TIERRA AUDIO Flavours Preamps レビュー:調味料の名前を冠した7種類のアナログ・インライン・プリアンプ・シリーズ

TIERRA AUDIO Flavours Preamps レビュー:調味料の名前を冠した7種類のアナログ・インライン・プリアンプ・シリーズ

 エンジニア、ミュージシャン、デザイナー、プロデューサーらとの共同作業によって開発されたTIERRA AUDIO Flavours Preamps。スペインの首都マドリードにある工場でハンドメイド生産されているインライン・プリアンプ・シリーズです。ラインナップにはTruffle(市場予想価格:30,800円前後)、Cocoa(市場予想価格:38,500円前後)、Mint(市場予想価格:31,900円前後)、Chilli(市場予想価格:34,100円前後)、Vanilla(市場予想価格:31,900円前後)、Pepper、Salt(いずれも市場予想価格:20,350円前後)の7種類があり、これらをセットにしたBox Set(市場予想価格:198,000円前後)も用意されています。

ポケットに収まるくらいのコンパクト・サイズ

 プリアンプと言っても電源やノブがあるわけではなく、ダイナミック・マイクやリボン・マイクといったパッシブ・タイプのマイクと、マイクプリ/マイクプリ内蔵のオーディオインター・フェース間に用いる“インライン・プリアンプ”です。ボーカルや楽器のゲインをブーストするだけでなく、サウンド・カラーやテクスチャーを付加することができます。

 平均的な重量は400〜500gと軽く、外形寸法は53(W)×42(H)×128(D)mmとポケットに収まるくらいのコンパクトなサイズ感です。本体はアルミニウム製で、おしゃれなデザイン。置いておくだけでもスタジオがおしゃれに見えます。またトップ・パネルの中央には、各プリアンプがもたらす効果についての記載があるため、使い分けする際にも分かりやすいと感じました。

 本体の構造はマイク入力とマイク出力のみというシンプルさで、それぞれの端子はXLRを採用。ユニークなのは、風味や調味料にちなんだ言葉を製品名にしていることです。そして、名前とリンクするようなカラーリングが施されているのにもTIERRA AUDIOの遊び心を感じます。

最大54dBブースト可能なChilli。フロント・パネルにはマイク入力を、リア・パネルにはマイク出力(いずれもXLR)を備えている

最大54dBブースト可能なChilli。フロント・パネルにはマイク入力を、リア・パネルにはマイク出力(いずれもXLR)を備えている

 ここからは各プリアンプの音について、一つずつレビューしていきましょう。

●Truffle
 ゲインを最大50dB増幅し、高域を抑え、ゲルマニウム・ダイオードによる大胆なひずみを施します。万能タイプではなく、ここぞとばかりに強烈な印象を与えたいボーカルやベース、打楽器に最適です。とてもパンチの効いた“ひずみサウンド”が得られます。

●Cocoa
 最大42dBブーストし、温かみのある丸っこいサウンドを得られます。高域を抑え、ディエッサー効果も持っているため、子音が強くなりがちなボーカルのほか、ジャズ・ギターやガット・ギターのマイク録音時にもお薦め。明るめな音質のリボン・マイクに通すと、Cocoa効果で高域が柔らかくなり、レトロかつウォームな音を録音できるでしょう。

●Mint
 最大27dBブーストという、Flavours Preampsの中では一番小さいゲイン・ブースト力を持っています。低域を抑えつつ、高域をほのかに持ち上げるという傾向があり、トランジェントの反応も繊細で軽やか。丸みのあるマイクの音にフレッシュな明るさが欲しい場合に最適でしょう。

Chilliで懐かしいひずみ感を演出、クリーミーで柔らかいサウンドにするVanilla

●Chilli
 最大54dBの増幅が可能。エネルギッシュなサウンドになります。心地良いコンプ感を得られ、偶数倍音のハードなディストーションがさく裂。例えるならば、1970年代のオープン・リール・テープへ通したような、どこか懐かしいひずみサウンドを思い出させてくれます。

●Vanilla
 31dBブーストで、これはMintの次に小さい値。ソフト・コンプがかかったような中域の膨らみと明るさを持ち合わせ、温かみも感じます。ボーカルがとてもクリーミーで柔らかいサウンドになったので、僕の好みに合うプリアンプだと思いました。ギターやベースはもちろん、バイオリンやチェロといった弦楽器にも相性が良いでしょう。

●Pepper
 32dBの増幅が得られ、適度なコンプ感もあります。普段使っているダイナミック・マイクやリボン・マイクに色を付けることなく、素直に音圧を底上げしてくれました。ライブでよく使われるボーカル向け定番ダイナミック・マイクや、ギター・アンプのマイキングでよく使われる定番ダイナミック・マイクに用いるのがお勧め。音がパワー・アップすること間違いなしです!

●Salt
 最大32dBブーストすることができます。Flavours Preampsの中では最もニュートラルで“超”透明なサウンド。ギターのラインを奇麗に録音したいときや、ボーカルを透き通ったサウンドで録音したいときに大活躍するでしょう。

 全7種類を試して気づいたことが1点あります。Mint以外のFlavours Preampsを用いて打楽器を録音するときに、SHURE SM57やSM58といったマイクを使う場合、マイクプリ側のPADを入れてもピークを超えてしまうことがあるので注意しましょう。別途PADを用意する必要があります。

 TIERRA AUDIOは“マーケティングよりもエンジニアリングを重視する”というコンセプトを掲げており、さらには“高品質かつリーズナブルなプロ・オーディオ機器を提供する”とうたっています。今回のFlavours Preampsもまさにそうで、中心価格帯は2〜3万円前後。これなら初心者でも手の届く範囲ではないでしょうか。宅録クリエイターだけでなく、エンジニアやPAの方にまでお薦めできるプリアンプです。ぜひお試しください!

 

yasu2000
【Profile】NYのInstitute of Audio Reserch卒業後、ブルックリンBushwick Studioを経て、2005年に帰国。現在はorigami PRODUCTIONS所属アーティストのほか、あいみょんなどを手掛ける。

 

TIERRA AUDIO Flavours Preamps

オープン・プライス

(各機種の市場予想価格は文中)

TIERRA AUDIO  Flavours Preamps

SPECIFICATIONS
●Truffle
▪トランス:LUNDAHL ▪重量:460g
●Cocoa
▪トランス:CARNHILL ▪重量:530g
●Mint
▪トランス:LUNDAHL ▪重量:430g
●Chilli
▪トランス:LUNDAHL ▪重量:430g
●Vanilla
▪トランス:LUNDAHL ▪重量:410g
●Pepper
▪トランス:非搭載 ▪重量:400g
●Salt
▪トランス:非搭載 ▪重量:400g
●共通項目
▪動作:48Vファンタム電源(IEC 61938準拠) ▪外形寸法:53.9(W)×43.3(H)×127.3(D)mm

製品情報

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