UVI Synth Anthology 4 レビュー:古今東西のハードウェア・シンセ200機種のサウンドを搭載したソフト音源

UVI Synth Anthology 4 レビュー:古今東西のハードウェア・シンセ200機種のサウンドを搭載したソフト音源

 UVI Synth Anthology 4。それは最も新しい、ハードウェア・シンセサイザー・サウンドの宝物庫。UVIという、フランスはパリのソフトウェア・メーカーが最初に手掛けたのが初代Synth Anthologyであり、2023年8月30日に発表となったのが、このSynth Anthology 4です。膨大な数のハードウェア・シンセサイザー音色を搭載したソフト音源ですが、今回は、その広がり続ける宝物庫と、増え続ける宝の数々の一端を覗いてみたいと思います。

アナログからデジタルまで網羅 全モデルの操作を同一のUIで統一

 Synth Anthologyシリーズは、初代より“ハードウェア・シンセのコレクション”音源として、アナログ/デジタルを問わず、ビンテージからモダンまで20年もの歳月をかけて音色を拡張し続けてきました。その結果、前バージョンで132だったモデル数はついに200に到達し、総プリセット数も4,000を超えています。新規収録モデルはASHUN SOUND MACHINES HydrasynthやBALORAN The Riverなど多種多様です(詳細はUVIのWebサイトをご参照ください)。

 そもそも、ハードウェア・シンセをマルチサンプリングし、デジタル・ライブラリー化する上でのメリットとは、一体なんなのでしょうか? ハードウェアには“手間”があり、“邪魔”があり、それでも何より“魔法”があることは、皆さんご存じかと思います。考えるに、“各社それぞれのユーザー・インターフェース(以下UI)を、UVI独自のUIに統一し、パラメーターをコントロールできること”にSynth Anthology 4のメリットはあると思われます。“魔法”の部分にフォーカスすれば、これはある種“冒涜的なもの”と捉える方もいらっしゃるかもしれません。シンセ・メーカーにはそれぞれの歴史と思想、希望、意思があって各パラメーターを命名、配置しているのだ、と。しかし、こと“良い音、良い音楽を作りたい”というシンプルな願いを持った1プレイヤーの視点で見ると、非常に合理的で整ったUIが、Synth Anthology 4には存在しているのです。何より、こういったメーカーの勇気ある決断が、この“宝物庫”を驚くべき価格で提供できる理由にもなっている、とも思えるのです。

デュアル・レイヤーを基本とした音作り 8つの近似音色を提案してくれる機能も搭載

 では、その“合理的で整ったUI”について、もう少し詳しく見てみましょう。まず、メイン画面は完全デュアル・レイヤー化が施されており、メイン画像の画面を見てわかる通り、2つの音源が左右に並び、両者をレイヤーとして音色を重ねることはもちろん、AB比較やシームレスなチェンジングが可能です。前バージョンまでのメイン+サブレイヤーという構成とは、サウンド・メイクの幅が根本的に変わっています。そして、この統一されたUIは、各シンセ・モデルやプリセットを正しく並べて比較することが非常に容易であり、プレイヤーがイメージする音への到達速度を上げることができます。

 また、メイン画面下部に集約されている、Tone(明るさ)、Phase(位相)、Crush(ひずみに相当)、Cloud(空間コントロール)、Feedback(エフェクティブなサステイン)という5つのノブは非常にユーザー・フレンドリーであり、少し過激で、効果を感じやすく設計されています。

メイン画面の下部に用意された5つの音色加工用ノブ(赤枠)。左からTone、Phase、Crush、Cloud、Feedbackと並んでおり、ノブを回すだけで簡単に分かりやすい音色変化を得ることができる

メイン画面の下部に用意された5つの音色加工用ノブ(赤枠)。左からTone、Phase、Crush、Cloud、Feedbackと並んでおり、ノブを回すだけで簡単に分かりやすい音色変化を得ることができる

 当然、集約されたノブだけではなく、もっと細かい調整はレイヤーごとに可能であり、それらはすべてシンプルに、視認性高く配置されています。

各レイヤーのエディット用画面。エンベロープ・ジェネレーターやフィルター、2系統のLFOとマルチステップ・モジュレーターなどが用意されている。右端のFXをクリックするとエフェクト画面へ遷移する

各レイヤーのエディット用画面。エンベロープ・ジェネレーターやフィルター、2系統のLFOとマルチステップ・モジュレーターなどが用意されている。右端のFXをクリックするとエフェクト画面へ遷移する

 次に幾つかプリセットを試してみました。基本的にはアナログライクなサウンドが多く、明るさを含んだ音色に独特の存在感があります。シーケンスやアルペジオ・パターンも豊富なためか、“ここから曲を作りはじめられる”というゼロイチベースの作曲脳に刺激を与えてくれるような印象を受けました。この辺りの感覚は、ハードウェアの“魔法”に限りなく近いものを感じました。

 また、このプリセットを使って音を追求、探索する、という手法において、本バージョンにはプロクシミティ・エクスプローラーという非常に便利な新機能が搭載されています。これは、現在シンセ・レイヤー内に置かれている音色と近いものを、ライブラリーの中から8つ提案してくれる機能であり、メインUIのレイヤー部下部のカラフルなドットを選択することで切り替え/更新することができます。

赤枠内のボタンがプロクシミティ・エクスプローラー。左端がプリセットの基本音色で、その右の8個が提案された音色。色が基本音色に近いほど近い音色になる。右端は提案音色を差し替えるボタン

赤枠内のボタンがプロクシミティ・エクスプローラー。左端がプリセットの基本音色で、その右の8個が提案された音色。色が基本音色に近いほど近い音色になる。右端は提案音色を差し替えるボタン

 昨今のAI学習やマシン・ラーニングなどの進化には目覚ましいものがありますが、ついに“宝物庫が必要な宝を選んでくれる時代”です。訳がわかりません(良い意味で)。そんな“最も新しい、ハードウェア・シンセサイザー・サウンド群の宝物庫”、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。

 

毛蟹
【Profile】LIVE LAB.所属の作曲/編曲/作詞家。ReoNaなどさまざまなアーティストへ楽曲提供を行うほか、スマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』のCMソングやBGMにも参加する。

 

 

 

UVI Synth Anthology 4

149米ドル

UVI Synth Anthology 4

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14〜13(64ビット)
▪Windows:Windows 10〜11(64ビット)
▪共通:UVI Workstation 3.1.11以降、またはFalcon 2.8.5以降に対応、iLokアカウント、インターネット接続環境、4GB RAM(大容量のUVIサウンドバンクは8GB以上を強く推奨)、21GBの空きディスク容量、7,200回転仕様のハード・ディスク・ドライブまたはソリッド・ステート・ドライブ推奨
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST、VST3、スタンドアローン

製品情報

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