ZYNAPTIQ Orange Vocoder IV レビュー:24種類のアルゴリズムを搭載するボコーダー・プラグインの最新バージョン

ZYNAPTIQ Orange Vocoder IV レビュー:24種類のアルゴリズムを搭載するボコーダー・プラグインの最新バージョン

 2011年に設立し、ドイツに拠点を置くプラグイン・デベロッパーのZYNAPTIQ。僕自身、同社のAdaptiverbやPitchmap、Wormholeなどは普段から仕事でかなり愛用しています。今回ご紹介するのはZYNAPTIQ Orange Vocoder IV。バージョン1は1998年にPROSONIQから誕生したそうですが、このたびZYNAPTIQからバージョン4としてリリースされました。Mac/Windowsで動作し、AAX/AU/VST2&3プラグインとして使用可能です。早速見ていきましょう!

全19種類のオシレーター波形を内蔵 10種類から選べるユニゾン設定

 バージョン4における大きな変更点の一つに、ステレオ対応となったことが挙げられます。そしてユーザー・インターフェースも一新。OVERVIEW/SYNTH/VOCODER/MIX & FXという4つのタブで構成され、画面左上にあるそれぞれのタブ名部分をクリックすることで切り替え可能です。

 デフォルトではOVERVIEWタブが開きます。ここでは、後述するSYNTH/VOCODER/MIX & FXタブのルーティングや設定などを一括管理可能。また画面最上段の中央にはプリセット・メニューもあります。

 このメニューの真下にあるQUICK SETUPボタン(歯車アイコン)を押すと、VOCODER/PITCH QUANTIZER/SYNTHESIZERなど、計6つのモード選択画面が出現。

QUICK SETUPボタン(歯車アイコン)を押すと出現するモード選択画面。左からVOCODER/PITCH QUANTIZER/SYNTHESIZERなど、計6つのモードを選べる。また、各アイコン上にマウスをかざすと設定が切り替わる仕様にもなっている

QUICK SETUPボタン(歯車アイコン)を押すと出現するモード選択画面。左からVOCODER/PITCH QUANTIZER/SYNTHESIZERなど、計6つのモードを選べる。また、各アイコン上にマウスをかざすと設定が切り替わる仕様にもなっている

 任意のモードをクリックすると画面中央部分も各モード設定に切り替わるのですが、実はクリックせずに各モードのアイコン上にマウスをかざすだけでも切り替わります。つまり、ノー・クリックでサウンドをリファレンスできるということです。これはZYNAPTIQがユーザーのワークフローを考慮した仕様なのでしょう。非常にスムーズな操作感が味わえます!

 ボコーダーにはモジュレーターとキャリアという2つの音が必要です。Orange Vocoder IVではインサートしたボーカル・トラックをモジュレーターとして使用し、内蔵シンセをキャリアとして用います。MIDI入力は外部MIDIキーボードを使用することもできますが、画面左下にあるKBD MODEボタンをクリックしてGUIモードにすると、画面最下段にあるキーボードを使用可能です。以前の表示範囲は2オクターブずつでしたが、バージョン4では4オクターブ単位になったのもうれしいポイントでしょう。

 次はSYNTHタブ。ここではボコーダーのキャリアとなる波形をシンセサイズでき、2系統のオシレーター、4系統のフィルター、2系統のピッチ・モジュレーター、リニア/エクスポネンシャル・シェイプを選択可能なアンプ・エンベロープ、最大4つまでのデスティネーションを割り当てられるシンセ・マクロ・コントロール、9種類のモードを備えるポリディストーションなど、とにかくたくさんの機能を装備。オシレーターには“GLOTTAL”という波形を追加し、全19種類の波形をチョイスできます。再生中に波形を変えても音は途切れず、すぐに音色をプレビューできるのには感心しました。

 また4系統のフィルターも再設計されており、キー・トラッキングやデュアル・モジュレーション・ソースの切り替えといった機能を搭載。フィルター・カーブは6/12/18/24dB/octから選べます。さらにバージョン4では、VOICINGセクションからDETUNE/CLUSTER/SPREAD/KEY SYNCなど計10種類のユニゾン設定をセレクト可能に。僕はアグレッシブな響きになる、“CLST 4V”が一番好みです。

FREEZEやピッチ・シフトなどのエフェクトも搭載 高品質なサウンドと圧倒的な操作性を兼ね備える

 VOCODERタブでは、ボコーダー・アルゴリズムを画面右側にある一覧から選択することができます。

VOCODERタブに表示されたボコーダー・アルゴリズムの一覧画面。右下にあるCANCELを除く、全24種類のアルゴリズムを使用することができる

VOCODERタブに表示されたボコーダー・アルゴリズムの一覧画面。右下にあるCANCELを除く、全24種類のアルゴリズムを使用することができる

 バージョン4ではLPC(Linear Predictive Coding)やアナログ・モデリングを採用したものなど16種類の新しいアルゴリズムが追加され、全部で24種類のアルゴリズムを使用可能です。僕は“COLORIZE”というアルゴリズムが一番のお気に入り。近年人気のカラーベースを強烈に意識したアルゴリズムだと思われ、オールドスクールなグロウル・ベースを一発でカラーベースに変身させることができます。

 VOCODERセクションの“FORMANTS”でフォルマント・シフトもできるため、ボコーダー・サウンドに抑揚を加えたいときは、こちらでオートメーションを書くのもよいでしょう!

 最後のMIX & FXタブは、主にモジュレーターとキャリアの音量バランスを整えるLEVELSセクションを備えています。このほかにも、同タブはFREEZER/PITCH-Q/REVERB/CHORUSといったエフェクトに関するセクションを装備。特にFREEZERセクションには、音声をリアルタイムにフリーズできるFREEZEボタンを搭載しています。これをオンにすると、現在鳴っている音を極めて短い範囲でロールさせたような効果を得ることが可能です。このFREEZE機能と同タブに備わる空間系エフェクトを併用すれば、ボコーダー・サウンドが一気に幻想的なシンセ・パッドへと早変わり! さらにPITCH-Qでモジュレーターをピッチ・シフトさせることも可能です。設定次第では、深くピッチ補正を施した“ケロケロ・ボイス”のような効果も得られるので重宝します!

PITCH-Qセクションでは、5種類のピッチ・クオンタイズ・モードを装備。クオンタイズ/スケール/ノート/ゼロ・レイテンシー動作/モーフィングなどから選択できる

PITCH-Qセクションでは、5種類のピッチ・クオンタイズ・モードを装備。クオンタイズ/スケール/ノート/ゼロ・レイテンシー動作/モーフィングなどから選択できる

 バージョン4になったことで完全にリニューアルしたOrange Vocoder IV。明瞭で高品質なサウンドと圧倒的な使いやすさを兼ね備えています。一般的なボコーダー・プラグインはモジュレーターの音がぼやけがちで、狙ったダイナミクスや音色を出すのにかなり調整が必要なのですが、Orange Vocoder IVはそうではなかったので感激しました。ダンス・ミュージックのみならず、映画音楽や効果音制作、ありとあらゆるシーンで必携のボコーダー・プラグインであること間違いなし。僕自身としては“2023年必修プラグイン”です。みなさんもチェックしてください!

 

Blacklolita
【Profile】サウンド・デザイナー。ダブステップを軸にダンス・ミュージックやゲーム音楽を制作する。サンプル・パックのデベロッパーKYMOGRAPHの運営も手掛けている。Twitter:@_Blacklolita_

 

 

ZYNAPTIQ Orange Vocoder IV

オープン・プライス

(市場予想価格:30,800円前後)

ZYNAPTIQ Orange Vocoder IV

REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.15以上、Apple SiliconまたはINTEL CPU(2コア以上、Core I7以降を推奨)、AU/AAX Native/VST2.4/VST3(いずれも64ビット)対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 10以上、INTEL CPU(2コア以上、Core I7以降を推奨)、AAX Native/VST2.4/VST3(いずれも32/64ビット)対応のホスト・アプリケーション
▪共通:iLokアカウントまたはiLok 2/3ベースのアクティベーション

製品情報

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