


内蔵音色を一通りチェックしたところで、それらに彩りを持たせるエフェクト類にも目を向けてみましょう。液晶にエフェクトの編集画面を呼び出すと一目りょう然なのですが、本機の内部には幾つかのエフェクト・インサート・ポイントがあります(写真②)。
▲写真② エフェクト・エディットの画面に入ると、各エフェクトのルーティングを見ることができる。エフェクトの選択やON/OFF、コーラス/リバーブへの送り量の設定などが行えるほか、選んだエフェクトのパラメーター・エディット画面に飛ぶことも可能だ ▲写真② エフェクト・エディットの画面に入ると、各エフェクトのルーティングを見ることができる。エフェクトの選択やON/OFF、コーラス/リバーブへの送り量の設定などが行えるほか、選んだエフェクトのパラメーター・エディット画面に飛ぶことも可能だ
 まずはIntegra-7直系のMFX(マルチエフェクト)から見てみると、エンハンサーやフェイザー、フランジャー、トレモロ、ディストーションなど全68種類がそろい、16パートのすべてに違うものを同時にかけることができます。MFXには全5プリセットのボコーダーが含まれており、パート1で使用可能。クラブ系のプレイヤーにはうれしい機能ですね。背面のオーディオ・インにマイクをつなぎ、鍵盤を弾きながら歌えば加工された声音を鳴らすことができます。MFXの後段にはパートごとのEQ、全パートにかかるコーラスとリバーブ(送り量はパートごとに調整可)、マスター・コンプ/EQ、TFX(トータル・エフェクト)といったエフェクトを搭載。TFXは出力の直前に位置し、同社サンプラー/エフェクターSP-404SX譲りのディレイ、アイソレーター、ルーパー、ビット・クラッシャーなどを含んでいます。劇的な音色変化を求めるDJも納得の内容です。エフェクトは全般的に大胆かつ奇麗にかかります。例えばディレイは響きの切れ際まで繊細に作られている印象。エレピなどよく使われるトレモロは、リッチで濃厚な揺らぎ方です。音色加工と言えば、“SOUND MODIFY”という6つのノブを使うと、各パートのさまざまなパラメーターをリアルタイムで調整することができます。ノブにアサインされた機能としては、フィルターのカットオフ/レゾナンス、エンベロープ・ジェネレーターのアタック/リリース、トータル・コンプやコーラス、リバーブのかかり具合などが挙げられます。特にリバーブをノブ1つで調整できるのは、レコーディング時などに助かりますね。パネル左端のレバーは左右に動かすとピッチ・ベンドが行え、奧に倒すことでビブラートや音量変化を加えることができます。レバーの上にはS1/S2というボタンが備えられており、コーラスやリバーブ、EQなどを割り当てておくと、効果のON/OFFを瞬時に切り替えることが可能です。 

内蔵シーケンサーで打ち込んだ内容は
オーディオにパラで書き出し可能


パネル右側に目を向けてみると、16trの内蔵シーケンサー・セクションが配置されています。液晶にピアノロール画面を表示し視覚的に扱えるよう設計されており、リアルタイム/ステップの両方式で打ち込みが行えます。作成した最大16tr分のMIDIトラックは、“マルチトラック・エクスポート機能”により一度の操作でWAVのオーディオ・ファイルにパラで書き出すことが可能。もちろんスタンダードMIDIファイルとしてもエクスポートでき、書き出したものはSDカードに保存可能なため、DAWへの取り込みも簡単です。シーケンサーの右隣にはサンプラー・セクションが用意されており、SP-404SXに通じる弾力のある16個のパッドが目を引きます。赤く自照するのもSPシリーズ直系で良いですね。サンプルは鍵盤の演奏/オーディオ・イン/背面のUSB端子から取ることができ、そのうちどこからサンプリングするかを設定したら、後は割り当てたいパッドを押して録音を開始するだけです。筆者のようにライブ活動するキーボーディストにとっては、パネル右側にパッドが配置されているのはありがたいですね。左手で鍵盤を弾きながら右手でパッドをたたくことができるので、ステージでの演奏がバラエティ豊かになります。さて冒頭で述べた通り、本機にはUSBオーディオI/O機能が搭載されていますので、ケーブル1本でコンピューターと接続すれば、鍵盤やサンプラーでの演奏やシーケンスを直接DAWに録音することができます。また、STEINBERG CubaseやAPPLE Logic Proなど主要DAWのコントロール・マップを備えているため、DAWコントローラーとして活用することも可能です。最後になりましたが、これだけ多機能な本機、一体重量はどのくらいだと思いますか? 何と5.7kgという軽さなのです。ライブ会場など、外の現場に持ち込むのにも適していますね。ハードウェア的な部分で言うともう1つ、電源入力がカバーされており、アダプターが不意に抜けてしまったり端子が曲がるのを防止する配慮が見られます。総合的に見て、細かいところまで気配りされた実用性の高いシンセと言えるでしょう。 
▲リア・パネルには、左からコンピューターとつなぐためのUSB端子、システム・アップデート用のUSBメモリーを接続するためのUSB端子、MIDI IN/OUT、フット・ペダル・イン(CTRL1、CTRL2、HOLD)、マイク/ギター・イン用のゲイン・ツマミ、マイク/ギター・イン(フォーン)、ギター/マイク・イン切り替えスイッチ、ライン・イン(ステレオ・ミニ)、サブアウト(TRSフォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン端子(フォーン)、DCイン、電源スイッチがレイアウトされている ▲リア・パネルには、左からコンピューターとつなぐためのUSB端子、システム・アップデート用のUSBメモリーを接続するためのU
SB端子、MIDI IN/OUT、フット・ペダル・イン(CTRL1、CTRL2、HOLD)、マイク/ギター・イン用のゲイン・ツマミ、マイク/ギター・イン(フォーン)、ギター/マイク・イン切り替えスイッチ、ライン・イン(ステレオ・ミニ)、サブアウト(TRSフォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン端子(フォーン)、DCイン、電源スイッチがレイアウトされている
   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年4月号より)
ROLAND
FA-06
オープン・プライス (市場予想価格:110,000円前後)
▪鍵盤:61鍵(ベロシティ対応) ▪最大同時発音数:128音(音源負荷により変化) ▪パート数:16パート ▪音色:SuperNATURALアコースティック/シンセ/ドラム・キット、PCMシンセ/ドラム・キット(GM 2音色含む) ▪エフェクト:マルチエフェクト68種類×16系統、パートEQ×16系統、ドラム・パート用コンプ/EQ×6系統、コーラス3種類、リバーブ6種類、マスター・コンプ(インサート・エフェクト78種類に変更可能)、マスターEQ、トータル・エフェクト29種類、マイク・イン・リバーブ8種類 ▪シーケンサー:16tr ▪サンプリング・フォーマット:16ビット/44.1kHz、PCM ▪外部メモリー:SDカード ▪外形寸法:1,008(W)×101(H)×300(D)mm ▪重量:5.7kg