MeldaProduction MCenter レビュー:複雑なアルゴリズムを備え周波数ごとにM/S成分を調整できるプラグイン

MeldaProduction MCenter レビュー:複雑なアルゴリズムを備え周波数ごとにM/S成分を調整できるプラグイン

 MeldaProductionはチェコのプラハに拠点を置くプラグインブランドで、2008年に創業しました。製品ラインナップが多岐にわたり、このブランドにしかないユニークなものも多く、特に新しい音を作りたいトラックメイカーから絶大な支持を受けています。また、フリープラグインの豊富さは特筆に値するレベルで、他社には見当たらないようなエフェクトが無償提供されていて驚くことも。ビンテージ機材のシミュレーションではないエフェクトを追求する稀有なブランドなので、新しい製品には期待が高まります。

MidとSideを正確に分離させるための仕組み

 今回紹介するMCenterは、Mid/Side成分を正確にコントロールするというエフェクト。WindowsではAAX/VST/VST3、それらに加えてMac OSではAUに対応しています。

 さて、2台のスピーカーから同じ音が同じ音量で鳴っているときに、人間の耳は中央にスピーカーがなくとも真ん中から音が鳴っているように錯覚します。幻のように音が中央から聴こえるため、これを“ファンタムセンター”と呼びます。このファンタムセンターと、それ以外の成分を切り分けて個別に音作りするのがMid/Side(M/S)処理です。M/S処理は1934年にEMIのアラン・ブラムレインによって発明されました。ミキサーのパンポットと位相反転スイッチの操作で実行できますが、そこに複雑なスペクトルアルゴリズムを使い、従来よりも正確な分離を目指したのがMCenterです。また、周波数ごとにMid/Side成分を調整できたり、時間軸上でのコントロールが可能だったりと、これまでは不可能だった機能を備えるのが大きな特徴です。

 Mid/Sideの成分をシンプルにコントロールするだけなら直感的に扱えそうですが、このプラグイン特有の操作子があるので、上掲の画面に沿って解説していきましょう。まずは画面左上のCENTER/SIDES。このノブは、ファンタムセンター(以下センター)とSide成分(以下サイド)のバランスを調整するものです。反時計回りに振り切るとセンターのみ、時計回りに振り切ればサイドのみになります。その右にあるMIDSIDE/SPECTRALノブは、従来のM/S処理と、先述の複雑なスペクトル処理の比率をコントロールします。スペクトル処理には副作用もあり、従来のM/S処理の方が合うケースもあるため、ブレンドできる仕様となっているようです。下部のエンベロープグラフは、X軸に周波数、Y軸にセンター/サイドのどちらにどれだけ振るかを表示。グラフをドラッグすると、画面で示しているようにペンシルツールで設定を細かく書き込めます。

強力かつユニークなモジュレーションが可能

 表に出ているメインのコントロールはこれくらいなのですが、パラメーターがとにかく多く、サブメニューで微に入り細に入り調整できる仕様です。中でも特に目を引いたのが、右下“UTILITIES”にある強力なモジュレーション機能。

UTILITIESにある“Mod 1”(モジュレーター1)を開いたところ。LFOが表示されており、画面右のPARAMETER LISTでデスティネーションを設定する。このリスト内で選択中の“Center / Sides - Point 2 Y”は、エンベロープグラフに書き込んだ2つ目の周波数ポイントのY座標を表しており、LFOモジュレートすることでY座標がセンター側とサイド側を行き来する。その動きは、エンベロープグラフでリアルタイムに見えるので分かりやすい。また、こうしたモジュレーションを複数の周波数に設定すれば、いろいろな帯域がセンター側とサイド側を常に行き来するストレンジなサウンドを作ることもできるだろう

UTILITIESにある“Mod 1”(モジュレーター1)を開いたところ。LFOが表示されており、画面右のPARAMETER LISTでデスティネーションを設定する。このリスト内で選択中の“Center / Sides - Point 2 Y”は、エンベロープグラフに書き込んだ2つ目の周波数ポイントのY座標を表しており、LFOモジュレートすることでY座標がセンター側とサイド側を行き来する。その動きは、エンベロープグラフでリアルタイムに見えるので分かりやすい。また、こうしたモジュレーションを複数の周波数に設定すれば、いろいろな帯域がセンター側とサイド側を常に行き来するストレンジなサウンドを作ることもできるだろう

 これを深掘りしていくと、相当にエフェクティブな処理が行えます。例えば、各周波数ブロックがセンターとサイドを行き来するトレモロパンのようなうねりを作ったり、それを付点4分音符のタイミングで動かしたりと、パワフルな飛び道具ツールとして使えそうです。

ピントが甘い生音キックをグッとタイトにできる

 実際に使ってみた感触としては、やはり周波数ごとにセンターとサイドをコントロールできるプラグインはほかに見当たらないので、これでしか作れない音があると思いました。特に近年課題となっている、低域成分の広がりの調整には重宝することでしょう。例えば、生ドラムのキックはオーバーヘッドやタム類などのマイクにもかぶっているので、バチッと中央定位ではなくピントが少しボケた感じになりますが、低域だけMCenterで中央にまとめると、グッとタイトになります。狙いの箇所だけ、ペンシルツールでピンポイントにステレオ幅を変えられるのは、思った以上に便利です。

 試しに、MIDSIDE/SPECTRALノブを回し、従来のM/S処理(MIDSIDE)とスペクトル処理(SPECTRAL)の両方をステレオメーターでチェックしてみたところ、MIDSIDEだとCENTERに振り切ったときに縦線、SIDESに振り切ったときに横線が表示されますが、SPECTRALの場合はサイドの定位感がL/Rで再生したときの幅とほぼ変わりませんでした。本当に、元の音からセンターだけを抜いたような音になるので、従来のM/S処理よりナチュラルに感じます。ただし、わずかに位相が変化する雰囲気があるので、それを補正するためにMIDSIDE/SPECTRALノブが付いているのでしょう。

トレモロともフェイザーとも違う斬新な効果

 モジュレーション機能も試してみたところ、トレモロともフェイザーとも言えない、聴いたことのないサウンドが作れました。シューゲイザーやアンビエント系の隠し味として使ったら面白そうです。このモジュレーションのセクションは1日、2日では試し切れないほど充実しており、研究のしがいがありそうです。M/Sをコントロールするだけのプラグインだと思って触りはじめたので、こんなことまでできるのか!と、正直驚きました。調整ツールとしてだけではなく、何か目新しいエフェクトを探している人にもお薦めです。

 

中村公輔
【Profile】折坂悠太、宇宙ネコ子、大石晴子らを手掛けるエンジニア。アーティスト活動も行い、ドイツの名門=Mille Plateauxなどから作品を発表。以降はKangarooPawとしてソロ活動を展開する。

 

 

 

MeldaProduction MCenter

beatcloud価格:7,830円

MeldaProduction MCenter

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以上(64ビット)、intelかAMDのCPUもしくはAppleSilicon、AAX/AU/VST/VST3対応のホストアプリケーション(64ビット)
▪Windows:Windows 8/10/11(64ビット)、intelもしくはAMDのCPU(SSE2命令セットをサポートするもの)、AAX/VST/VST3対応のホストアプリケーション(64ビット)

製品情報

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