WARM AUDIO WA-47F レビュー:1970年代の名機を元に設計したFETコンデンサー・マイク

WARM AUDIO WA-47F レビュー:1970年代の名機を元に設計したFETコンデンサー・マイク

 WARM AUDIOは2011年にテキサスのガレージで起業したメーカーです。ハイエンドな録音機材をお手頃価格で、というコンセプトで、これまでさまざまなモデルをリリースしています。クラシックな機材をベースにした製品群は、手の届きやすい価格でありながら本格的なパーツを採用しており、マーケットの中でも存在感を放っています。筆者は今回初体験なので、噂通りの実力なのか興味津々です。

FAIRCHILDのトランジスターなどぜいたくなパーツを採用

 WA-47FはNEUMANN U47 FETのクローン機です。U47 FETはU47の後継機として1972年に発売され、真空管回路の代わりにFET回路を採用しています。大音量ソースでもひずみにくいことから、特にバス・ドラムやベース・アンプでは発売以来定番となり、シャウト系のボーカルなど、一般的なマイクでは音量が大きすぎて上手く捉えられないソース全般のファースト・チョイスになることが多いマイクです。

 それではWA-47Fのスペックを見ていきましょう。単一指向性のラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイクで、K47スタイルのカプセルを搭載。FAIRCHILDのトランジスターやWIMAのコンデンサーなど、ぜいたくなパーツを使用し、トランスはAMI/TAB-FUNKENWERKのものが採用されています。こちらのトランスはドイツ製ビンテージ機材のリプレースメント・パーツとして有名で、力の入れようが分かりますね。背面には−10dBのPADと140Hzのハイパス・フィルター・スイッチが装備されています。

背面には、−10dBのパッド・スイッチとハイパス・フィルター・スイッチがスタンバイ

背面には、−10dBのパッド・スイッチとハイパス・フィルター・スイッチがスタンバイ

 最大SPLは137dB(パッド作動時147dB)で、周波数特性は40Hz~16kHz、出力インピーダンスは150Ω。このスペック上の数値は、S/N比やセルフ・ノイズに至るまで、オリジナルのU47 FETと全く同じでした。サイズは70(φ)×203(H)mmとカタログに書かれていますが、アーム抜きの本体の長さを実測すると160mmほどです。U47 FETよりわずかに大きく、重量も900gと190g重くなっています。

底面にはXLR端子を備える。アームを含む本体の長さは203mm

底面にはXLR端子を備える。アームを含む本体の長さは203mm

 また、U47 FETでは底面に付いている−6dBの出力パッドは搭載されていません。しかし、こちらは先述の入力段のPADを使えば対応できるでしょう。

ピッキングのニュアンスや輪郭が見えやすい低音

 今回のチェックでは、プリアンプにSHEP/NEVE 31105、オーディオI/OはAPOGEE Symphony I/O MKⅡを使い、AVID Pro Tools|HDXでレコーディングしました。録音ソースはアコースティック・ギター、ボーカル、エレキベースです。ベースはFENDER Precision BassをACOUSTICのアンプModel 116で鳴らしてチェックしています。

 まずはボーカルから試してみましょう。こちらは一聴してクリアでオープン感のある音色で、かなり好印象です。中域に不自然なところが無く、普通に録っただけで既に良い音がします。中域から高域にかけての印象は、音抜けが良い感じでした。かと言って、派手さのある高域でもなく、素直な雰囲気です。中低域に関してはスッキリした印象で、ボワつきが無く整理されている感じがしました。アコギに関してもおおむね同じ印象で、サウンド・ホールの近くに立てても、低音が暴れずにコントロールされた音色になります。特にEQなどで処理をしなくても気持ちの良い音なので、初心者にもお薦めできます。もちろん、中低域が無いというわけではなく、ぼやけないでソリッドに出る感じなので、オケの中で扱いやすい音、という感じです。

 次にベース・アンプでチェックしてみます。こちらも低音がソリッドで、ピッキングのニュアンスや輪郭が見えやすい印象です。フレーズが見えやすく、低音もノートごとの音量のばらつきが少なかったです。

 手元に無いので比較はできませんが、オリジナルのU47 FETはもう少しヌルッとしたビンテージ機材特有の肌触りがあるイメージがあります。単純に昔っぽい音を求めるならビンテージの方が良いと思いますが、そういうニュアンスを持った現代的なマイクという意味では、WA-47Fはかなり使えるマイクだと思いました。実際のところ、オリジナルはスタジオでバス・ドラムとベース・アンプの前に何十年も立てられていて、音がなまっている可能性もあるので、本来の性能を発揮できない個体があることも考えられますし、ビンテージ・マイクを過酷な条件で使うのに抵抗がある場合には、選択肢の一つとして、ビンテージより手頃な価格で手に入るWA-47Fを使うのは良いと思います。

 ビンテージのクローン機は、オリジナルより分かりやすく濃い味付けで、似ているかどうかを追求するあまり、使えるかどうかを考えないで作られていると感じる場合があります。しかし、このWA-47Fはそこに縛られすぎず、手頃な価格で良い音にしようという意思が明確に見えて、好印象なマイクでした。

 

中村公輔
【Profile】neinaの一員としてドイツの名門Mille Plateauxなどから作品発表。以降KangarooPawとしてソロ活動を行い、近年は折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らのエンジニアリングで知られる。

 

WARM AUDIO WA-47F

オープン・プライス

(市場予想価格:128,000円前後)

WARM AUDIO WA-47F

SPECIFICATIONS
▪タイプ:コンデンサー ▪カプセル:K47スタイル・ラージ・ダイアフラム ▪指向性:カーディオイド ▪最大SPL:137dB(PAD作動時147dB) ▪出力インピーダンス:150Ω ▪外形寸法:70(φ)×203(H)mm ▪重量:900g

製品情報

WARM AUDIO WA-47F

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