
一貫した曲作りが行える統合型ソフト
主要DAWのショートカットが設定できる
Studio One 2は64ビットのOSを前提にプログラミングされた新しいDAW。近年のDAWの高機能化、プラグインの高音質化などにより高い処理能力が必要とされる中で、かなりのアドバンテージとなるでしょう。このStudio One 2にはStudio One Artist 2(同社オーディオI/Oに付属)、Studio One Producer 2(19,800円)、そして今回レビューするStudio One Professional 2と、3つのグレードがラインナップされています。Professional 2ではオーディオ/MIDIレコーディング機能を扱う"ソング"ページに加え、プロフェッショナルなマスタリングが可能な"プロジェクト"ページがあり、曲のアイディア出し、レコーディング、アレンジ、ミックス、そしてマスタリングまでシームレスに一つのDAWの中で行うことが可能です。数多くのDAWが存在する中、ここまでできるものは珍しいのではないでしょうか。実は、今回初めてStudio Oneシリーズを使うのですが、GUIは最近のトレンドであるシングル・ウィンドウが基本で、シンプルかつシャープで非常に見やすい印象。一見して何がどこにあるかすぐに分かり、ほとんどの操作がドラッグ&ドロップで行えるので直感的な操作ができそうです。また複雑になりがちなアクティベーション/インストール作業も簡単で、インターネット環境さえあれば、PRESONUSのサイトにユーザー・アカウントを作り、購入時に与えられたプロダクト・キーを入力するだけですぐにアクティベートできました。筆者は普段APPLE Logic Pro 9を使用していますが、慣れ親しんだDAWが変わるとまず戸惑うのが、キーボード・ショートカットです。しかしStudio One 2は後発のDAWだけあって、その辺りも考慮され、主要なDAW(Logic、STEINBERG Cubase、AVID Pro Tools)とほぼ同じ設定ができます。これは"キーボードマッピングスキーム"という項目で"Logic"などDAW名がプルダウンで選択できます。実際にLogic Proの設定で操作しましたが、違和感はありません。それでは実際に使用して、内部を見ていきたいと思います。DAWを開いて曲のアイディアを出そうとすると、さまざまなバーチャル・インストゥルメントで打ち込みをしたり、生楽器などをオーディオ・ファイルとして録音したりなど、まずは曲の骨組みを作っていくと思います。そこで役立つのが付属の純正64ビット仕様のバーチャル・インストゥルメントで、モノシンセ(Mojito)、サンプラー(Sample One)、プレイバック・サンプラー(Presence)、ドラム・サンプラー(Impact)の4つがあります。これらは、画面右側のブラウザーから、コンピューターにインストールされているAudio Units/VSTフォーマットのサード・パーティ製のインストゥルメントとともに表示されます。それらをアレンジ・ウィンドウと呼ばれる各トラックが並ぶところにドラッグ&ドロップすると、新規インストゥルメントとして追加することが可能。また、既存のインストゥルメントの上にドロップすれば、インストゥルメントを入れ替えることが簡単にできたりと、クリエティブな作業に集中できます(画面①)。実際に付属のバーチャル・インストゥルメント4つを使いながら、簡単なデモを制作してみましたが、使い始めからすぐに違和感なくアイディアを形にすることができました。▲画面① アレンジ・ウィンドウにインストゥルメントをドラッグ&ドロップすると新規インストゥルメントとして追加される。直感的な操作で作業できるMojitoはコーラス、オーバードライブ・エフェクト付きのシンプルで分かりやすいモノシンセ。Sub OSCというパラメーターがあり、1オクターブ下の周波数を加えることができるので、太いベースやリードを作るには重宝しそうです。Sample Oneは、シンプルで分かりやすいサンプル・プレーヤーで、アレンジ・ウィンドウ内のイベント(リージョン)を選択して右クリックし、"新規Sample Oneに送信"コマンドにより直接オーディオ・ファイルを読み込んだり、ブラウザーからオーディオ・ファイルをドラッグ&ドロップで読み込ませることも可能です。Presence(画面②)は、鍵盤で演奏可能なプレイバック・サンプラーで、付属のライブラリーにはピアノ、ストリングス、ホーン、パーカッション、ビンテージ・シンセ、ベース、ドラム・セットなど高音質で幅広い音色が収録されており、シンプルで効率的に配置されたパラメーターを使いさまざまな用途で活躍しそうです。Impactは、AKAI PROFESSIONAL MPCのような外観を持つドラム・サンプラーで、付属のプリセットやブラウザーからのドラッグ&ドロップでサンプルをアサインして直感的に使用できます。REXファイルの取り込みも可能、パラメーターも分かりやすいので音色の加工も簡単でしょう。
▲画面② 4つ付属するバーチャル・インストゥルメントの内の1つ、Presence。プレイバック・サンプラーで、ピアノ、ストリングス、ホーン、パーカッションなどさまざまな種類のライブラリーを用意付属インストゥルメントのプリセットやサウンド・ライブラリーは、今のトレンドの音がしっかり反映されたハイファイでエッジの効いたセンスの良い音色が多い印象で、カテゴリーが4つと少しさみしいが気がしますが、Audio Units/VST共に対応しているので、もし違う傾向のサウンドが欲しい場合は好きなサード・パーティ製のものを使用すれば、特に困ることはないでしょう。またStudio One Professional 2には、28種類の64ビット対応プラグインや、NATIVE INSTRUMENTS Kontakt Elementsも付属しているので心強いです。個人的には、純正のプラグインの動きがすごく機敏で安定感があり、またパラメーターの効率的な配置、操作性の分かりやすさなどすごく好感が持てるので、ポリフォニックのシンセも付属すると、もう少し幅が広がるのかなと思いました。インストゥルメントをダブル・クリックして画面に立ち上げると、ウィンドウの上部に同じソング内で使われているインストゥルメントのタブが表示されるので、そこですぐに別のインストゥルメントに移動できるのは素晴らしいと思います。Studio One 2では基本的に、プラグインを1つずつしか画面に立ち上げられないようなので便利です。インストゥルメントでアイディアを打ち込んだ後は、MIDIデータの編集に移るかと思いますが、今回のバージョン・アップで追加された機能の1つ、複数のMIDIトラックを同時編集できるのは素晴らしいです(画面③)。例えば、4つ別々のインストゥルメントを使って打ち込んだキック、スネア、クローズド・ハイハット、オープン・ハイハットのイベント(リージョン)をアレンジ・ウィンドウ上で同時に選択すると、ピアノロール画面上にも同時に表示され、編集できるのです。これはドラム・パートのプログラミングや、シンセのユニゾン・パートなどさまざまな場面で大活躍するでしょう。
▲画面③ 複数のMIDIトラックを選択すると同時編集することが可能ペンシル・ツールを使ったMIDIの打ち込みで使うピアノロール画面も、基本的なものに見えますが、細かいところに便利な機能が盛り込まれています。例えば、音階というパラメーターが右側にあり、ここでキーとスケールを選択すると、そのスケールのノートのみが打ち込めるようになったり、ベロシティ、モジュレーション、ピッチ・ベンド、アフター・タッチなどのパラメーターがタブで表示され、すぐに切り替えられるところが便利だと感じました。その他、クオンタイズ、ノートの長さ調節、トランスポーズ、ヒューマナイズなどのよく使う機能は各ノートを選択後、右クリックし"音楽機能"コマンドからスピーディに深い階層まで行かなくても行えるのもいいですね(画面④)。
▲画面④ MIDIの編集も"音楽機能"コマンドからスピーディに行えるのが便利
CELEMONY Melodyne Essentialが
統合された使い心地はまるで純正
次にオーディオの編集機能を見てみて、まず目を引くのが今回のバージョン・アップで加えられた、CELEMONY Melodyne Essentialのピッチ補正機能の統合です(画面⑤)。簡単に言ってしまうと、ボーカルなどのピッチ補正の際、元から備わる機能のようにMelodyneが使えます。


音質劣化が少ないタイム・ストレッチ機能
MIDIとオーディオが簡単にまとめられる
次に最近では必要不可欠なタイム・ストレッチ機能ですが、非常に素晴らしいクオリティです。テンポ±20BPMくらいなら、音質劣化もほとんど無く、かなり実用レベルだと思いました。タイム・ストレッチのモードにはパーカッシブなオーディオ用のDrum、ソロ楽器/ボーカル用のSolo、そのほかポリフォニック楽器/素材用のSoundがあり、素材に合わせて選択し最良の結果を出すことができます。実際にボーカルやポリフォニックな楽器、2ミックスなどで試してみましたが、タイム・ストレッチの実行速度が速く、それでいてこのクオリティの高さには驚かされました(画面⑦)。



あらゆる場面に64ビットの恩恵が
ダイナミック・レンジの広さも印象的
ミキサー部は、すごく見やすく、また正確性が重視されて作られている印象を受けます。64ビットの恩恵なのか、フェーダーなどの動作が非常に機敏で、ハードウェアを使っているような感覚と安定性すらあるように感じます。マスター・フェーダーには、ピーク・メータのほかRMSメーターも装備されていたり、数多くのマスタリング系プラグインなどに採用されているK-Systemメータリングも選択可能で、マスター・チャンネルにこの種のメーター・プラグインを挿入しなくても済むので作業の効率化が図れそうです。音質においては、一聴してダイナミック・レンジが広いなと感じました。また付属の28種類の64ビット対応プラグインは、上品で自然なかかり具合が印象的で、特にEQやコンプなどはかなり高品質だと思いました。普段EQやコンプなどはDAW付属のものよりサード・パーティ製を使う機会が多いのですが、この音質なら付属のもので相当なところまで詰められるのではないかと思いました。また操作性も他と同様にシンプルで使いやすく、プラグインが表示される大きさもちょうどよく、ノブやスイッチ類も高級感が漂うほどで、マウスでも操作しやすい印象を受けました(画面⑩)。

マスタリングまでシングル・ウィンドウ
DDPの書き出しにも対応する
Studio One Professional 2にはマスタリングを行う"プロジェクト"ページが用意されていますが、これも素晴らしいと思いました。マスタリングで必要な作業のすべてが一画面で表示され、完結してしまうのです。すごくシンプルな画面ですが、決して機能をそぎ落としているのではなく、実際に必要な波形編集、CDライティング、エフェクト処理、曲間設定、デジタル配信などの機能が無駄なく配置されていて、一度でもマスタリングを経験したことがあればすぐに操作できるでしょう。Studio One 2ではレコーディングやアレンジ、ミックスをする"ソング"ページとマスタリングをする"プロジェクト"ページがあることは前述しましたが、本来自分でマスタリングまでするミュージシャンやプロデューサーは納品するマスター・ファイルを仕上げるのに、最低でも2つのソフトを行き来しなくてはなりませんでした。しかしお互いをリンクさせることが可能なので、双方が常に連動してアップデートされていきます。"ソング"ページ内の"プロジェクトに追加"コマンドで、2ミックスがバウンスされ、その後マスタリングを行う"プロジェクト"ページに自動で追加されます。マスタリングはしてみたものの、どうにも納得が行かず、ミックスに手を加えたい場合は、"プロジェクト"ページ内右上のソング・タグをクリックすれば、すぐにソング・セッションに戻ることができ修正可能です。その後は"マスタリングを更新"コマンドを実行すれば、新たにバウンスが開始されプロジェクト・セッション上に反映されます。これほど、簡単にソングとプロジェクトを行き来きできると、マスタリングで無理やりなんとかしようという発想がなくなり、ミックスをもう一度見直してみようという発想になって全体的なクオリティの向上にもつながるのではないでしょうか?

●Mac/Mac OS Ⅹ 10.6以降(10.7対応)、INTEL Core Solo 1.5GHz以上のCPU(Core DuoまたはXeon推奨)、1GB以上のRAM(2GB以上推奨)●Windows/Windows Vista(64ビット)/7、INTEL Pentium 4 1.6GHz以上のCPUまたはAMD Athlon 64(2.8GHz以上推奨)、1GB以上のRAM(2GB以上推奨)