u-he Filterscape 1.5 レビュー:モーフィングするEQカーブで音作りできるプラグイン3種

u-he Filterscape 1.5 レビュー:モーフィングするEQカーブで音作りできるプラグイン3種のバンドル製品

 u-heから、クリエイティブなフィルタープラグインのバンドルFilterscape 1.5がリリースされました。Filterscape FX、Filterscape Q6、Filterscape VAという3種類がパックされているという構成で、Mac/Windows上で動作し、AAX/AU/VST2/VST3/CLAPに対応。2004年のリリースから久しぶりの更新ということで、インターフェースやサウンド面でのアップデートが施されています。早速、レビューしていきたいと思います!

最大8種類のEQカーブをAUTO MODEやモジュレーターでモーフィング

 Filterscape 1.5の軸となっているのはモジュレーションを駆使して複数のフィルターをウネウネと動かす機能。その柔軟性やSNAPSHOTと呼ばれる機能によって、ほかとは一線を画す、まさに変態的かつクリエイティブなプラグインとなっています。まず、3種類の各プラグインについて簡単にまとめてみましょう。

Filterscape FX:4バンドEQと2つのマルチモードフィルターを備えたフィルタープラグイン。各パラメーターをSNAPSHOT機能、エンベロープフォロワー、LFO、モジュレーションシーケンサーでコントロールできる、というウネウネし放題のエフェクト。

Filterscape FX。赤枠がSNAPSHOT。中央の数字部分をドラッグして、各数字に設定したEQをモーフィング可能。黄枠のAUTO MODEではループ範囲やスピードを設定して自動でモーフィングさせることもできる。SNAPSHOT MOD(緑)ではLFOなどのモジュレーターをアサイン可能。水色枠は2基のマルチモードフィルター。そのほか、2基のLFO、2基の16ステップシーケンサー、4基のエンベロープフォロワー、ディレイなどを備える。画面上部左の紫枠のRND(ランダマイズ)ボタンをクリックすると、左下のROUTING(オレンジ枠)も含めてパラメーターがランダムに設定される。RNDボタンの下のスライダーは、ランダマイズの幅を設定するためのもの

Filterscape FX。赤枠がSNAPSHOT。中央の数字部分をドラッグして、各数字に設定したEQをモーフィング可能。黄枠のAUTO MODEではループ範囲やスピードを設定して自動でモーフィングさせることもできる。SNAPSHOT MOD(緑)ではLFOなどのモジュレーターをアサイン可能。水色枠は2基のマルチモードフィルター。そのほか、2基のLFO、2基の16ステップシーケンサー、4基のエンベロープフォロワー、ディレイなどを備える。画面上部左の紫枠のRND(ランダマイズ)ボタンをクリックすると、左下のROUTING(オレンジ枠)も含めてパラメーターがランダムに設定される。RNDボタンの下のスライダーは、ランダマイズの幅を設定するためのもの

Filterscape Q6:6バンドEQを備え、パラメーターをSNAPSHOT機能、4つのエンベロープフォロワーによってコントロールできる、例えるなら、ダイナミックEQのような使い方が想定できるプラグイン。

Filterscape VA:簡単に言えば、Filterscape FXにオシレーターを加えたシンセ(モジュレーターの構成は若干違います)。ウェーブテーブル搭載で、キモとなっている4バンドEQやSNAPSHOTによって独自のサウンドが作り出せます。

 では、Filterscape FXから見ていきます。柔らかめのシンセパッドに、プリセットを選んでテストしてみたところ、パッドがフィルターによってウネウネとモジュレーションされたユニークなサウンドになりました。画面を見ると上部左側のSNAPSHOTの動きに合わせて、4バンドEQのグラフが大胆に変化。さらに画面下部のフィルターもLFOなどに合わせて動いているのがわかります。

 というわけで、プリセット表示部分を右クリックして“init”を選び、いったん初期化。SNAPSHOTとEQのみにフォーカスしていじってみます。一般的なEQのようにグラフ上の番号の付いたポイントをドラッグして音作りが可能なのはもちろん、右側の各バンドのツマミで微調整も行え、加えてそれぞれの値をLFOなどでモジュレーションもできるようです。

 これらで設定していくのもよいのですが、画面左上で“私をいじってください”と言わんばかりの存在感を放つ円形の物体、SNAPSHOTが気になります。これはFilterscapeを象徴する機能。デフォルトでは1が選択された状態。2をクリックすると新たなEQカーブを設定でき、数字は8まで用意されています。早速、EQカーブを設定してSNAPSHOT中央の値をドラッグすると、1のEQカーブと2のEQカーブがモーフィングしました。この仕組みで超複雑なモーフィングも簡単にできてしまいます。3や4にもカーブを設定してみましょう。

 ここで紹介したいのがVer.1.5で追加された15個のボーカルフォルマント。

EQのグラフ上で右クリック(Mac:control+クリック)すると表示されるメニューのPreset Formantsには、15種類のボーカルフォルマントが用意されており、子供、女性、男性の母音別でEQのカーブを選ぶことができる。また、その下には“LS(ローシェルフ)-Peak(ピーク)-Peak-HS(ハイシェルフ)”といった各バンドのEQのモードを設定する5種類のプリセットが並んでいる

EQのグラフ上で右クリック(Mac:control+クリック)すると表示されるメニューのPreset Formantsには、15種類のボーカルフォルマントが用意されており、子供、女性、男性の母音別でEQのカーブを選ぶことができる。また、その下には“LS(ローシェルフ)-Peak(ピーク)-Peak-HS(ハイシェルフ)”といった各バンドのEQのモードを設定する5種類のプリセットが並んでいる

 EQのグラフ上で右クリック(Mac:control+クリック)すると、いろいろな声の特徴を再現したEQカーブがプリセットされています。また各バンドのEQモードを一括で設定するEQ MODE機能も便利。例えば、4バンドをすべてピークに設定する4 Peaksといったモードがあるのですが、1をローパス、2と3をバンドパス、4をハイパスにするLP-BP-BP-HPにすると、効果がわかりやすいでしょう。あとはSNAPSHOT内をドラッグしてモーフィングさせれば、あっという間にスペイシーで変態的なパッドサウンドの出来上がり!

 さらに、これを自動で動かしたいですよね。一番お手軽なのはAUTO MODEです。矢印マークで再生方法、その下でSNAPSHOTのループ範囲やスピードを調整できます。

 もっと複雑な動きを付けたいときはSNAPSHOT MODの欄でLFOなどのモジュレーターをアサイン可能。左の小さな矢印をドラッグして動きの量を調整します。面白いのはSNAPSHOTでモーフィングしつつ、特定のバンドを別のLFOなどでさらに独立してモジュレーションできること。これが個人的にツボでした! ゆったりと全体をモーフィングしながら特定バンドにだけ矩形波LFOで高速にモジュレーションを行うと、楽しい効果を得られます。

 さらに、ここへ前述したフィルターも2基加えることができます。Ver.1.5で追加されたアナログモデリングによるフィルターは、DRIVEを上げると太く気持ちいいサウンド。左からCUTOFF、RESONANCEとお約束のツマミが並び、その右でフィルターモードを詳細に設定できます。ユニークなのが円形のインターフェース。時計の針のような部分の角度でLP、HPなどを選び、ドットを内側から外側にドラッグすることでフィルターの効き具合を調整します。ドットが中央にあると音は変化しません。

フィルター部にある円形のパラメーターでは、時計の針のような部分をドラッグしてフィルタータイプを選択し、その針部分に見える黒丸をドラッグして効きを調節する

フィルター部にある円形のパラメーターでは、時計の針のような部分をドラッグしてフィルタータイプを選択し、その針部分に見える黒丸をドラッグして効きを調節する

 これらのフィルターも、もちろんモジュレーションし放題。音源をシンセアルペジオやパーカッションループに変えても非常に面白いサウンドになり、曲のフックになるループサウンドが簡単に作れます。

 なお、“パラメーターを1個1個いじってたらキリがないよ!”という人のために、ランダマイズボタンが画面上部に用意されています。これはさまざまなインスピレーションが得られるオススメの機能。スライダーを上げるほど過激なランダマイズがされるようです。内蔵のディレイや画面左下に表示されたROUTINGの変化も加わり、ダブステップなどのベースサウンドで遊ぶとかなり面白い! この状態から引き算して整えていくのも良いと感じました。

シンプルで使いやすいQ6

 “正直、EQとSNAPSHOTが便利だからこれだけ欲しい人もいそう。ついでにバンドも増やしたい……”、そう開発者が思ったのかは定かではありませんが、Filterscape Q6はまさにそんなニーズに応えるプラグインです。

Filterscape Q6。6バンドEQとSNAPSHOTのほか、4基のエンベロープフォロワーを装備。ランダマイズの機能などは用意されているが、至ってシンプルなユーザーインターフェースとなっている

Filterscape Q6。6バンドEQとSNAPSHOTのほか、4基のエンベロープフォロワーを装備。ランダマイズの機能などは用意されているが、至ってシンプルなユーザーインターフェースとなっている

 6バンドEQとSNAPSHOTだけのシンプルなインターフェースでLFOなどはなく、オーディオ入力を検知してモジュレーションをするエンベロープフォロワーが4つ用意されており、プリセットもディエッサーがあるなど比較的ユーティリティ的な印象。しかし筆者は、Au5が作るような複雑にモジュレーションするベースの音にもってこいだと感じました。SNAPSHOTに大胆なEQカーブを設定し、Snapshot Morph(SNAPSHOTモーフィングの方向や速さ)の値をDAWのオートメーションで動かしながら音作りができるのです。一般的にこの手のサウンドはオートメーションレーンやモジュレーターを幾つも消費したり、後から手直しが面倒というデメリットもあるのですが、Filterscape Q6はここがめちゃくちゃスマートに行えます。SNAPSHOTで各EQカーブを明確に決められるのもサウンドの着地点をはっきりさせられて非常に使いやすく感じました。

 Snapshot Morphの値は、筆者が使うBITWIG Bitwig StudioのMultistage Envelope Generatorでもコントロールできるので、ほかのシンセやエフェクトのパラメーターと同期させれば超強力なベース用シンセが構築できます!

シンセとEQモーフィングを融合できるVA

 最後に紹介するのはFilterscape VA。先述した通り、Filterscapeの基本的なエフェクトを備えたシンセです。

Filterscape FXとシンセが合体したプラグイン。シンセ部分は、ウェーブテーブル方式のオシレーターが2基とサブオシレーター、マルチモードフィルター、3基のLFO、3基のエンベロープジェネレーター、アルペジエイターなどを搭載。WAVE(赤枠)でウェーブテーブルを選択し、WARP(黄枠)を回すと音色が変化する。上の画面は本文中で解説されているクラリネット的なサウンドを作った状態

Filterscape FXとシンセが合体したプラグイン。シンセ部分は、ウェーブテーブル方式のオシレーターが2基とサブオシレーター、マルチモードフィルター、3基のLFO、3基のエンベロープジェネレーター、アルペジエイターなどを搭載。WAVE(赤枠)でウェーブテーブルを選択し、WARP(黄枠)を回すと音色が変化する。上の画面は本文中で解説されているクラリネット的なサウンドを作った状態

 オシレーターはウェーブテーブル方式ですが、xfer records SERUMのような現代的な過激サウンドではなく、クラシックなシンセサウンド。しかし、u-heならではの出音の良さがあり、アナログな質感のフィルターに4バンドEQとSNAPSHOTが加わることで、ほかでは得難いサウンドを奏でることができます。

 例えば、WAVE欄でウェーブテーブルを選び、WARPツマミを回すとサウンドが変化します。これらはSNAPSHOTのモジュレーションと同期可能です。Sine Stacksというウェーブテーブルを選び、この仕組みを利用して4バンドEQのモーフィングで生楽器的な音色変化ができないか模索すると、クラリネットのようなサウンドができました。これがアナログシンセとも生楽器とも言えない、太くて何とも味のあるサウンドなのです! なんとなくいじっただけですが、一般的なフィルターモジュレーションだけでは作れません。ここは掘り下げ甲斐があると感じました。ほかにもAMPセクションのVOICE MODE欄でarpeggiatorを選べば、アルペジオとモジュレーションを同期させたシーケンスが作れるなど基本も押さえてありますし、RNDボタンで過激なベースやサウンドエフェクトも飛び出てきます。正直、Filterscape FXも含めてこれらで音色ガチャをやるのに結構ハマりました(笑)。

 インターフェースが更新され、サウンド面でも細かなアップデートが施されたFilterscape 1.5。サウンドデザインやアレンジのスパイスを探している方には即戦力になりますし、サウンドギークにとっても掘り下げ甲斐のあるとっても楽しいプラグインです。ぜひチェックしてみてください!

 

LOBOTIX
【Profile】エレクトロニックミュージック・アーティスト、VTuber。ベースミュージックなどを中心にプロデュース。YouTubeチャンネル、LOBOTIX CHANNELでは制作チュートリアルを多数アップ。

 

 

 

u-he Filterscape 1.5

18,700円

u-he Filterscape 1.5

REQUIREMENTS
▪Mac:Mac OS X 10.10以上(intel Nehalem/Apple M1以上)
▪Windows:Windows 7以上(intel Nehalem/AMD Bulldozer以上)
▪Linux:glibc version 2.28以上(intel Nehalem/AMD Bulldozer以上)
▪共通項目:1GB RAM以上推奨、50MB以上の空きディスク容量
▪対応フォーマット:AAX、AU、CLAP、VST2、VST3(Windows VST2/VST3:32/64ビット、Mac:すべて64ビット)

製品情報

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