VICOUSTIC Trial Pack レビュー:部屋の音響を整える吸音/拡散パネルを2枚セットにした3種のパッケージ

VICOUSTIC Trial Pack レビュー:部屋の音響を整える吸音/拡散パネルを2枚セットにした3種のパッケージ

 VICOUSTICは、防音ブースや音響調整パネルのメーカーで、その特徴は性能もさることながらスタイリッシュなデザイン。しかし、欲しいと思ってもラインナップにいろいろな種類があり、どれを買ったらいいのか迷ってしまいますよね。そんな同社から音響調整パネル製品のWavewood Ultra Lite、Multifuser DC3、Cinema Round Premiumの3製品を、それぞれ2枚セットにしたトライアル・パックが発売されました。今回はこの3製品をお借りして、その役割や効果の違い、また僕なりの音響調整手法を解説していきます。

吸音パネルのWavewood Ultra Liteは中低域の吸音性能が特徴

Wavewood Ultra Lite(マット・ホワイト。マット・ブラックもラインナップ)

Wavewood Ultra Lite(マット・ホワイト。マット・ブラックもラインナップ)

 まずはWavewood Ultra Liteから見ていきましょう。これは同社の主力製品とのこと。中低域の吸音性能が特徴で、実際に試してみたところ、一般的な部屋で問題になりがちな、“部屋鳴り”を効果的に抑えると同時に、音楽に理想的な自然な響きを実現してくれました。

Wavewood Ultra Liteの吸音特性グラフ。500〜600Hzの吸音率が最も高くなっている(メーカーWebサイトより)

Wavewood Ultra Liteの吸音特性グラフ。500〜600Hzの吸音率が最も高くなっている(メーカーWebサイトより)

 一般的に部屋の中で最も音がたまる(響きが悪くなる)場所はどこだと思いますか? 答えは“部屋の角”です。スピーカーで音を流して、いつものリスニング・ポイントから部屋の角の方へ移動してみましょう。特に中低域のモワンとした感触が増えてくるのではないでしょうか。僕は部屋の音響調整で最も大事なポイントはこの“角”だと考えています。部屋の角の響きが悪いと、いくら壁に吸音材を貼っても効果が望めないのですが、Wavewood Ultra Liteは、そんな角の対処に最適な製品です。部屋の角に設置しやすいよう、裏側には角度が付いています。

Wavewood Ultra Liteの裏側には傾斜が付いている

Wavewood Ultra Liteの裏側には傾斜が付いている

 次の写真のように壁に合わせて斜めに設置してみると、部屋の角のモワン感が減少し、特に中低域の響きがスッキリしました。

Wavewood Ultra Liteを筆者のプライベート・スタジオの角へ仮置きした例

Wavewood Ultra Liteを筆者のプライベート・スタジオの角へ仮置きした例

 一般的なウレタンやスポンジ系吸音材では、吸音のメインとなる帯域が高いため、モワンとした中低域には効果が低いという印象ですが、Wavewood Ultra Liteは独自設計により、比較的低い帯域の響きに対しても効果が高く設定されているそうです。もちろん、壁に設置することでも優れた吸音効果は得られますが、導入したら真っ先に試してほしいのが、“角に設置”です。

拡散パネルのMultifuser DC3

Multifuser DC3(ホワイト。ブラックもラインナップ)

Multifuser DC3(ホワイト。ブラックもラインナップ)

 Multifuser DC3は拡散/吸音パネル。VICOUSTIC製品の中でも特にデザイン性が高く、“欲しい”と思わせてくれますが、拡散パネルになじみがない方もいるかと思います。簡単に説明すると、音を吸うのではなく、あえて“散らす”ことで、周波数帯の偏りのない響きを実現するための製品です。

 実際にMultifuser DC3を部屋に置いてみると、音が明るくクッキリ響く感じを受けました。また低域も締まった音になります。これは何が起きているかというと、音を低域から高域まで、まんべんなく拡散(乱反射)させることで、いわゆる“音が回る”現象を抑えているのです。同社Webサイトでは“中高域で効果を発揮”とありますが、併載されている拡散特性グラフでは100Hzでも性能が維持されており、実際に試した印象も同様でした。吸音材は、音を何度も反射(=乱反射)させることでエネルギーを減衰させますが、反射が可能な帯域は材質の質量に依存します。平たく言うと重いものほど低域に効くのですが、一般的な吸音材は軽いので低域は吸音材を素通りして壁で反射してしまいます。そして壁は平坦で減衰の度合いが少ないので、低域は長時間部屋の中を回り続けることに。これがいわゆる音が回る現象です。

 Multifuser DC3は、この低域にも乱反射を促し、特に狭い部屋で起こりがちな低域の音が回る現象を抑えてくれます。設置場所で効果を発揮するのが天井です。作業位置の真上などにまず設置してみるのがオススメ。スピーカーの背後やスピーカーと自身の間の横の壁でも効果的です。

フラットな吸音特性のCinema Round Premium

Cinema Round Premium(ナチュラル・ホワイト。ブラックもラインナップ)

Cinema Round Premium(ナチュラル・ホワイト。ブラックもラインナップ)

 最後に試すのが、Cinema Round Premium。こちらは特に吸音を重視した製品です。部屋に単に置いただけでも、響きが落ち着いたものになります。吸音材は、一般的に響きがなくなるので音が地味になりがちですが、このCinema Round Premiumは非常に柔らかく、上品に響きを減衰させてくれる印象を受けました。特にハイハットをはじめとしたドラムの定位が良くなり、音の輪郭がハッキリしてきます。

 これを実現しているのが、300Hzより上の非常にフラットな吸音特性です。VICOUSTICのWebサイトに掲出されている音響性能のグラフからも、中低域から高域まで、偏りのない吸音特性が見て取れます。

Cinema Round Premiumの吸音特性グラフ。300Hzより上の吸音率が、多少の上下はあるものの、ほぼ一定となっている(メーカーWebサイトより)

Cinema Round Premiumの吸音特性グラフ。300Hzより上の吸音率が、多少の上下はあるものの、ほぼ一定となっている(メーカーWebサイトより)

 そんなCinema Round Premiumのお勧めの設置場所は壁。それもリスニング・ポイントの真横、つまり自分の耳の延長線上にまずは設置してみましょう。そこから少しずつ動かして、最適なポイントを探すことで、良い響きにスピーディにたどり着けます。

 各パネルは、組み合わせることで、さらに部屋の響きを良くできます。Wavewood Ultra Liteによる部屋鳴り抑制や中低域のスッキリ感、Multifuser DC3の拡散効果による締まった低域、Cinema Round Premiumによる音の輪郭向上など、それぞれ違う効果を組み合わせて、皆さんの部屋を理想的な音楽スタジオにしてみましょう!

 

かごめP
【Profile】レコーディング・スタジオで働くかたわら、2009年にボカロPとして活動を開始。現在、ボカロPとしての活動以外にも、さまざまなアーティストのミックス/エンジニアリングを手掛けている。

 

VICOUSTIC Trial Pack

Wavewood Ultra Lite:29,700円/Multifuser DC3:37,400円/Cinema Round Premium:29,700円

VICOUSTIC Trial Pack

SPECIFICATIONS
Wavewood Ultra Lite Trial Pack
▪数量:2枚 ▪色:マット・ホワイト/マット・ブラックから選択可 ▪素材:ウッド(塗装MDF)、フォ−ム(M1) ▪外形寸法:595(W)×595(H)×45(D)mm

Multifuser DC3 Trial Pack
▪数量:2枚 ▪色:ホワイト/ブラックから選択可 ▪素材:ポリスチレン ▪外形寸法:595(W)×595(H)×148(D)mm

Cinema Round Premium Trial Pack
▪数量:2枚 ▪色:ナチュラル・ホワイト/ブラックから選択可 ▪素材:ポリウレタン・フォーム、ファブリック ▪外形寸法:595(W)×595(H)×75(D)mm

製品情報

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