ZOOM M3 MicTrak レビュー:32ビット・フロート録音対応のショットガン・マイク搭載ステレオ・レコーダー

ZOOM M3 MicTrak レビュー:32ビット・フロート録音対応のショットガン・マイク搭載ステレオ・レコーダー

 ZOOMが、DSLR(デジタル一眼レフ・カメラ)用オンカメラ・ショットガン・マイク兼レコーダーのM3 MicTrak(以下、M3)を発売。以前、ZOOM F1-SPというショットガン・マイクに専用アダプターを付けることで似たような使い方ができていましたが、今回は一体型かつ、32ビット・フロート録音対応ということで注目を集めています。早速見ていきましょう。

指向性をモノラル/90°/120°に切り替え可能 WAVファイルとM/S RAWファイルへの同時記録

 M3はステレオ・ショットガン・マイクを搭載するレコーダー。録音時のビット/サンプリング・レートは32ビット・フロート/48kHzです。本体はプラスチック製でありながら、単三乾電池×2本を入れた場合でも重さ135gと軽量。オンカメラ用のステレオ・ショットガン・マイクは重量が大きく影響するため、この軽さは特筆すべき点です。特に録音機能搭載で、この軽さのモデルはあまり見たことがありません。なお、付属のショック・マウントを使うことで、カメラ本体からのノイズが軽減される仕様になっています。

 出力はライン・アウトとヘッドフォン・アウト(いずれもステレオ・ミニ)があり、後者には音量調節ボタンを装備。ライン・アウトのレベルはマイク・レベル程度なので、どのDSLRカメラでもひずまずに入力可能でしょう。本体に液晶ディスプレイは無く、操作子はPOWERキー、ステレオ幅を調整できるSTEREOキー、ローカット用のLO CUTキー、PLAY/STOPキー、RECキーのみで、必要最小限となっています。

M3 MicTrakの左面。左から、一眼レフ・カメラなどの外部入力へ接続するためのライン・アウト(ステレオ・ミニ)、コンピューターとの接続用かつバス・パワー対応のUSBポート(Type-C)

M3 MicTrakの左面。左から、一眼レフ・カメラなどの外部入力へ接続するためのライン・アウト(ステレオ・ミニ)、コンピューターとの接続用かつバス・パワー対応のUSBポート(Type-C)

M3 MicTrakの右面には、ヘッドフォン・アウトとそのボリューム・ボタンを装備

M3 MicTrakの右面には、ヘッドフォン・アウトとそのボリューム・ボタンを装備

 また、記録用のmicroSDカード・スロットを備え、電源オフ状態でRECキーを押しながらPOWERキーを長押しすることでmicroSDカードのフォーマットが完了。この方法は本体に印字されているので、忘れてしまっても安心です。録音開始時にRECキーを長押しすることで、すべての操作子をロックできるため、誤ってRECキーを押して録音停止してしまうといったトラブルを防止できます。LO CUTキーをオンにすると、120Hzより下をカットする仕様。空調や風の音が気になる場合に有効です。

 STEREOキーではOFF/90°/120°の3段階で切り替え可能。OFFで超指向性のモノラル仕様、90°で自然なワイド感のステレオ仕様、120°でよりワイドなステレオ音像が得られます。ここでの設定はすべての出力と録音ファイル(WAV)に反映されるのですが、なんとM3は上記のWAVと同時にM/S RAWというファイル形式でも音声データを記録。つまり、M3のマイク自体がM/S仕様のステレオ・ショットガン・マイクであるため、ミッド成分とサイド成分の音声を別々に記録できるのです。ちなみに、このM/S RAWファイルにSTEREOキーの設定は影響しません。

 さらに、録音後に専用ソフトM3 Edit &Play(Mac/Windows対応)を使えば、M/S RAWファイルのステレオ幅や音量の調節が行え、32ビット・フロートまたは24ビット・リニア形式のステレオ音声ファイル(WAV)としての書き出しも可能。ノーマライズ機能も有するため、わざわざDAWを使用しなくてもある程度の処理が行えて便利です。

M3 MicTrak専用ソフト、M3 Edit & Playの画面。M/S RAW形式で録音されたファイルのステレオ幅や音量の調整、書き出しなどが行える。さらに、録音ファイルの音量を自動で最適なレベルに調整するノーマライズ機能も搭載している。Mac/Windowsで動作する

M3 MicTrak専用ソフト、M3 Edit & Playの画面。M/S RAW形式で録音されたファイルのステレオ幅や音量の調整、書き出しなどが行える。さらに、録音ファイルの音量を自動で最適なレベルに調整するノーマライズ機能も搭載している。Mac/Windowsで動作する

高精度クロックのTCXOを搭載 Type-C端子接続によるUSBマイクとして動作

 M3は、乾電池駆動で約12時間の連続使用が可能。またUSB(Type-C)によるバス・パワー電源供給にも対応するため、周辺のコンピューターやモバイル・バッテリーにつなげて使用することもできるでしょう。さらに、M3はAndroid/iOS/Mac/Windowsで動作するUSBマイクとしても機能します。コンピューターやスマートフォンに接続して使うことができるので、撮影後のアフレコ用マイクとしても活躍しそうです。ちなみにUSBマイクとして動作するときも、音声はM3本体に同時録音することができます(iPhone以外)。

 またこの価格帯では珍しく、音声クロックにTCXOを搭載しているため、映像との音声のズレも最小限に抑えることができるでしょう。せっかく映像と別で録音したのに、映像とずれるから使うのをあきらめた……という経験のある方は多いのではないでしょうか。

 撮影現場で使用してみたところ、音質は他社のDSLR用ガン・マイクとそん色なく、狙った音をしっかり録音することができていました。そして何より32ビット・フロート録音の恩恵が素晴らしく、電源を入れるとすぐに録音開始できるということが、いかに魅力的なことか! 特にこういったガン・マイクを使用するインタビュー撮影やオフショット密着撮影などでは、いかに素早く対応できるかが大切なので、“音声入力ゲイン調整の手間”から解き放たれることが、こんなにも便利なんだということをあらためて実感します。

 ほかに気に入ったのはM/S RAWファイル形式での記録。現場では、声だけ録れていればOKと思っていたけれど、編集時に“もう少し空気感があった方が、より臨場感を演出できるのに”と思うことは往々にしてあります。それを、あとから自由に調整ができるというのは素晴らしく、よりクリエイティブな作品作りに貢献することでしょう。

 近年のDSLRカメラでは、映像データをRAWファイル形式で記録できるものも増えてきていますが、今回のM3 MicTrakの登場によって、音声収録の現場にもRAWファイルで記録する時代が到来したなと実感しました。正直、これまでのDSLR用レコーダー付きマイクは、重い割にカメラ側で録音したものとの差を感じないこともあり、結果としてレコーダー無しのマイクを使用することが多かったのです。しかし、今後は32ビット・フロート&M/S RAWファイル形式での録音という、カメラには無い機能を持つM3を積極的に使用していきたいと思います。

 

森田良紀
【Profile】studioforestaを拠点として録音からミックス、マスタリング、映像撮影、配信までを行う。Fender Music Japan、TikTok LIVE、地経学研究所などの映像や配信番組の制作に携わる

 

ZOOM M3 MicTrak

オープン・プライス

(ZOOM STORE価格:24,000円)

ZOOM M3 MicTrak

SPECIFICATIONS
▪入力:Midマイク、Sideマイク ▪出力:ライン・アウト、ヘッドフォン・アウト(いずれもステレオ・ミニ) ▪最大同時録音トラック数:4tr ▪最大同時再生トラック数:2tr ▪録音フォーマット:WAV(32ビット・フロート/48kHz、ステレオ)、BWFフォーマット対応 ▪記録媒体:microSDHC規格対応カード(4~32GB)、microSDXC規格対応カード(64GB~1TB) ▪電源:単三乾電池×2本、USBバス・パワー駆動対応、ACアダプター(ZOOM AD-17、別売り) ▪外形寸法:71.6(W)×38(H)×201.3(D)mm ▪重量:135g(電池含む)

製品情報

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