SONIBLE Smart:Comp 2 レビュー:AIコンプレッサー・プラグイン最新版

SONIBLE Smart:Comp 2 レビュー:ワン・クリックでパラメーターを自動設定してくれるコンプレッサー・プラグイン

 オーストリアのハイテク集団SONIBLEから、ワン・クリックで最適なコンプ・サウンドへと導いてくれるAIコンプレッサー、Smart:Compのバージョン2が登場しました。創立9年目の同社は、エンジニアやプロデューサー、ミュージシャン、ハイテク・インキュベーターらと手を組み、DAW用のプラグインのほか、立体音響向けのハードウェアもリリースしています。そんな集団だけに、どの製品にも従来のものにはない斬新な機能が盛り込まれているのが特徴です。

豊富なプロファイルを用意

 Smart:Comp 2の売りはAI機能ですが、“驚き”ますよ。これまでもAIを使ったプラグインはありましたが、Smart:Comp 2は操作性や音質で抜きん出ています。操作はソースとなる音源のタイプ(プロファイル)を選んで学習ボタンを押し、音源を再生して分析させるだけといたって簡単。

プロファイルを選ぶプルダウン・メニューの一部。ベース、ドラム、ギター、キーボード、ミックスなど、豊富に用意されている。これらを選んで画面左上に見える緑の学習ボタンをクリックすると、AIによる分析が始まり、終わると各種パラメーターが自動設定される

プロファイルを選ぶプルダウン・メニューの一部。ベース、ドラム、ギター、キーボード、ミックスなど、豊富に用意されている。これらを選んで画面左上に見える緑の学習ボタンをクリックすると、AIによる分析が始まり、終わると各種パラメーターが自動設定される

 これで各種パラメーターが自動設定されます。プロファイルはスネアやベース、ボーカルといった個別ソースだけでなく、ドラムをまとめたミックス・バスやマスタリング用までそろっているので、狙った音へと素早く仕上げられます。

 音質は“スーパー・クリーン”。高級なマスタリング用コンプに質感は近いかも。ただしAI解析後のコンプのかかりは若干強めになっています。感覚として学習後のセッティングは、そのソースでのコンプの最大値と捉えるとよいでしょう。

 もしコンプのかかりが強いと感じたら、スレッショルドの微調整だけで十分ですし、ドライ/ウェットのバランスで整えることもできます。もちろんスレッショルドのほかにレシオ、アタック、リリースなどが装備されていますが、AIが絶妙のポイントにアサインするので、特に触れる必要はありません。

 その一方で、画面下部にあるSpectral Comp.とColor、そしてStyleの各ツマミはぜひ触れてみてください。これらは本プラグインの大きな特徴です。

音色作りの要となる3つのパラメーター。左からStyle、Spectral Comp.、Color

音色作りの要となる3つのパラメーター。左からStyle、Spectral Comp.、Color

 まずはSpectral Comp.。このツマミを右に回していくと、若干強めだったコンプ感が徐々に薄れ、気持ちよくまとまると同時にアタック感が出てきます。周波数帯域のおいしいところへは影響がなく、グッと前面に浮かび上がる感じ。マニュアルには“超高解像度マルチバンド・コンプレッサー”と書かれていますが、まさにその通り。マルチバンド・コンプを使って時間をかけてキッチリと作り込み、さらにトランジェント・シェイパーで仕上げた感じがツマミ一つで完成します。

 さらに追い込むなら、画面右端にあるFrequency rangeでSpectral Comp.のかかる周波数帯域を絞り込めます。例えばマスタリングでは、低域のバーを200Hzにセットすれば低域の力強さは残しつつも、全体に音圧感が生まれてきます。

赤枠で囲んだ部分がFrequency rangeで、“20Hz”および“20.0kHz”という表示をドラッグして上下することで周波数帯域を設定できる。なお、その右に2本あるレベル・メーターの中央に“wet”と表示されている部分で、ドライとウェットのバランスを調節できる

赤枠で囲んだ部分がFrequency rangeで、“20Hz”および“20.0kHz”という表示をドラッグして上下することで周波数帯域を設定できる。なお、その右に2本あるレベル・メーターの中央に“wet”と表示されている部分で、ドライとウェットのバランスを調節できる

 次はColor。Spectral Comp.とリンクするツマミですが、コンプ感を保ったまま、滑らかなサウンドに色付けしてくれます。反時計回りのdark方向では全体の重心が低くなり、特にクラブ・トラックに最適な低音感へと変化。時計回りのbright方向では若干の軽さを伴いながら明瞭感が際立ってきます。さらにサウンドにワイド感も生まれ、ポップスや劇伴にマッチした質感になりました。恐らくEQ的な処理と思われますが、この感じを単体のEQで調整するには、時間をかけたシビアなコントロールが必要になるでしょう。

 最後はStyle。こちらはSpectral Comp.とのひも付けはなく、純粋にコンプのキャラクターを作るツマミです。反時計回りがclean、その反対がdirtyですが、cleanは名前の通り、音色に透明な感じが増し、コンプ特有の引っかかりを感じさせないまま音圧だけが上がります。対してdirtyは全体的にパンチが出てきます。こちらはコンプ的な味付けというより、サチュレーションに近いかもしれません。

 これら3つを使ってみた感想は、難しいコンプの設定はAIに任せて、コンプ特有のカラー、例えばFET系や真空管系コンプなどの音色作りはユーザーにお任せしますよ、というのが本プラグインの姿勢かも、ということです。

フロント画面で操作が完結するUI

 StyleやColorでこれだけ音色を変更できるので、どんなソースにもマッチしますが、サイド・チェインも組めるので表現の幅はさらに広がります。コンプをかけたいトラックにSmart:Comp 2をインサートし、キーとなる音源を選択してext.sidechainをクリックすると、スレッショルドのバーが青くなり、Spectral Comp.もSpectral Duckingと名前が変わってこちらも青になります。

サイド・チェインのキーとなるトラックを入力する際は、ext.sidechainをクリックする

サイド・チェインのキーとなるトラックを入力する際は、ext.sidechainをクリックする

 サイド・チェイン入力の波形も青で表示されるので、2つの波形を見ながら細かく設定可能です。そのほか、サラウンドにも対応していますので、リバーブとの併用などアップ・ミックスで使用できるのも素晴らしいと思います。さらに、M/Sへも切り替え可能です。なお、個人的にはUIがとても気に入っています。高機能なプラグインは設定の度に二階層、三階層へのアクセスが必要になりがちですが、すべてフロント画面だけで完結するので重宝します。

 AI機能搭載のプラグインというと初心者向けとのイメージがありますが、Smart:Comp 2は別物です。プリセットの豊富な高機能コンプにAIが付いていると捉えた方がいいでしょう。コンプ入門の方から上級者まで使えますし、特に作家の方には最適なコンプです。作業中にもうコンプの設定に迷うことはなくなりますから、仕上がりが早まることでしょう。

 

當麻拓美
【Profile】360 Reality Audio専門のプロダクション・スタジオである山麓丸スタジオのチーフ・エンジニア。レコーディングやミックスのみならず、マスタリングやカッティングまで幅広く手掛けている。

 

SONIBLE Smart:Comp 2

18,348円(価格は為替レートによって変動)

SONIBLE Smart:Comp 2

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.12/10.13/10.14/10.15/11(INTEL CPU/ARM)/12(INTEL CPU/ARM)
▪Windows:Windows 10(64ビット)/11
▪共通項目:Intel Core I5以上のCPU、4GB以上のRAM、OpenGL 3.2+以上対応のGPU
▪対応フォーマット:VST、AU、AAX

製品情報

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