SLATE DIGITAL FG-X2 レビュー:コンプレッサーとリミッターから成るミックス/マスタリング用のプラグイン

SLATE DIGITAL FG-X2 レビュー:コンプレッサーとリミッターから成るミックス/マスタリング用のプラグイン

 FG-X2は、コンプレッサーとリミッターのモジュールを搭載したプラグインの最新版です。ミキシングにおけるマスター・チャンネルとマスタリングの両方で使用できるように設計されています。早速中身を見ていきましょう。

イージービューとアドバンスドビューを切り替え可能

 デフォルトの状態だと画面はイージービュー(メイン画像)になっていますが、より詳細な設定をしたい場合は上部のスイッチ(画面①)からアドバンスドビュー(画面②)に切り替えて使用することができます。左にコンプレッサー、右にリミッターのモジュールが配置され、中央にはLUFSメーターやRMSメーターなどが表示されています。

画面① 画面上部にあるイージービューとアドバンスドビューを切り替えるボタン

画面① 画面上部にあるイージービューとアドバンスドビューを切り替えるボタン

画面② アドバンスドビューの画面。左側のコンプレッサーFG Compについては、音をミッドとサイドに分けて調整できるM/S LinkとGR Widthのツマミに加え、サイド・チェイン・フィルターが追加で表示される。右側のリミッターFG Levelでは、ロー成分を調整するLo Punchおよびハイ成分を調整するDetailツマミに対する周波数設定フィルターと、Transients/Drive/Balanceの3つのツマミが追加で表示される

画面② アドバンスドビューの画面。左側のコンプレッサーFG Compについては、音をミッドとサイドに分けて調整できるM/S LinkとGR Widthのツマミに加え、サイド・チェイン・フィルターが追加で表示される。右側のリミッターFG Levelでは、ロー成分を調整するLo Punchおよびハイ成分を調整するDetailツマミに対する周波数設定フィルターと、Transients/Drive/Balanceの3つのツマミが追加で表示される

 画面左側のFG Compは、限りなくクリアな処理を目指したコンプレッサーです。イージービューでは基本的な操作ツマミが用意されていて、アドバンスドビューに切り替えると、さらにM/S LinkとGR Widthのツマミが表示されます。これらで音をミッドとサイドに分けて処理することが可能です。M/S Linkはミッド信号とサイド信号の間でリンクされるコンプレッションのパーセンテージを決定するツマミ。GR Widthは、右に回すとミッドの音がコンプレッションされてサウンドがワイドに、左に回すとサイドの音がコンプレッションされてサウンドが中心に寄っていきます。操作感が新しく、効果的な印象を受けました。

 画面右側はリミッターのFG Levelです。入力信号を分析し、サチュレーションまたはリミッティングのどちらを適用するか決めるという仕様になっています。イージービューでは、基本的にGainツマミでリダクション量を決めます。上部にはLo PunchとDetailツマミがあり、Lo Punchはリミッターへ入力される前の信号のロー成分を強調させ、Detailはハイ成分を強調させることが可能です。

 アドバンスドビューでは、Lo PunchおよびDetailに対する周波数設定フィルターと、Transients/Drive/Balanceの3つのツマミが追加で現れます。Transientsを右に回すとリミッティングに対抗するようにアタック成分が強調され、左に回すとアタック成分へのリミッターのかかりが和らぎ、音全体のひずみが抑えられます。Driveツマミは、右に回すと低域と高域への反応が強くなり、アグレッシブなリミッティングに変化するもので、Balanceツマミは、高域と低域どちらをどの程度優先的にリミッティングするかを決めるものです。

低域に独特なパンチを付加できる

 今回は制作中のデモを提出するための2ミックス作りと、ミックスが終わったリリース予定の音源のマスタリングという、2つの工程で試しました。

 まずはデモ・ミックス作りです。イージービューにして、画面上部左からPumpy Masterというプリセットを選択しました。後はFG LevelのGainでリダクション量を決めるだけという、ごく簡単な操作で仕上げることが可能です。また、画面右下からリミッティングの方向性を決めるモードを選択でき、これがFG-X2全体の傾向を決める重要な部分になるようです。モードはClear/Tight/Punchy/Loudの4つ。前者2つはバラードやタイトなバンドもの、オーケストラ系の劇伴に、後者2つはアップ・テンポのポップス、ロック、ヒップホップ、その他ビート系の楽曲に合いそうです。

 続いてマスタリングをアドバンスドビューで試します。モードはLOUDを選択しGainを上げたところ、私が普段使っているリミッターと比較して少し音像が奥に引っ込むような印象がありましたが、これはLo Punch、Detail、Driveツマミを上げることで解消しました。特にLo PunchとDriveツマミは、リミッティング後の出音を大きく変える印象です。まず、Driveによって中域が派手になり、音像が前に出てきます。そして、Lo Punchによって強調されたローエンドがリミッターに先に強く当たり、ひずんだ状態で強く出力されることになります。このつぶれながら出てくる低域のパンチ力には、アメリカのヒップホップやトラップ、ダブステップのローエンド感に近いものを感じました。これは単にEQなどで突いてリミッターに突っ込んだだけではなかなか実現が難しいので、気に入った部分です。また、画面右端にCGM(Constant Gain Monitoring)ボタンが実装されたのも良いですね。Gainで上げたレベルの分ボリュームを下げてモニターできる機能で、純粋に付加した効果を有り/無しで比較することができます。

 ほかの同系統のプラグインに比べると、音圧爆上げ処理にはさほど強くない印象です。その代わり、音源の質感を損なうことなく仕上げることが簡単に素早く実現する上、これでしか出せない独特の質感(特にロー感)を演出できると思いました。また“トランジェントを維持してクリアな仕上がりを実現する”という、先代FG-Xから引き継がれた理念は健在です。その上で新たに何ができるかという点に着目した、文字通りの進化版FG-X “2”であると感じました。

 デモ提出が多く、質を担保した2ミックスを素早く作りたいあらゆるジャンルの音楽クリエイターや、これでしか得られない独特の質感をそのままマスタリングでも使用したいユーザーにお薦めできる、優れたリミッターだと思います。

 

SUI
【Profile】作曲、トラック・メイクからボーカルのディレクション、ミックス・ダウン、マスタリングまで手掛ける作家/プロデューシング・エンジニア。近年は劇伴やCM音楽にも活躍のフィールドを広げている。

 

SLATE DIGITAL FG-X2

33,000円

SLATE DIGITAL FG-X2

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS10.14以降
▪Windows:Windows 10/11
▪共通項目:Intel Core I5以上のCPU、4GB以上のRAM、OpenGL 3.2+以上対応のGPU
▪対応フォーマット:AAX、AU、VST2、VST3
▪オーソライズ方式:iLok2/3

製品情報

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