Petit Brabancon『a humble border』 ~ yukihiro作曲によるインダストリアルなトラックの誕生秘話

yukihiro

ミニストリーの話題でみんなで盛り上がったのが、この曲の出発点だった

京(DIR EN GREY/vo)、yukihiro(L'Arc-en-Ciel/ds)、ミヤ(MUCC/g)、antz(Tokyo Shoegazer/g)、高松浩史(The Novembers/b)からなる5人組バンド=Petit Brabanconが、新曲『a humble border』を配信リリースした。作詞は京、作曲はyukihiroが担当し、突進型のビートとディストーション・ギターの両壁が脳天を揺さぶる攻撃的トラック。京のボーカルも含めた圧倒的な中域の中に、アシッド・シーケンスやストリングス・シンセが丁寧に配置されたミックスも聴きどころだ。ACID ANDROIDでの活動でも多忙な日々を過ごすyukihiroに、本曲の制作過程を聞く。

久しぶりにギター・リフから曲を作った

──「a humble border」のデモ作りはいつごろから着手したのですか?

yukihiro ツアー(Petit Brabancon Tour 2023「INDENTED BITE MARK」)が終わってからだったので、8月ぐらいです。何となく作ってみたらできたという感じです。

──Petit Brabanconはメンバーでデモを持ち寄って、話し合ってレコーディング曲を決める流れでしたよね。

yukihiro 今回もそうでした。制作中の曲の中から候補を選んで、最終的に僕の曲になりました。

──リアルな場に皆で集まったのですか?

yukihiro リアルで集まるのはスケジュールの関係でなかなか難しいので、僕らはリモートで話し合うことが多いです。そこでスタッフも交えて決めていきます。

──yukihiroさんは7月~9月にACID ANDROIDとして配信リリース4曲もありましたよね。yukihiroさんの中で制作意欲がかなり高まっている状態でしたか?

yukihiro Petit Brabanconの曲を作ろうと思ってました。ギターを弾いていたらリフが出てきて、このリフを形にしようと作っていたらできました。

──「a humble border」はギター・リフから生まれたのですね。yukihiroさんとしては珍しい作り方ではありませんでしたか?

yukihiro 初期のACID ANDROIDはギター・リフから作る曲もあったんですが、確かに最近はあまり無かったですね。リフから作るとそれをメインにして音の組み方を考えていくので、やっぱり出来上がるものも変わってきますね。

──イントロからインダストリアル感がありますね。

yukihiro そういう曲を作りたかったんです。みんなでミニストリーのコンパクト・エフェクター(Ministry Mind)を買ったんですよ。ミニストリーのディストーションが売っているのをSNSか何かで見て、以前のギター・レコーディングのときにミヤ君に“こんなのあるんだよ”って話してたら、ミヤ君がその場で即決で(笑)。僕も買ったんですけど、そうしたら、antzが“僕も”となって。そのときに“やっぱりインダストリアルいいよね”という話になって。それがこの曲ができたきっかけです。僕はその後ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)のペダル(FENDER Shields Blender)も出たので購入しました。

Fender Custom Shop Jazzmaster

デモのリフ制作などで活用したFender Custom Shop Jazzmaster

Ministry Mind

「インダストリアルな曲を作りたい」という思いのきっかけとなったミニストリーのペダル、Ministry Mind

Prism Sound Dream ADA-128で作業がやりやすくなった

──yukihiroさんが最初に作ったデモの完成度はどのくらいでしたか?

yukihiro ドラムも含めて打ち込みで、ギターだけ弾きました。

──レコーディングを開始したのは9月ごろから?

yukihiro 9月の中旬くらいにはプリプロを始めていたと思います。その段階では候補が2曲あって、まだ絞り切れないって感じだったんです。時間があったので、1月のライブで配布するCDに入る曲と合わせて、3曲分のドラムを録りました。

──Petit Brabanconはメンバーそれぞれが分かれてレコーディングしていく方式でしたよね。ドラムと高松さんのベースは今回もyukihiroさんのプライベート・スタジオで?

yukihiro そうです。ドラムとベースは一緒に録るわけではなくて、別々にレコーディングしています。ドラムのマイキングは今回もエンジニアの原(裕之)さんにお願いしています。ベースはラインで録音して、ギター録りのときにリアンプしています。

──ドラムとベースの録音期間はどのくらいでしたか?

yukihiro 2週間ぐらいだったと思います。ベース録りは今回リリースされる曲が「a humble border」に決定した後だったので、高松君は「a humble border」の1曲だけレコーディングしました。

──yukihiroさんのスタジオでは、オーディオI/OをPrism Sound Dream ADA-128へとリプレイスしたそうですが、今回のドラム・レコーディングで使用しましたか?

yukihiro 使っています。僕はプロのエンジニアのような耳は持っていないので感覚でしか言えないのですが、作業がやりやすくなったと感じています。原さんも“良い方向に変わった”と言っていました。Avid Pro Tools|MTRX IIも導入候補だったんですが、マルチチャンネルよりもステレオ環境を強化していきたいので、Prism Soundの方が僕に向いているなと思ったんです。

ミヤ君の7弦ギターに合わせて曲のキーを下げた

──ギター録音に関しては、ミヤさんとantzさんが一緒に行うわけですよね。yukihiroさんもその場に立ち会ったのですか?

yukihiro 立ち会いました。僕はギターがそこまで弾けないので、デモで入れたギターに関しては、フレーズごとに切り貼りして作っているんです。それを実際にギタリストが通して弾いたらどういう感じになるのか分からなかったので、現場で2人と相談しながら詰めていきました。

──2人からは何か意見などはありましたか?

yukihiro 僕の曲はパワー・コードの繰り返しが多いので、antzは慣れているんですけど、ミヤ君は“疲れますね”と言っていました(笑)。それから、同じように聴こえるパターンでも少しずつ変化しているので、繰り返しが多くなってくると、“途中で何回目だか分からなくなります……”って言ってましたね(笑)。あとこれはプリプロの段階の話ですが、僕のデモのギター・リフはもともと6弦で作っていたので、それをミヤ君の7弦用に全体のキーを下げています。

──一方、京さんは独自でボーカル録りを行うのですか?

yukihiro そうです。今回はかなり多くのバージョンを録ってくれて、最終的な形になったときは、かっこいい曲になったなと思いました。

──そのバリエーションのトラックがすべて送られてくるのですか? それともある程度バウンスされた状態で?

yukihiro 基本的には京君が録ったセッション・データが制作スタッフに送られてきて、そのスタッフが京君と確認しながらテイクとトラックを整理した上で僕に送られてきます。

──ドラム→ベース→ギター→ボーカルと録られたものがyukihiroさんのところに戻ってきて、そこからシンセ・ダビングなどを行うのですか?

yukihiro それぞれの作業は独立しているので、順番に録音しているわけではなく、同時進行です。シンセもデモのときに入れたものが多いです。

──イントロで聴けるアシッドなフレーズも早い段階で入っていた?

yukihiro デモの段階から入っていました。Roland TB-03を使っています。途中で出てくるパッド系のメロディ・フレーズはWaldorf Mです。

──サビのメロトロン風のサウンドは?

yukihiro Mellotron M4000D Rackで、対比として置いているフレーズがSEQUENTIAL Prophet-6、もう一つ鳴っているシーケンスがDOEPFER Dark Enegyです。イントロのシーケンスのメロディ・フレーズはMoog Mother-32です。

──Moogと言えば、Moog Oneもお持ちでしたよね。

yukihiro なかなか登場する機会が無くて、まだ一度もレコーディングで使ったことがないんです。ステレオ・アウト推奨のシンセだからですかね。同じ理由でWaldorf Quantumもまだ一度もレコーディングで使っていないです。Moog Oneはもうちょっと向き合えば使えそうな気がしますが、Quantumは今のところ全然コントロールできない(笑)。

──両機とも独自の美学があるシンセですから、音作りに慣れる時間さえあればという状況でしょうか。

yukihiro 今はちょっとその時間が無くて、目指す音を素早く出せるシンセの方に手が伸びてしまいますね。

──アシッド・シンセ、メロトロン、金属音という組み合わせは、もはやyukihiroさんのシグネチャー・サウンドのようにも感じますが、そうした意識はありますか?

yukihiro 好きな音があって、思い付くフレーズもその音色をイメージしてるっていうのはあると思います。

Waldorf M

同じウェーブテーブル内蔵シンセでもQuantumはまだ習得までに時間がかかりそうだが、一方で「これは使いやすいです。エフェクトが付いていないのがいい」と語るWaldorf M

MELLOTRON M4000D Rack

「メロトロンは使い過ぎているかもしれないので飽きられないか心配です(笑)」と語るMellotron M4000D Rack

自分の曲は“サビ”を明示しないでメンバーに渡す

──ミックスは原裕之さんが行ったのですか?

yukihiro そうです。最終的なチェックは原さんとメンバーで行うんですが、その前に途中経過が送られてくるので、みんなでやり取りを2~3回してからスタジオに集まります。

──ギターの分厚い壁と、サビの高揚感によってテンションの上がる楽曲に仕上がりましたね。

yukihiro 今、サビと言ってもらっている部分のメロディはミヤ君が考えてくれたものだと思います。僕は自分の曲のセッション・データをメンバーに渡すときに、構成上、A、B、C……とパートの区別が分かるマーカーを付けているだけなんです。ボーカル・パートは京くんにお任せしています。

──極端な話、ここが盛り上がりの部分だと思って作っても、京さんの判断次第では、結果的にボーカルがそこに全く入らない可能性もあるわけですか?

yukihiro そうですね。

──今回、Petit Brabanconとして新しいタイプの曲が出来上がりましたが、バンドとしてどんどん進化していきたいという意識の表れでしょうか?

yukihiro 進化するというか、変わっていくのは普通かなと思っています。それを発表して、聴いてくれた人たちが“進化した”と感じてもらえるのであれば、それはいいことだと思います。

──最後に、年明けには“Petit Brabancon EXPLODE -02-”の4公演(LINE CUBE SHIBUYA/なんばhatch)も予定されていますが、そちらに向けても一言お願いします。

yukihiro 渋谷はなかなか珍しい日程ですので、初詣ついでにぜひ。大阪はPetit Brabancon初の対バンということで、よろしければぜひ。

Photo:青木カズロー

Release

『a humble border』
Petit Brabancon
(配信リリース)

Musician:京(vo)、yukihiro(ds)、ミヤ(g)、antz(g)、高松浩史(b)
Producer:Petit Brabancon
Engineer:原裕之
Studio:プライベート、Studio Sound DALI

Live Info

・2024年1月2日 Petit Brabancon EXPLODE -02- Gushing Blood(LINE CUBE SHIBUYA)
・2024年1月3日 Petit Brabancon EXPLODE -02- Neglected Human(LINE CUBE SHIBUYA)
・2024年1月7日 Petit Brabancon EXPLODE -02- 暴獣 Guest : ROTTENGRAFFTY(なんばhatch)
・2024年1月8日 Petit Brabancon EXPLODE -02- SRBM(なんばhatch)

 

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