MONHEIM MICROPHONES Monheim Channel Strip レビュー:Motown EQやPULTECのEQの要素を取り入れたチャンネル・ストリップ

MONHEIM MICROPHONES Monheim Channel Strip レビュー:Motown EQやPULTECのEQの要素を取り入れたチャンネル・ストリップ

 今回は、ハリウッドに拠点を置くブランド、MONHEIM MICROPHONESの新製品であるMonheim Channel Stripをレビューしていきます。このブランドは数種のマイクを中心とした製品群をすでに発売していますが、他社機材の修理やカスタムなどのサービスも提供しているようで、基本的にすべての作業をLAの社内で行い、創立者であるアンドリュー・モンハイム氏自ら一つ一つの製品をチェックしていることを売りにしています。こういう会社はさまざまな機材の構造や歴史に精通しており、信頼が置けるイメージがあります。

真空管タイプのマイクプリとEQを搭載 EQ2はエアー・バンドとしても使える

 チャンネル・ストリップにもいろいろなタイプがありますが、Monheim Channel Stripは、真空管タイプのマイクプリとEQを中心としつつイン/アウトのトランスや諸機能を統合した製品で、コンプレッサーは非搭載です。まずは機能面を簡単に追っていきましょう。

 フロント・パネル左には、トランスのゲインおよびサチュレーションのコントロール、バイパス可能な真空管プリアンプ、ファンタム電源とライン入力端子(フォーン)を備えたインプット・セクション(XLRイン/アウトはリア・パネル)があり、その右には16~200Hzまでのステップ式のローカット・セクションが続きます。そして中央に並ぶのは、この機材の売りでもある2つのEQセクションです。EQ1はMotown EQにインスパイアされたという3バンドEQで、周波数は可変でブースト/カットが可能。EQ2はPULTECスタイルで、ミッドのみの1バンドEQ。同じくブースト/カットが可能です。周波数は90Hz~1.7kHzですが、周波数を10倍にするX10スイッチがあり、オンにすることでエアー・バンドのEQとして使用することができます。EQセクションの右には、色付けが少ないというアウトプット・ゲイン・ノブ、位相の切り替えスイッチとアウトプット・トランスの比率切り替えスイッチ(1:1と2:1)を備えるアウトプット・セクション、そして、4段階に切り替え可能なVUメーターが並んでいます。

リア・パネル。左から、ライン・アウト2(TRSフォーン)、ライン・アウト1(XLR)、ライン・イン(XLR)が並ぶ。電圧は117〜230V対応

リア・パネル。左から、ライン・アウト2(TRSフォーン)、ライン・アウト1(XLR)、ライン・イン(XLR)が並ぶ。電圧は117〜230V対応

高域が滑らかで解像度も高い インプットで積極的な音作りができる

 チャンネル・ストリップという機材はほかにもいろいろ発売されていますが、やはり選択の決め手となるのは音質そのものでしょう。ということで、実際にボーカルを中心に、複数のソースを録音して、使用感や音の印象を見てみました。

 まずはEQセクションをバイパスして、マイクプリのみを使用。インプット・セクションは、トランスのサチュレーションと真空管マイクプリの音をコントロールすることで、いろいろなパターンのサウンドが得られるようになっています。まずは比較的クリーンと思われる設定にしてみたところ、基本的に真空管タイプらしい、滑らかな高域がありつつ解像度も高く、程良く密度のある音が得られました。ミッドがしっかりしていて、現代的なレンジ感も持っているという印象です。

 トランス、マイクプリ、それぞれのゲインを上げていくと、かなりひずみ感、倍音感が出てきます。当然ゲインも持ち上がりますが、後段には色付けの少ないアウトプット・ボリュームがありますので、インプットを強めにドライブさせるような音色作りにも対応できます。今回は残念ながらDIインプットのテストができなかったのですが、説明を見る限り、こちらも非常に期待できそうです。真空管なので、特にベースには試してみる価値があると思います。

 次にEQセクションを使用してみます。まずはローカット・セクションから。非常に滑らかで、位相の崩れも少なく感じます。個人的にローカットの音質は、実機がソフトウェアに大きく勝ることが多い部分だと感じているのですが、大ざっぱな設定しかできない機種も少なくないため、ステップ・タイプながら数値的に細かく設定できるのは非常にありがたいと感じました。

 続いてはEQ1セクション。こちらは真空管EQになっており、うたい文句は“Motown EQにインスパイアされたパッシブのワイド・ベル・タイプ”。あくまで“インスパイア”ということで、そこまで仕組みや周波数ポイントをなぞっているわけではないのですが、日頃オリジナルのMotown EQを使用している筆者が感じた共通点が一つあります。それは、ツマミを回したときに“EQをかけた”という感じの音の変化が少なく、“音色そのものが変化しているような感覚”があるということです。おそらくブースト/カットの量に応じてQ幅が変わる仕様だと思うのですが、このナチュラルさが、Motown EQがさまざまな楽器に適用しやすく、“録音時にかけてしまっても構わない”と思わせる部分だと考えています。チャンネル・ストリップといっても、ほとんどマイクプリしか使用していないというケースも実際少なくないのですが、本機のEQセクションは録音時に積極的に使用しやすく、かけ録りすることのデメリットも少ないのではと感じました。

 さらにEQ2セクションも試しましょう。こちらもワイド・ベルでナチュラルな効き方をするので、非常に使いやすいです。説明にもある通り、PULTECのEQの使用感に近いと思います。X10スイッチをオンにすると、どちらかというとやや太めに上がるイメージで、そこまでシャープなエアーという感じではないように思いました。

 アウトプット・ボリュームは、インプットとは逆で非常にクリーンな印象。これはインプット・セクションで積極的な音作りをする場合に大きな助けとなります。なお、トランスの比率を2:1に設定すると、高域が落ち着いて、少しマットな質感が得られるように感じました。これも狙いのサウンドに合わせて、その都度選択するのが良いでしょう。

 駆け足で紹介しましたが、Monheim Channel Stripは基本的に1台で多様なケースに対応できるように設計されています。1chあれば十分で、いろいろなタイプの音作りに対応したいという方には、非常に良い選択肢となりそうです。また、名機の特徴をただなぞるのでなく、その本質を理解しておいしいところをしっかり再現しているところからも、当ブランドの機材設計に対する理解の深さがうかがえます。会社としてメインテナンスのサポートも手厚いようなので、じっくり使い込んでみる価値のありそうな機材だと感じました。

 

檜谷瞬六
【Profile】prime sound studio formやstudio MSRを経て、フリーランスで活動するレコーディング/ミキシング・エンジニア。ジャズを中心にアコースティック録音の名手として知られる。

 

 

 

MONHEIM MICROPHONES Monheim Channel Strip

429,000円

MONHEIM MICROPHONES Monheim Channel Strip

SPECIFICATIONS
▪外形寸法:447(W)×80(H)×280(D)mm ※Wはラック耳込みで483、Dは突起込で300 ▪重量:5.6kg

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